失恋なのか
訓練所で暫く倒れてたあとようやく動けるようになった俺は訓練所の外に出た。
外はさっきまで夕陽が挿し込み太陽が仕事終える前ラストスパートしてる感じで光り輝いていたが、今は完全に月と交代していて、真っ暗だ。
けっこう寝ちゃったみたいだな。
「おい楓斗、どうしたんだよ。大丈夫か?」
「翔吾、こんなとこで何してんだよ」
「そりゃこっちのセリフだよ。セレナさんカンカンだったぞ、トイレ掃除サボりやがったってな」
そう言えば今日俺の掃除当番だったな。あとで謝りに行くか。セレナさんは複数ある学生寮の中で、俺と翔吾が世話になってる寮母さん。まだ年齢は20代前半で可愛いんだけど、元鮮明の卒業生で荒れていた時代、不良たちを叩きのめして学校を改革したという伝説がある。そして俺の姉弟子だ。
俺を呼びに来たのは九条翔吾。クラスメートであり、同じ寮仲間。
「だから探しに来たんだけど、また襲撃されたのか?」
「いや、んーまぁそうだな。」
翔吾には朝姫を好きなったことや朝姫の素晴らしさを伝えている。その結果何度話しても朝姫の魅力に気付かない鈍感なやつだが、いろんなトラブルに巻き込まれてることも話してるので、今回の俺の状況も理解してるみたい。
「はぁーどうせ、お前がこんななってるって木下は知らないんだろ?」
「知る必要がないことだろ。俺が朝姫を勝手に好きになってその結果勝手にやられてる。朝姫にはなんにも罪はないさ」
「まあそうなんだけど、ホントよくやるよ」
翔吾が呆れる気持ちも分かるけど、恋愛には惚れたら負けだという言葉もあるぐらいだ。これぐらいは許容範囲。翔吾には女の影を見たことないから、コイツも恋したら今の俺の気持ちが分かるだろ。
「これだけやられたのに、明日からもまだ木下を追っかけるのか?懲りないやつだな。」
「明日か・・」
今までは襲撃された後も気持ちが揺らぐことはなかった。明日のこと考えてなかったな。
「そう言えば、今日お前木下とあんま一緒じゃなかったな。なんかあったのか?」
「なんかあったんだろうけど、何があったのかは分からないんだよ。」
「は?」
なんかあったかと言われればあった。けど何があったと聞かれると答えは分からない。なぜなら今日1日俺はそれに悩んでるのだから。翔吾はなんでも俯瞰してみてるからな。まあ冷めたやつとも言えるけど、コイツならもしかしたら俺の気持ちがわかるかもしれない。俺は今日1日の出来事を翔吾に話した。
「俺、もしかしたら分かったかも。お前の気持ちの正体を教えてやろうか」
「マジか、さすがは翔吾。頼りになる」
「失恋だ。」
「失恋?」
「そっ、お前はフラレた。」
「けど毎回本気で告白して、フラレても気持ちは変わらなかった。今でも朝姫は好きだ。」
「けど、また告白しようと思ってないんじゃねぇの?」
確かに。言われてみると確かにそうだ。朝姫を見るとまだ胸が高鳴り、ドキドキする。好きだという感情が吹き出してくる。しかし、告白したいか?付き合いたいかと言われると、今までの俺なら即答でYESと言っていただろうが、今はすぐには答えられない。
それに今日のお昼だって一緒に食べないという選択を俺は考えたことすらない。アプローチする以外の選択肢がなかったのに今は迷惑かけたくないという思いが芽生えている。
「まだ好きって気持ちは残ってるけど、お前自身がようやく、フラレたという事実を受け入れたんだよ」
胸にストンと何かが落ちた気がした。そうなのかもしれない。実は心のどこかでは思っていたのかもしれない。アサヒに俺の想いは届かないってことが。そして、今日のシャボン玉の時に見えた神々しいあさひの姿に、好きな人から女神に昇華したのだろう。誰だってアイドルや芸能人を好きになる。そんな感覚になったのだろう。
今朝の告白は俺の気持ちにあった最後の灯火は消え、こいつに気持ちを気付かせてもらった
今思えば朝姫と全然釣り合ってないじゃん。待って、今まで朝姫に何してきた。急に超恥ずかしくなってきた。恋は盲目というのは実に恐ろしい。
「これが失恋なのか、バカヤロー!朝姫、大好きだ!大好きだ!」
叫ぶと同時に涙が流れ出す。悲しいけど、気持ちいい。体が軽くなるようなそんな不思議な感覚が止めどなく流れる涙。
ひとしきり叫んで泣いたあと、翔吾と一緒に寮へと戻った。まだ朝姫が好きって気持ちはあるが、さっきまでのモヤモヤした気持ちはどこかに行き視界は良好だ。
「あっ、けどまだ明日最後の告白するけどな。」
「失恋、受け入れたんじゃねぇの?」
「まだ全部を出し切ってないからな。それやったら、終わり。分不相応の夢から覚めるさ。」
そう、フラレたことは受け入れて辛いけど、最後にあの魔法を使って告白したい。やらなきゃ後悔しそうだから最後の一回に今の全てをかけよう。
待ってろよ朝姫。最高の告白をしてやるぞ。