入部(4/5)
能力者を集めて悪と戦う将棋オセロ部。入部させたい長谷川と木の実と反対する都。そこに現れたのは…
……
ガラガラーン!
少しの沈黙を、勢いよくドアを開ける音が打ち破る。
振り返るとメガネを掛けた青ネクタイの男子生徒が息を切らしながらスマホの画面をこちらに向けていた。
2年男子:近くの公園で能力者が暴走してる!!!
長谷川:どれ?分かったわ。行くわよ
先輩方:はい!
長谷川:大翔も来て貰うわ
大翔:え、はい…
急に呼び捨てで呼ばたことに多少引っかかったことはさておき、先輩方についていく形で校舎を出て、長谷川先生の車に乗り込んだ。先生の車は5人乗りで、助手席に都先輩、後部座席に男の先輩、俺、木の実先輩が座った。
2年男子:僕は佐々木圭吾。君が石田君かい?
大翔:はい。石田大翔です
佐々木:大翔。よろしく
佐々木:今から向かう場所では、おそらくパチンコの能力者がいる。危ないから、君は車内から見学していてくれ
大翔:はい…
これから何が起こるか理解できていなかった俺は、その言葉に少し安心した。佐々木先輩は、とても優しく頼りがいのある真面目そうな人だと感じた。
ふと佐々木先輩の左手に目を落とすと青の魂ウォッチをしていた。少し見てはいけないものを見てしまったような気持ちになり、すぐに目をそらした。
長谷川:もうそろそろ着くわよ。
佐々木:相手は遠距離から攻撃してくる。まず、凛は車の中から不快音で、攻撃の手を緩めさせてくれ。その隙に僕が近づいて敵を無力化する
佐々木:木の実先輩と先生はラッソーガン(投げ縄銃)で拘束お願いします
佐々木:あと木の実先輩、これお願いします
木の実:がってん!
佐々木先輩はそう言って、左手に着けていた魂ウォッチを外し、目を瞑り祈るように額に当ててから木の実先輩に渡した。
木の実先輩は、おもむろに座席の下からまな板とハンマーを取り出し、まな板の上に魂ウォッチを広げた。
そして、魂ウォッチに向かって勢いよくハンマーを振りかざした。
大翔:ちょっと!何やってるんですか!
佐々木:いいんだ…
大翔:佐々木先輩、ちょっと悲しそうですよ!
木の実:私も心苦しいんだけどねー。でも、必要なことなの。後でわかるよ
ほがらかな木の実先輩のサイコパスな一面に困惑している間に、例の公園に到着した。
公園の脇に車を止め、車内から様子を伺うと、真っ赤なトゲトゲモヒカンのいかにも悪い奴という見た目の男が、公園の真ん中で叫んでいる。
モヒカン男:パチンコ!!パチンコォォォ!!!!
男の周りには、小石が浮かび上がっており、叫び声と共に周辺の家に向かって小石が高速で発射される。
既に避難が済んだのか、周りには人気が無かったので、人的被害は出ていないようだった。その点は少し安心したが、能力を悪用してこんなことをする奴がいることが信じられなかった。
モヒカン男:んー?
男がこちらに振り向く。こちらに気づいたようだ。
緊張感が一気に高まったところで、佐々木先輩が声を上げる。
佐々木:凛、頼んだ!
都:うん!
すると、モヒカン男は耳を抑えてその場に座り込んだ。その隙に佐々木先輩は外に出て、男の方に走って向かう。その右手にはいつの間にか、黒い日本刀のようなものが握られていた。
木の実:あれが圭吾の能力。さっき壊した魂ウォッチが日本刀に生まれ変わったの
魂ウォッチという部分に引っかかるが、武器を作り出すというのは非常に厨二心をくすぐられる、などと考えている間に、佐々木先輩はモヒカン男の側まで近づいていた。
刀で斬りかかろうとした瞬間、佐々木先輩は後ろによろける。どうやら、直前にモヒカン男がパチンコを放ち、それをガードして後退したようだった。
モヒカン男:パチンコォォォ!!!
佐々木:くっ…
さっきまで座り込んでいたモヒカン男だったが、耳を防ぎながら立ち上がり、パチンコで反撃を始めた。
佐々木先輩は人間離れした動きで、上手くパチンコを避けたり、刀で小石を切り刻んでいたが、防戦一方となってしまった。
長谷川:少しまずいわね…
ラッソーガンは縄を発射して相手を傷つけずに拘束できる銃です。一般人も護身用で持っていることもあるようです。