最後の四季千華
いや〜さすがはダンジョン終わり。神経すり減らして頑張っただけあってみんな恋愛にも前のめりですな。あれから30分ほどで8組ほどの告白現場のキューピットをやってしまった。簡単には言い表わせられない。涙あり笑いあり・・笑いはなかったな。嬉しい涙や悲しい涙があって、どうやら俺は成功率100パーセントのキューピットにはなれなかったらしい。それでもそれぞれに満足いく告白はさせられた自負はある。まあ自己満足かもしれないけど。例え今日告白に失敗した人たちがこの先もその人と付き合えないと決まったわけではない。告白したことで、意識してもらえるようになったかもしれない。
一度の失敗だけで挫けてくれないことを祈るよ。何度も告白しては失敗した俺が言うと説得力ありそうじゃないかな。けど成功してないってのが信用度を下げるよね。
自虐ネタはやめよう。せっかくのキューピットで得た喜びに水を差すこととなる。
けどさすがに少し疲れたな。魔力使いすぎた。俺は近くのベンチに腰掛け、大きく伸びをする。背骨がポキポキっと音を鳴らす。
「ハァハァ・・やっとみつけた」
「木下さん?そんな慌ててどうしたの?」
一息つく間もなく、息を切らした女神木下さん登場。これだけ息切れするほどの緊急事態ってことはトラブルの予感。
「ぁぁんたが・・」
「ごめん。何って?」
「あんたを捜してたのよ!」
怒鳴るような声で睨みつけられる。怒られる理由に検討はつかないが、木下さんになら怒鳴られるのも悪くないな。怒る姿も可愛い。
そう言えば、火元が木下さんが俺のこと捜してるって言ってたっけ。そんで捜しに行ったら峯岸といい感じだったから恋のキューピッドになったんだ。
いや〜恋のキューピッドが楽し過ぎてすっかり忘れてたわ。
「そっか。それは悪かったな。何か俺に用だった?」
「その、別に対したあれじゃ・・」
口ごもってモゴモゴする感じも可愛い。マジで女神だ。これならずっと待ってられる。
「ハァハァ、やっと見つけたよ」
ん?なんかデジャヴのようなセリフ。
「峯岸くん?そんなに急いでどうしたの?」
これも聞いたようなセリフですな。
「木下さんが突然走り出すから・・何かあったのかと思って」
そりゃ好きな人が突然走り出したら心配になるか。コイツけっこう正義感あるからな。
「なんでもないの。迷惑かけちゃってごめん。」
「いや全然迷惑とかじゃないよ。何もないなら良かったよ」
何も用がないのに2人揃って俺の元へと走ってきたのかよ。2度あることは3度ある?ってことはないか。
「風間、こんなトコで何してんだよ。」
「見りゃ分かんだろ。ベンチに座って休憩中だよ。」
「そうか。木下さん、ここ暗いから向こうで話さない」
峯岸よ、あまりにも俺に興味なさ過ぎるだろ。いや、コイツもしかして俺と木下さんを引き離したいのか。俺が木下さんにアプローチしてたのは周知の事実だけど、スペックは峯岸の方が上なんだからもっと自信持てばいいのに。
「ごめん、あとでいいかな?アタシ今、楓斗と話してる所だから。」
木下さんのこれ以上の追撃を許さないような鋭い1言が峯岸を切り裂く。俯き言葉を無くす峯岸。
「なら3人で話そうか」
木下さんへの想いのために健気に頑張る峯岸があまりにもかわいそうになったので、俺は助け舟を出してやる。
「楓斗は黙ってて!」
そう思ったのだが、カウンターで切り替えされた。そして俺はビンタまでされた。扱いがおかしくない。
「そっか、じゃあまた」
俺がカウンターを受けたのを見て峯岸は何を思ったのかはわからないが、明るいホールの方へと歩いていった。
「んで、どうしたの?」
