なんなんだ
訓練所から逃げ出してきた俺は急いで教室へと向かった。
「ハァハァハァハァ」
赤髪先輩は追いかけてきてないみたいだな。良かった。多分あの人は速度上昇系の魔法を使えるからいざ追いかけっ子になったらまくのは大変だ。
「ちょっと大丈夫なの?」
教室の入口に立っていた俺に朝姫が話しかけてくる。昼飯後も可愛い。
「ああ、平気平気。」
俺が入口に立ってるから邪魔になって話しかけてきたのか。そりゃそうだろ。たかが息切らしてる嫌いな男の元にわざわざ来る女なんていない。俺は入口から離れて自分の席へと向かう
「ねぇ」
「ん?」
その途中再び朝姫に声をかけられ、振り返る。
「ど、ど、ど、・・」
ど?うつむきながらいつもと様子が少し違う朝姫。朝姫も俺と一緒でなんか気分悪いのか?なんか今日はいつもより妙に優しい気がするし。なんか俺が話しかけられてるのにどこか他人事のような不思議な気分だ。
「なんでもないわよ。キモいから、さっさと消えなさい。」
待った結果、こんなこと言われんの俺。
さすがに傷つくよ。もう消えてしまいたい。いっそ消えよう。消えろって言われたし。魔力を全身に巡らせる。
「そうするよ。消失」
俺の体は一瞬にして透明になる。
消失は体を透明化させる魔法です。使える人は少ないけっこう希少な魔法で、ほかの人に触れられたり、姿がみえないだけで、熱とか感知系の魔法ですぐに見つかっちゃうので無敵な魔法ではない。これを習得した時は、ストーカー&覗きし放題とか思ったけど、世の中にはいろんな対策がされてると知ったよね。
「本当に消えるんじゃないわよ」
朝姫の声と同時に俺は魔法を解く。
振り返ると、いつもの不機嫌そうな顔を朝姫がしている。やっぱり怒った顔も可愛い。
「もう死になさい。」
そりゃさすがに無理だろ。さすがの俺も自殺の魔法は使えない。ってかそんな魔法覚える必要ないだろ。あれ?でもあの魔法とあの魔法をかけ合わせると可能かも・・って考えるだけ野暮か。憎しみを込めるようにそういった朝姫は走って教室から出ていった。いつもの俺ならその背中を追うことを躊躇わなかっただろうが、今日はその一歩が踏み出せなかった。
ホント、なんなんだろうな・・
■
「昼休みどこ行ってたんだよ。」
「ああ、ちょっとな」
席に戻ると隣の席の高橋が俺の方に体を向けてくる。
「木下さんがおかずみんなに配ってたぞ。あれってお前の分だったんじゃねぇの」
「めっちゃ美味しかったよ。楓斗んがまさかあの味を独り占めしてたとは許せんな」
反対側の火元も参戦して、昼休みのおかず攻撃。俺がおにぎりしか持っていかないことを見兼ねたのか、朝姫がある時からおかずを分けてくれるようになったんだよな。あの時は嬉しかったな。そしてそれ以降は、朝姫の味だと絶賛しながら食べてたっけ。
「さぁな。普通に作り過ぎただけなんじゃねぇのか」
「けど、どのおかずも一個ずつは残してたぞ。あれは多分お前の分じゃね。」
「冗談はよせよ。あんなに毎日告白してフラレてんだそ。そんな嫌いなやつになんでそんなことするんだよ」
自分で言っても虚しくて恥ずかしくて悲しくなるな。毎日興味ないやつから告白とか拷問だろ。
「いや、絶対お前のだって。周りはみんなお前のこと木下さんの彼氏って思ってるぞ。」
「ありえねぇだろ」
「ウチは思ってないけどね」
彼氏?俺がずっと望んでいた関係だろうが、その想いは未だ届いていない。だから現状は、朝姫の取り巻きか・・もしかしてストーカーか?
なんか急に恥ずかしくなってきた。待て、俺もしかしてヤバいやつだったんじゃね?
色々と朝姫に向けたアプローチがフラッシュバックする。
再び消えたい思いにかられる。高橋と火元がまだ何か言ってたが、もう何も頭に入ってこなかった。
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