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恋のキューピッドになろう


すっかり2人の空気となってしまったシバサクとカノを置いて、志保はなにやら悪い顔をしてどこかへ行ってしまったので、再びホールへと戻った俺は火元を捜す。ホールではまだ華やかな装飾と共にみんなのテンションも高く、ところどころでばか騒ぎしている。

加護の回収は別に今日出なくてもいいのだが、まあ手持ち無沙汰だからな。

火元はどうせ騒がしい所にでも・・


「楓斗ん」


「おわっ」


後ろから俺の背中に飛び乗ってきた、火元は何故か上機嫌。

酒でも飲んでるのか?しかし、背中に密着してくるこの柔らかい感覚はまさか・・

背中に意識を集中だ。感覚神経の感度を魔力で上げるんだ、俺


「変態」


「・・・」


どうやら俺の行動が読めて居たのか、すぐに飛び降りた火元から冷たい視線が飛んでくる。

いやいや、あれは誰でも反応するだろ。あれを変態だというなら健全な男子高校生は等しく変態だろ。

しかし、少し気まずい。ここは何事もなかったかのように素早く加護を取り戻す。


『戻れ、ヒノエ』


『美香様を背中に背負ってとは、喜ばしいですね、主』


『嬉しくないと言ったら嘘になるな。面倒みてくれてありがと、ヒノエ』


「あ〜何するの?加護勝手に回収したでしょ」


「ほれのかごだろ」


加護回収に気づいた火元が俺のほっぺたをツンツンするせいで上手く喋れん。


「もう少し付けてたかったなぁ〜ダメ?」


「ダメ。」


「ぶー。楓斗んのケチ。」


護身の為だけに加護を付けたけど、まさか真炎の舞姫になれるまでヒノエとシンクロ出来るとは思わなかったよ。ヒノエとは相性良さそうだからまた機会があれば貸してやるか


「そう言えば、姫にはあった?」


「木下さん?さっき少しだけ会ったけど」


「楓斗んのこと捜してたよ。なんか話あるみたいだよ。」


「話?」


さっきはシバサクの告白気になってて、峯岸も居たからなんか用だったなら悪いことしたな。迷惑にならないよう会話を回避したのだが、まさか会話を回避した結果迷惑をかけてしまうとは。


「姫からなんの話だろうね?」


ニヤニヤしながらほっぺたをツンツンする火元。俺に話・・か。なんだろ。やっぱりダンジョン絡みかな?それぐらいしか思いつかない。話で思い出したけど、志保に火元に聞いてみろって言われてたのあったな。


「さぁな。そうだ、俺は火元に話あったんだよ。」


「なに?告白?きゃーーー今から姫と話すのにその前に自分の気持ちを伝えとこう的な。」


「んなわけねぇだろ」


顔から本心で言ってないのは丸わかりではあるが、相変わらず感情表現豊かで面白いやつだな。一緒に心地いいし、飽きないな。ってか背中であばれんなよ。


「もし俺が火元を・・」


「風間、お前なにやってんだ!」


おっとここで怒り心頭の轟くん登場。


「あれ、とどっちどうして怒ってるの?楓斗んなんかしたんじゃない」


お前のせいだろうが。轟の想いに気付いているかはわからないけど怒っている理由は気付いてる。だってさっきから顔がニヤニヤしてるもん。


「お迎えが来たから、そろそろ降りろよ」


「ほーい」


「誰彼構わず飛び乗るんじゃねぇぞ」


緊急事態でもないのに好きな人が他の男子におんぶされてる姿見るなんて流石に轟が可愛そ過ぎる。降りる火元には釘を差しておく。


「誰彼構わずなんてしないよ。とどっちにはしないし。楓斗んだからやったんだよ。」


火元はいつもと変わらない笑顔の後、視線を外して頬を少し赤くしていた気がした。コイツ照れてんのか。まあ俺も火元に抱きつかれて悪い気はしなかったけどな。これで轟の怒りも少しは収まったかな。


「楓斗んどこ行くの?」


「お前には迎えも来たから、木下さん捜しに行こうかなって」


「話はいいの?」


俺は轟の穏やかではなかろう心中を察してこの場を去ろうとしたのだが火元に呼び止められながら轟をチラッとみる。

うん、まだ俺睨んでる。怒り収まってないね。


「ああ。じゃあな」



さて、木下さんはどこに行ったのかな。

ある程度ホールの中は捜したけど、見当たらないな。

あとは中庭と屋上か。

学校一周ツアーしてるみたいだな。

中庭か。あのベンチを思い出すな。木下さんと2人で学校に転移した時に一緒に座ったベンチ。女神と一緒に座れるなんてマジで嬉しかったもんな。

ちょっと奥まっててこう暗いと怖いから誰もいないだろうし、せっかくだから少し見ていくか。

街頭のない月明かりに照らされた中庭の道を歩く。さっきまでのホールでの騒ぎ声とは別にこの静けさは風情があっていいな。心が穏やかになる。

さて、あそこを曲がればそろそろ見えて・・誰かいる。

暗視魔法で見てみるとベンチには木下さんが座っていた。こんな所に居たのか。どうりで見つからないハズだよ。さて火元も俺捜してるって言ってたし、話聞きに行くか。そう思い踏み出した足は一歩で固まった。

