席替え
席替え
それは学生においてドキドキする大きなイベントの1つだ。この席次第で学校に行くモチベーションが変わると言っても過言ではない。
そして公平なあみだくじの結果、俺は窓際の一番うしろというこれからのことを見つめ直すのにベストな位置に座れた。そして木下さんは真ん中の列の後ろから二番目。出来れば黒板と被る斜め前ぐらいに居てくれるとテンションが上がるのが仕方ない。斜め前に座っている七瀬さんも可愛い子なので十分いい席である。
「よし、全員移動出来たわね。じゃあ高橋くんと風間くん場所交換して」
「はっ?」
高橋は教卓の目の前という、授業中に先生と黒板しか見えなぃ死に席だ。それを只今天国席に座っている俺と変われだと。俺、先生になんかしたのか?
「先生、なんで俺が高橋と変わらないといけないんですか」
「さっき廊下で九条くんに会ったら、勉強に集中出来る席にしてあげて下さいってお願いされちゃったのよ。」
アイツ殺す
「先生、翔吾を殺してくるので少し時間下さい」
「認めません。あの子学年1位だし、素直で授業真面目に受けてくれるのよ。女子生徒ばかり追いかけてるだれかさんと違ってね」
先生は明らかに俺が木下さんを求めて授業妨害してたのを根に持ってやがるな。
けどこればっかりは仕方ないか。自分が、悪いということは認めざるを得ない。翔吾のせいってのが納得いかないけど、これ以上先生の言うことに反論しても反感かうだけだろうし。
俺は仕方なく席を高橋と入れ替えた。
すれ違い様の高橋の笑顔が妙にムカつき翔吾の前に消してやろうかと思ったが、その前に先生から殺気が飛んできて思いとどまった。
「まさか楓斗んと隣になるとはね。」
「火元か、よろしくな」
「早速ナンパしてないで、授業始めるわよ。」
「先生、俺にも選ぶ権利はあると思います。」
「楓斗ん、今の喧嘩うってんの?」
「静かに!さっさと教科書出しなさい」
「「はーい」」
■
新しい席になって生まれ変わった勉強大好き真面目な生徒風間くんを先生たちに浸透させてやろうと思ったのだが、火元のやつがちょこちょことそんな俺の野望を妨害してくる。
そして待望の授業終了のチャイムが鳴り響く。
「よし、行くか」
「楓斗ん、どこ行くの?」
俺は体中に気合を入れて立ち上がると、そんな俺を火元は不思議そうに見ている。
「ちょっと今から翔吾殺してくるわ」
「コンビニ行くみたいなノリで言わないでよね」
「痛みを感じずに逝かしてあげるのは俺からのせめてもの優しさだ」
「どんな優しさよ。」
的確なレスポンスによるツッコミ。さすがは火元だ。火元とは割りと砕けた感じで話せる女子だ。まあ木下さんと仲がいいってのもあってクラスではよく3人で話してから慣れてきたのかな。コイツと話すのは楽しいんだよな。木下さんとは別の楽しさがある
「しゃーない、ウチも一緒に行ってあげるよ」
「なんで?」
「まあいいからいいから、レッツゴー」
相変わらずの軽い感じノリで俺の背中を押して教室の出口へと誘導する。
■
「楓斗ん、あれ見てみなよ。」
翔吾の教室を先に覗いた火元が誰かを指さしている。まあ翔吾だと思うんだけど。
「あの野郎・・」
なんでいつも一人で寝てんのに今日に限って女子に囲まれてるんだよ。翔吾の席を囲むように360°女子の壁を設置している。
「あれは諦めるしかないね。」
「複数の女子とイチャイチャしているなんて女の敵だ。翔吾を殺してあの女子たちを救ってやらねば」
「イチャイチャって話してるだけじゃん」
「たくさんの女子に気を持たせようとしてるのは重罪だろ」
「いいの。九条くんイケメンなんだから」
「イケメンならなにやってもいいのか?」
「だから話してるだけでしょ。周りの子達もイケメンと話せてラッキーって顔してるよ。」
くそ、確かに火元が言うように女子たちは楽しそうだ。
