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症状の悪化


目を開けてまず最初に飛び込んできたの真っ白な天井だった。見慣れぬ天井。カーテンから暖かい太陽の光が差し込んでいる。

ここはどこだ?確か木下さんと話してる時に突然視界が暗くなった所まではおぼろげに思い出せる。

体にはあまり力が入らない。麻酔か何かが効いてるのかな。右手は動かないけど、なんとか動く左手で体を起こす。

俺を囲むように白いカーテンが閉じられている。それで悟った。そうかここは病院か。それで倒れた俺が運ばれてきたのか。はは、情けな。


「そろそろ起きる頃だと思ったよ。」


カーテンが突如として開くとそこには見慣れない白衣を纏った男性が立っていた。首元に聴診器を付けていることから医者なのだろう。整った顔立ちに清潔そうな短髪。爽やかなイケメンって感じだ。コイツ・・モテるな。俺の勘というよりも経験則がそう答えを導き出す。

まぁけど、医者でロン毛金髪とかだとちょっと人間性を疑ってしまうだろうけどね。

その後ろからは見慣れた女性。セレナさんが立っていた。しかし、その顔からはいつもの元気は感じられない。どこか思い詰めた顔をしている。


「私は羽柴トネリ。君の主治医だよ。」


そういうと羽柴さんは近くにあったまるイスに座る。


「そして、セレナの夫」


夫?おっとっと?・・・


「夫!!!セレナさんの夫!セレナさん結婚してたの?こたつでゴロゴロしてるセレナさんが結婚してたの!人をいつも賭け事に使う邪神のセレナさんが結婚!寮生のデートを遠くから付け回してたセレナさんがけっ・・」


「いい加減にしな!」


いつもの拳骨のハズなのに、いつも以上に痛い。頭が破裂するかと思ったほど頭がガンガンする


「セレナ!お前なにやったんだ!」


頭がガンガンして視界が揺れながら、焦点がまだ合わないが、羽柴さんがセレナさんを怒鳴っている。師匠以外に怒鳴られる姿を初めてみた。


「ご、ごめんなさい。つい・・」


羽柴さんに怒られて、しょぼくれるセレナさん。いつもなら強気に言い返すだろうが、やっぱり旦那さんには弱いのか。


「はぁ〜セレナがすまないね。大丈夫かい?」


大丈夫かと言われれば、まぁ大丈夫だが、頭がまだガンガンして頭の中で音が木霊している。


「楓斗くん、単刀直入に言おう。早く継承者を見つけなさい。」


羽柴さんから出てきた言葉は俺の予想していない言葉だっただけに言葉に詰まる。

いや、予想はしてたか。わかってる、自分の体の異変ぐらい。右腕が動かないのも麻酔じゃなく、左側がよく見えないのも恐らく原因は同じだろう。


「膨大な魔力に身体が侵食去れだしている。今のまままでは君は保たない。」


「俺はこの力を去年の秋に継承しました・・」


そう、俺はこの力を継承した。継承する前に全て説明を受けた。膨大な魔力と膨大な魔法といった歴代の継承者たちが積み上げてきたものを全て継承し、最強の力を得ることが出来る。けど大きな力に代償は付き物で、この力は強くなり過ぎてしまった。結果、膨大な魔力に継承者の体が耐えられず、寿命を著しく失ってしまう。それから逃れる為にはまた新しい継承者を見つけるしかない。しかも継承者は誰でもいいわけではなく、自分にとって大切な人でなければならない。知ってたけど俺はこの継承者の事を考えず継承してしまった。ただ朝姫と一緒にいる為に・・継承したんだ。後悔はない。おかげで十二真にも会えたし、理想以上の告白をすることも出来た。悪いことばかりではなかった。

それで朝姫にフラレた時に決めたんだ。俺はこの力を誰にも継承しない。


「あとどれくらい保ちますか?」


「わからない。今ですら生きてるのが奇跡のような状態だ。目を覚ましたことさえ奇跡といっていい。」


「挨拶周り急いだ方が良さそうですね。」


まず最初に火元に会いたい。今どうしょうもなく会いたいとパッと頭に浮かんだのはアイツの笑顔だった。挨拶したいのは他にもいる

、鈴さんに祭さん、あとちびっ子たちもだな。それと翔吾、志保も忘れず、あとは木下さんだな。


「継承する気はないのか?」


「ないですよ。」


「君はこのままだと死ぬんだぞ」


「分かってます」


「分かってないわよ。」


セレナさんが俺の両肩を持って涙を流しながら俺を見る。


「私に継承しなさい。」


「出来ません。そしたらセレナさんが1年もしないうちに俺と同じ苦しみを味わうことになる。」


「それでも・・」


「他の人に継承しても同じです。きっと同じ思いをして誰かに継承してだんだんと継承者たちの寿命は減っていく。誰かが止めないと。」


「あなたじゃなくてもいいでしょ」


「俺じゃないと。俺はそのことに気付いてしまった。それを知ってて継承させるのは遠回しに俺はそいつを殺したことになる。俺は人殺しにはなりたくないんですよ」


「それでも私はあなたに・・生きてて欲しい。大切な弟のような存在のあなたに」


「俺もセレナさんのことは姉であり、家族だと思ってますよ。だからこの力のことをあなただけに話したんです。けど、ごめん。俺誰にもこの力を継承しない。」


「駄目よ。あなたがそういう気なら、木下さんや翔吾たちに全てを話すわよ。」


「セレナさんはそんなことしないくせに」


「うそじゃないわよ」


「俺が消えてどうしても理由が知りたくなったら、話してあげて下さい。」


時間がないなら急がないと俺は重い体を起こして、立ち上がる。両足はまだ動く。良かった。足が動かないと挨拶にもいけない。

セレナさんは泣き崩れてしまっている。本当に悪いとは思っている。


「行くのかい?」


「はい。ありがとうございました。あとセレナさんをお願いします」


羽柴さんに会釈する。


「セレナさん・・姉さんには感謝してる。この力を継承して不安だった時もあったけどいつだって俺が俺で居られたのは姉さんのおかげ。この力のことを話してからもいつも通りに接してくれて本当に嬉しかったんだ。今の俺が居るのは間違いなく姉さんのおかげだよ。ありがとう。幸せになってね。」


セレナさんに俺の言葉は届いただろうか?返事はない。かといって返事を待っている時間は俺にはないのかもしれない。届いているといいな。

重々しくも一歩一歩とドアへと向かう。


「継承以外に治す方法はないのかい?」


さっきまで凛とした表情だった羽柴さんが少し同様している。これが泣き崩れたセレナさんを気付かってからなのか、それとも死にゆく患者を見てられなくなったからなのかは分からない。

けどこの問いに俺は答えない。答えたくない。

だって迷惑がかかるから。なので俺は苦笑いをしてその場を後にした。



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