「何が?」
「何がってなんか話あるんでしょ」
「まぁなくはないかな・・」
無くはない。そんな絞り出すようなネタで峯岸を飛ばしたのか。
そして、女神が横に座ったぞ。なんだこのシチュエーションは。これはダンジョンで1位取った神からのサプライズプレゼントか?これぞ、日頃の行い。やっぱり授業は真面目に取組むもんだね。
「なんか話しなさいよ」
おっと、突然の無茶振りだな。話してる、話したいと言いながらもまさかこっちに話せと。そうだな〜何の話するかな
「いつもアタシに意味ないこととか、無意味なこととか、興味ないこととか勝手に話してたでしょ」
いつもそう思っていたのか。知らなくても良かった真実。
頑張って盛り上げようと話してたつもりだったのに・・本人と話されてる相手の思いっての難しいものですね。また迷惑をかけていた事実を知り、凹みながらも勉強になりました。
「ダンジョンはどうだった?」
「けっこう大変だったけど、すっごくたのしかったよ」
今までの俺との会話では考えられないぐらい素敵な笑顔で笑う木下さんの横顔から、やっぱり好きだなぁという思いがうちから込み上げてくる。それと同時に別れる時の寂しさも込み上げてくる。
木下さんはダンジョンでの出来事をたくさん話してくれた。火元に加護を付けていたとはいえ、全てを視ていたわけではないので、聞いていてとても楽しかった。
「ねぇ、あの魔法。もう一度みしてくれない?」
ベンチから立ち上がった木下さんは屈託ない笑顔で俺に言う。なんか今日の木下さんの笑顔はいつも以上に眩しく魅力的にみえる。
「あの魔法?」
「ほら、あれよ、あれ」
「あれ?」
【導きの火】の鳥を手に乗せて見せる
「それじゃなくて・・」
なんの魔法のこと言ってるのか全然わからない
木下さんは言いにくそうだけど、なんか言いにくい魔法なんか使ったかな?いろんな魔法を創作したりもしてるからなぁ
「もう!あ、アタシの為に作ったっていう・・」
「あ〜【銀千華】と【星の祝福】のこと?」
俺は手のひらに1輪の【銀千華】と1つのシャボン玉【星の祝福】を乗せる
「この魔法、前みたいにみしてくれない?」
「別にいいけど」
この魔法はなんか木下さんの為に作ったとかけっこう気持ち重めの魔法だし、なんか今の空気に合わない気がする。
リクエストではあるけど・・どうしようかな
そうだ、夏祭り用に考えてたあの魔法を使おう。これで、学校中の恋する生徒の背中を押す。
キューピット行きまーす!
「全属性同時発動 十二真魔法【四季千華】」
四季折々のシャボン玉が、学校中の地面から吹き出して、輝きながら天へと登っていく。
「どうせなら、ダンジョン終わりのみんなへのプレゼント」
「キレイ・・」
「そう思ってくれたなら良かった」
シャボン玉を見つめる木下さんの姿は、嬉しそうではあるけれど、どこか儚げで、寂しそうな顔をしている。
「あー!いたいた。やっぱり楓斗んの仕業だ。」
「相変わらず風間無双だね。」
遠くの方から火元や志保、シバサク、カノ、翔吾がこっちに手を振りながら近づいてくる。
相変わらず火元は元気に飛び跳ねながら満面の笑みを向け、シバサクとカノは手を繋いでラブラブをアピールしている。
そんな5人を見た木下さんはシャボン玉から、目を離し、俺の方を向いてくる。
「ねぇ楓斗は、まだわたしのこと・・」
プツン
木下さんが真剣な顔をしてこちらを向いて話出したと思った矢先、俺の視界はテレビの電源が切れたかのように真っ暗になる。そして体中の力が抜けて、膝や胸に痛みが走ったことから自身の身体が地面へと倒れたのだと感じた。そして俺の意識は途切れてしまった。