木下さんの隣には誰か座ってる。峯岸だ。お前らこんな人気のないところでなにやってるんだ。穏やかな心はどこかへ去り、荒波のように心が暴れている。

人気のないところ。誰にも見られない。みんな浮かれて魔力感知出来ない。よし、アイツ暗殺するか

とかよくないことまで考えてしまう。けどホント木下さんは楽しそうに話している姿を見ると、高まった波も次第に穏やかになり、悲しい波が押し寄せてくる。まさか轟にやったことがこんなすぐ返ってくるとは。

これ以上は見てられない。暗闇で道が見にくいだろうから明かりぐらい灯とくか。

【炎魔法】導きの火

ホールまで続く暗い道を照らすように小鳥たちが飛び回る。

屋上で黄昏れよう。


なぜだ・・なぜなんだ。

屋上へと向かった俺を待っていた光景は、孤独に黄昏れるどころではなく、イチャイチャカップルの巣窟ではないか。

さっき悲しい光景を見た後の俺には辛すぎる。

屋上からはベンチも見えるので、チラッと見るとまだ2人は座っている。更に離れた所には火元と轟。更にシバサクとカノ。逆には志保も男子といる。ドコモかしこも男と女で楽しくやりやがって、なんて地獄に来ちまったんだ。

なんかこのカップル花壇で花咲く中、木の枝が刺さってるだけのような、なんとも言えない寂しさがある。

どっか別の場所に行くか。


『ご主人、あの2人怪しいわよ〜ん』


『どれだ?』


屋上から立ち去ろうとした時、真愛のマナカがあるカップルを指差す。


『普通に話してるだけだろ。』


『感じるわ。きっとあの男子今から告白するわよ』


『マジか』


マナカは真愛魔法を司るので、俺よりも恋愛に関する能力は長けている。俺は何も感じないが、マナカが言うならきっとそうなのだろう。

まさかここにカップル以外が混ざっていようとは。けどここまで来た以上、告白はほぼオッケーだろ。ヤラセとは言わないけど、玉砕覚悟の告白ってわけではないだろうな。


『確率は五分五分ね』


『ここまで来てそんな確率低いわけねぇだろ』


『あちきには見えるわ、恋のオーラが。絶対成功のオーラが出てない。あの出力はやっぱりまだ気持ちが揺れているわ。』


ここまできてそんなことある?心を読めば結果分かるけどそれは人として道徳に反するということで、やらないと決めている。なので、素直にマナカの言う事を信じるとしよう。そしてどうするか。このまま聴覚強化魔法で盗み聞きしてもいいのだが、同じ恋する男子として成功して欲しい。かと言って精神操作魔法を使って無理やりってわけにもいかない。やっぱりここで大事なのはムードだろ。


【音響魔法】


ロマンチックでかつ場の空気を変えない絶妙な音楽を奏でる。場が崩れないよう小さな音量から徐々に上げていく。


「ずっと好きでした。僕と付き合って下さい」


ここがピークだろ。タイミングを合わせてグッと気持ちが高まる音楽を奏でる。

女の子の表情は変わらない。上手く行って欲しいという想いを乗せて魔法を奏でる。

ダメかな。


「よろしくお願いします。」


笑った女の子の目には涙が見える。全てを聞こえないが、2人の表情を見るに恐らく嬉し涙だったのだろう。またここに1組のカップルが誕生した。

ええな。告白って。成功するって、ええな。告白。

恋人ってええな。

自分とは全く関係ない人たちだけど、胸キュンと胸がポカポカするわ。まるで自分がドラマの演出をしたような感覚。

これだ!恋のキューピッドになろう。恐らく今日は恋する男女が多くいるはずだ。知り合いの幸せな姿を見るのは嫌なので、知らない人の恋を応援して楽しもう。

そうと決まればこうしちゃいられない


『マナカ、次はどこだ?』


『ホールの裏辺りから恋のオーラを感じるわ』


屋上から飛び出した再びホールの方へと向かう


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