ep 22
凱旋と新たなる試金石、A級への挑戦
オークリーダーを討伐し、ミルラの村人たちからの万雷の感謝の言葉をその胸に深く刻み、リュウとセーラは、来た時とは比べ物にならないほど軽い、しかし確かな自信に満ちた足取りで、冒険者ギルドのあるアルクスの街へと向かった。村を包んでいた夜の静けさが嘘のように、二人の心は大きな達成感と、強敵を打ち破ったことによる高揚感で満ち満ちていた。
「それにしても、オークリーダーは本当に手強かったな。あの巨体と、全身を覆う分厚い鎧には本気で参ったよ。でも、あのタイミングでレベルアップして、槍の使い方が何とかなったし、最後の最後は毒も効いてくれた。本当に、紙一重だったな」リュウは、興奮冷めやらぬといった様子で、昨夜の激戦の記憶を熱っぽく振り返った。
セーラは、リュウのその言葉に、まだ少しばかり心配そうな表情を浮かべながらも、深く頷いた。「ええ、リュウ様。本当に、見ていて肝が冷えるような戦いでしたわ。でも、あの時、もしわたくしの回復魔法がほんの少しでも間に合わなかったらと考えると……。リュウ様、決して油断は禁物ですわ。この世界には、オークリーダーよりも、もっともっと強い敵が、きっとたくさんいるはずですから」
リュウは、セーラのその真摯な忠告に、表情を引き締め、真剣な眼差しで頷いた。「ああ、分かってる、セーラ。今回の戦いで、まだまだ自分の力が足りないってことを、嫌というほど痛感したからな。ウェポンズマスターになれたからといって、それで終わりじゃない。これからも、一日一日しっかりと精進していくつもりだよ」
アルクスの街に戻り、馴染み深い冒険者ギルドの重厚な扉を開けると、そこには昼間の活気がすでに戻っていた。依頼を探す者、仲間と情報を交換する者、酒場で戦利品を肴に盛り上がる者。様々な目的を持った冒険者たちが、それぞれの時間を過ごし、ギルド全体が熱気に満ちている。その喧騒の中に足を踏み入れたリュウとセーラは、自然と互いに顔を見合わせ、笑みがこぼれた。自分たちが成し遂げたことへの確かな誇りと同時に、この場所からまた新たな一歩を踏み出すのだという、清々しい期待感に胸が膨らんでいた。
二人は、まっすぐに受付カウンターへと進んだ。いつものように人懐っこい笑顔で迎えてくれる栗色の髪の受付嬢に、リュウはオーク退治の完了を、少しばかり誇らしげな声で報告した。「すみません、先日受注したオーク退治のクエスト、完了しました。ミルラの村からの報告も、もう届いているかと思います」
「リュウ様、セーラ様、お帰りなさいませ! オーク退治の任務、大変お疲れ様でございました!」受付嬢は、二人の顔を見るなり、その声に心からの労いを込めて、明るい声で出迎えた。
リュウは、その言葉に頷き、少しばかり声を弾ませて続けた。「はい、ありがとうございます。実は、オークの群れを討伐している途中で、予期せずオークリーダーに遭遇しまして……。正直、かなり苦戦を強いられましたが、なんとか二人で力を合わせて倒すことができました」
受付嬢は、リュウのその言葉に、驚きで美しい目を大きく丸くした。「オークリーダー、でございますか!? それは……それは本当に、大変な戦いだったことでしょう! まだD級に昇格されたばかりのお二人が、あの凶暴なオークリーダーを討伐されるとは……本当に、本当に素晴らしいです! よくぞ、ご無事でお戻りになられました!」彼女の声には、もはや隠しようもない、心からの驚きと、二人の武勇に対する深い尊敬の念が込められていた。
受付嬢は、これは一刻も早くギルドマスターに報告しなければならない最重要案件だと瞬時に判断したのだろう。「リュウ様、セーラ様、少々お待ちいただけますでしょうか。すぐにギルドマスター、バルガス様にお伝えしてまいります!」そう早口で言うと、彼女は興奮で頬を上気させながら、慌ただしく奥のギルドマスターの執務室へと続く扉の向こうへと消えていった。