「だから諦めなよ」
くそ、イケメンってだけでこの格差。
ん、待て、この状況女子にはいいかもしれんが、男子にとっては良くない状況のハズ。ほら、隣の男子とか迷惑そうな顔をしている。
「世のモテない男子代表としてイケメンを排除するという新たな役目を神が与えて下さったようだ。」
「諦め悪いね」
「何事も諦めないと言ってくれ」
火元が俺を憐れむような目で見てくるが気にしない。あの野郎、人を陥れておいて自分だけ呑気に女子とおしゃべりとか許せん。
自分だけが幸せになれると思うなよ。
「重力魔法・・」
机にキスさせてその爽やかな笑顔を台無しにしてやるよ。翔吾を見ていると何故か翔吾もニヤリと笑う。どうやら覚悟が出来てたみたいだな、くらえ翔吾。
「楓斗、女連れてどうしたんだよ!」
「はっ?」
突然翔吾が大きな声で俺を呼んだことで、クラスや廊下に居た生徒たちの視線が一気に集まる。
あの野郎、このタイミングを狙ってやがったな。笑顔でこっちに手ぇ振ってんじゃねぇよ。
火元を見ると真っ赤な顔をしている。そりゃ好奇心で付いてきた結果、俺と二人で居るということを翔吾のクラス中に見られたら恥ずかしいよな。
これ以上は火元が耐えられないだろうし、ここは一時撤退だ。
「火元、行くぞ。」
真っ赤な顔をした火元の手を握る。初めて手を繋いだ女子の手は思ったより、柔らかく温かい。火元の温もりが伝わってくる。こんなこと思ってるなんて伝わったらキモいって思われんだろうな。
「【消失魔法】」
これ以上火元を公然の視線に晒すわけには行かず、一旦姿を消して俺等の教室付近まで行き、人気が無くなったのを見計らって魔法を解除した。
「二人で愛の逃避行みたいだったね。」
魔法を解いて改めて見た火元の顔はいつもよりまだ赤い気がするが、明るく笑う彼女の笑顔はいつも見ている姿で安心する。
「相変わらずお気楽なやつだな。」
「にしししっ、ほいじゃ、ウチ先に教室戻るね。」
ホント陽キャは凄いな。慣れてんのかな?アイツ友達多そうだし、俺なんてまだ握った手がドキドキしてるよ。
俺も少し気持ちを落ち着かせてから教室に戻ると、火元はまだ教室に入らず中を覗いていた。
「楓斗ん、あれ見てみなよ。」
火元が指さした先には木下さんを中心に飯田さん、峯岸さん、高橋、宮川が集まっていた。
「姫っちが何気にウチら抜きでほかのクラスメートと話してるなんてレアじゃあない」
「木下さんはあれでいいんだよ。」
その姿は何も違和感ない。俺が邪魔してしまっていたのかと思ったけど、自意識過剰過ぎたな。木下さんの魅力にクラスメートが気付かないわけないんだ。ほっといても周りから人が集まってくる。
「なんで急に名字呼び?」
「嫌なんだってよ」
不思議そうに見てくる火元。そりゃそうか。昨日まで、事ある度に朝姫の名前を呼んでたもんな。
「そんなことでめげないでしょ」
「まぁ本人が嫌がってるんだから仕方ないだろ」
それがめげるようになったんですよ。ってか他の人に言われると少し恥ずかしいな。
「負け犬」
「ぐっ。」
そうですよ、負け犬ですよ。諦めて尻尾巻いて逃げますよ、だって仕方ないだろ。俺だって頑張ったんだぞ。
「ウチらも混ざっちゃう?」
「いや、俺はいいや。」
火元が親指を木下さんのグループへと指差す。
俺が行くことで変わる何かがあるように、俺が行かないことで変わる何かもあるのだろう。だから俺は極力関わらないようにした方がいいんだよな。
「寂しくないの?」
「まぁ俺はお前が横に居てくれるからいいや」
「それって告白?」
「ちげーよ」
冗談で返したつもりなのに、妙に照れた顔して火元は俺から目を反らすと木下さんのグループへと突撃していった。あーやって普通にグループへと入って行けるコミュ力はさすがだよな。
ブックマーク、評価いただけると励みになります!