残されたリュウとセーラは、カウンターの前で顔を見合わせ、どちらからともなく小さく、しかし満足げな微笑みを交わした。ミルラの村の人々からの涙ながらの感謝も、もちろん何物にも代えがたいほど嬉しかった。だが、こうして冒険者ギルドという、いわば同業者たちの集う場所で、自分たちの命がけの働きと成長が認められるというのもまた、じんわりと心が温かくなるような、格別な喜びがあった。
しばらくして、先ほどの受付嬢が、少し息を切らせながら小走りで戻ってきた。「リュウ様、セーラ様、大変お待たせいたしました! ギルドマスター、バルガス様が、お二人にお会いしたいと仰っております。どうぞ、こちらへ」彼女の表情は、先ほどよりもさらに興奮し、そしてどこか誇らしげな輝きを宿しているように見えた。
二人は、受付嬢に恭しく案内され、ギルドの最も奥まった場所に位置する、重厚なマホガニー材の扉の部屋へと通された。扉を開けると、そこは外の喧騒とは完全に隔絶されたかのように静かで、威厳に満ちた、しかしどこか落ち着いた雰囲気が漂っていた。その部屋の主であるギルドマスター、バルガスが、大きな革張りの椅子に深く腰掛け、書類に目を通していた。
「よく来たな、リュウ、そしてセーラ」ギルドマスターは、二人の入室に気づくと、ペンを置き、その厳めしい顔に柔和な、しかし威厳を損なわない笑みを浮かべた。「オークリーダー討伐の件、受付の者から詳しく聞いた。D級冒険者でありながら、あのオークリーダーを、しかも二人だけで討伐するとは、実に素晴らしい。見事な働きだった」彼の低い、しかしよく通る声には、心からの称賛が込められていた。
リュウは、その言葉に少し照れたように頭を下げて答えた。「ありがとうございます、ギルドマスター、バルガス様。ですが、本当に……本当にギリギリの戦いでした。セーラの回復魔法と、そして幸運がなければ、今頃どうなっていたか分かりません。まだまだ、自分たちの力不足を痛感しております。もっともっと、強くならなければならないと、改めて思いました」
ギルドマスター、バルガスは、リュウのその謙虚な言葉に、深く、そしてゆっくりと頷いた。「その通りだ、若者よ。冒険者とは、常に高みを目指し続ける存在でなければならん。現状の力に満足し、歩みを止めた瞬間、そこで成長は終わってしまう。お前たちには、その先を見据えるだけの確かな素質がある。今回のオークリーダー討伐という類稀なる功績は、それを何よりも雄弁に証明しておる。これからもその向上心を忘れず、日々精進し、いずれはS級冒険者という、このギルドの頂点を目指してくれ。お前たちならば、あるいは……」
リュウとセーラは、ギルドマスターのその温かく、そして力強い激励の言葉に深く感激し、互いに顔を見合わせた。「ありがとうございます! バルガス様のご期待に応えられるよう、精一杯頑張ります!」二人は、まるで一つの声であるかのように、声を揃えて力強く答えた。
その時、ギルドマスター、バルガスは、ふとリュウの冒険者カードに目を落とし、そこに記された情報を確認した。すると、彼の太い眉がわずかにピクリと上がり、興味深そうな、そしてどこか驚きを隠せないような表情を浮かべた。「ほう……リュウ、お前のジョブが、『ウェポンズマスター』に変わっているな。これは……」
リュウは、ギルドマスターのその言葉に、ハッとして自分のステータスを思い出した。オークリーダーとの戦いの後、確かにレベルアップと共に職業名が変わっていたのだ。「えっ、あ、はい! そうなんです! 実は、自分でもまだよく分かっていないのですが……!」
ギルドマスター、バルガスは、その鋭い双眸でリュウをじっと見つめながら、深く頷き、ゆっくりと説明を始めた。「ウェポンズマスターとは、その名の通り、武器使いの最上位に位置する、いわば伝説級のジョブだ。ありとあらゆる武器の扱いに精通し、その神髄を極めた者だけが到達できる境地であり、並大抵の鍛錬や才能では決して到達できない、非常に稀有な存在だぞ」
隣で聞いていたセーラは、目をキラキラと輝かせながらリュウを見た。「リュウ様、本当に、本当に凄いですわ! まさに、選ばれし勇者様です!」
ギルドマスターは、二人のその興奮を穏やかに手で制するようにしながら、さらに言葉を続けた。「特に、ウェポンズマスターの最も特筆すべき、そして恐るべき能力は、武器を亜空間に自在に収納し、そして必要に応じて、瞬時に、かつ意のままに取り出すことができるという能力だ。これは、戦闘において、計り知れないほどの強力なアドバンテージとなる」彼は、その能力の戦略的価値を熟知しているようで、その声には隠せないほどの興味が滲んでいた。
「リュウよ、お前のそのウェポンズマスターとしての新たな能力、そしてオークリーダーを討伐したその実力を、この私に試させてもらえないだろうか?」ギルドマスター、バルガスは、それまでの柔和な表情を一変させ、真剣な、そして挑戦的な眼差しでリュウを真っ直ぐに見つめた。「もし、これから行う模擬戦闘で、我がギルドのA級冒険者に勝つことができれば、お前たち二人を、特例としてA級冒険者として認定しよう。どうだ、受けてみるか?」
そのあまりにも突然で、そして破格の提案に、リュウは息を呑んだ。A級冒険者。それは、このアルクス冒険者ギルドにおいても、一握りの実力者たちだけに与えられる、栄誉ある称号だ。D級の自分たちが、いきなりそのA級に挑戦する機会を得られるなどとは、まさに夢にも思わなかった。一瞬、あまりにも大きな飛躍に対する戸惑いと、失敗した時のことを考えるわずかな迷いが頭をよぎった。しかし、ギルドマスター、バルガスのその期待に満ちた力強い眼差しと、自分自身のウェポンズマスターとしての新たな力への自信が、リュウの背中を強く、そして熱く押した。
「……分かりました、バルガス様」リュウは、ごくりと唾を飲み込み、覚悟を決めたように力強く頷いた。「その挑戦、謹んでお受けさせていただきます」
隣に立っていたセーラは、リュウのその決意をしっかりと受け止め、一歩前に出ると、彼の隣に毅然として立ち、ギルドマスターに向かってきっぱりと言い放った。「わたくしも、リュウ様と共に戦わせていただきます。私たちは、二人で一つのパーティーでございますれば!」彼女の澄んだ瞳には、一点の曇りもない、揺るぎない決意が宿っていた。
ギルドマスター、バルガスは、二人のその若さに見合わぬ強い覚悟と、互いを信頼し合う固い絆に深く感心したように、満足そうに、そして力強く頷いた。「よかろう。その意気や、良し。ならば、すぐに模擬戦闘の準備を始めよう。相手を務めるA級冒険者は、このギルドでも屈指の実力者だ。心して、そして全力で挑むように」そう言うと、ギルドマスターはゆっくりと立ち上がり、部屋の奥に控えていたギルド職員に、厳かに指示を出し始めた。
リュウとセーラは、互いに顔を見合わせ、言葉はなくとも、静かに、しかし強く頷き合った。A級冒険者との模擬戦闘。それは、今の自分たちの実力を正確に測る絶好の機会であり、同時に、これまでのどの戦いよりも厳しい、大きな試練となるだろう。しかし、二人の心には、拭いきれない緊張感と共に、それを上回るほどの新たな挑戦への期待と、必ずや勝利を掴んでみせるという、燃えるような強い決意が込み上げていた。ギルドマスター、バルガスの執務室には、静かな、しかし確かな興奮と、これから始まるであろう激しい戦いの予感が、濃密に満ちていた。




