見守ることにしました。
頬や体の節々が痛い。
地面に這いつくばる俺をよそに志保たちが周りを見渡す。その顔はどこかスッキリした顔をしている。
「楓斗ってこんなに強かったの?」
「ぱないっね、風間無双じゃん」
「普通だろ」
俺は仰向けに体を向けて3人に話す。
「普通じゃねぇだろ。この数のキングベアーの群れ秒殺って、学生レベルじゃなくない」
「まぁ志保たちがあの程度の奴らにビビりすぎなんだよ。」
「恐怖を煽ったのはどこのどいつよ」
「なぁ志保、ダンジョン入る前に火元たちの前で俺がお前に言ったこと覚えてるか?」
「覚えてるわよ。」
「だったら、ビビるなよ。何も心配しなくても俺が守ってやるんだから。少しは信頼して欲しいもんだね。」
「バカ」
志保はテクテクと俺の下までくると、軽く蹴飛ばす。全くテレ屋な悪魔だこと。
「さて、そろそろ行くか。翔吾には負けてらんねぇからな。」
俺は飛び起きるとシバサクとカノと肩を組む。
「明るく楽しく行こうぜ。必ず戻ってシバサクの愛の告白をカノと一緒に聞くからな」
「ばっ、誰が告白だよ。」
「違うのか!」
「ちが、ぢかわ、ぢかわ」
「芝くん、あの流れで告白じゃないとかありえなくない?ヘタレじゃん?」
「芝ちゃん、アーシのこと嫌いなの?」
「あーーーーもーーー珈音さん。僕は君が・・」
俺と志保からの煽りに乗っかってカノまで言ったもんだからシバサクのやつ想いがパニックってやがる。このまま告白しちまうのかと思いきや、シバサクの口をカノが塞ぐ。
「帰ってからでしょ?」
カノは人差し指を口に当ててなんとも妖艶にシバサクを誘っている。
よし、決めた。絶対シバサクの告白覗きにいこう。
■
開始から6時間
しばらくは何度か戦闘があったものの俺が秒殺しながら進んでるので、かなりの距離を稼げたはずだ。
「そろそろ休憩するか。」
「交代で周囲の警戒しよ」
さすがに志保たちから疲労が見えるな。
定期的に休んでるとは言え、かなり魔法を行使させてるからな。かといって志保の魔法なしじゃあ進み方がわからねぇ。シバサクやカノも一緒だな。
あといくら俺が秒殺してるっていっても慣れないこの雰囲気と常に狙われてるっていう状況も精神的にも堪えてるんだろうな。
「見張りは俺がやるから3人は休んでて」
このダンジョン攻略の生命線はこの3人だからな。ここは俺が頑張らないと。って言ってもだいたい気配でわかるんだけどね。だから突然襲われる心配なんてほぼない。今だって風の檻で周囲を守ってるし。
「けっこう進んだよな」
「ええ、かなり森の奥まで来てる気がする・・って楓斗、手、手が燃えてるわよ」
「あら、ホントだ。」
「なに?敵からの攻撃?早く消しなさい。みんな備えて」
「大丈夫だよ。これは俺の火だから。熱くもないし、魔物からの攻撃でもないよ。」
俺の右手が突然燃えた理由はただ1つ。
加護が起動したってことだ。つまり火元に何かあったってことか。
「なんで突然燃えたのよ?」
「いや疲れてるみたいだから、少しみんなにドッキリと笑いを提供しようかと思って」
ったく峯岸と轟のやつは何やってんだ。ヒノエがいるから大丈夫だとは思うが・・見に行くか。心配だ。
「シバサク、少し離れるから2人を頼むぞ」
【雷魔法】雷檻
「これで、たいていの魔物は防げるはず。」
「雷の檻とか。楓斗ってホントなにもの」
「風間ぱっないね」
志保の手を取り、魔力を流す。
【真雷の加護】
「あ〜あ、結局私もリモートか」
黄色に輝くブレスレットをなでながらどこか不満そうな表情の志保。志保のやつ気づいてるな。
「まぁいいか。いってらー。」
これで3人は大丈夫だろ。ヒノエの魔力は感知出来る。けっこう離れてるな。
【転移】
■
ヒノエから少し離れた座標を転移先に設定して転移すると、見事火元たちがよく見える大木の枝へと転移してきたようだ。
ヒノエの炎の結界を張って耐えてるようだけど、敵はキングベアーにエンペラーウルフか。周りにはベアーやウルフが集まり、結界をかじったり体当たりしている。
『ヒノエ聞こえるか?』
『主、来てくださったのですね。』
『状況は?』
『キングベアーと戦闘中に火元様は足を負傷し歩行が困難になりました。そこへエンペラーウルフたちにも襲撃され、木下様、轟様、峯岸様も怪我を負っています。』
状況は最悪だな。近くに行くか。
服に仕込んでおいた消失機能をオンにして身を隠す。隠れる必要があるのかと言われれば、ないかもしれないがなんか突然現れたら3人ともびっくりするかもしれないしな。
【転移】
ヒノエの結界内に転移すると、火元は地面に倒れ肩で息をしている。意識はギリありそう。木下さんはそんな火元を囲むように三竦みで敵を見ている。木下さんもかなり辛そう。かなり激闘が繰り広げられたんだろう。峯岸と轟の野郎、木下さんと火元にあんな辛そうな顔させやがって。
けど、木下さんは諦めた顔はしていない。真剣に火元たちを守ろうとする気概が感じられる。それは峯岸や轟からも感じる。ここで、俺が周りの魔物を秒殺するのは簡単だけど、こんなに必死で戦ってるのに俺があっさり倒すのは、ちょっと違うよな。必死にやってるんだから。全力で応援してあげないと。
それにしても木下さんのことはずっと見てきたけど、こんな必死な木下さんはじめてみたよ。ずっと近くに居たら見られなかった顔なんだろうな。
俺が離れることで変わる何かがあって、それはきっと木下さんを良い方に導いてくれるのかな。だから今回は間接的に助けるか。
火元も寝てないで起きろよ。火元の傷に手を当てて、あくまで加護の範囲だと思えるぐらいの簡単な治癒魔法を施す。
「ほぇ?足の痛みがなくなった。傷はあるけど、これなら戦えそう。」
木下さんを含む4人を対象に魔法の照準を合わせる
【支援魔法】全能力向上
次は周りの魔物を対象にしてっと
【支援魔法】全能力低下
『ヒノエ、守るのは止めて火元に手をかしてやれ。』
『承知しました。』
「結界が消える?」
「加護が消えたってこと?」
【フォルムチェンジ 真炎の舞姫】
「いきなり何?炎に包まれたけど美香、大丈夫なの?」
「大丈夫、なんかよく分かんないけど力がみなぎってくるよ。」
「火元さん、美しい。」
「おい轟、見惚れてないで敵を見ろよ。」
ヒノエのやつ真の力まで出すほど力を貸しやがったな。
『ヒノエ、やり過ぎじゃね』
『テヘペロ』
炎の羽衣もまとい、服装も白を基調とした物に赤い炎の線が入っており、さっきまでの火元の姿から一転している。まぁ火元に惚れてる轟からしたら驚きの変化だろうな。俺から見ても綺麗だと思うよ。
「【真炎舞 炎千華】」
火元の周りの火の粉は華となり、周りのベアーたちを一掃していく。これが開戦の合図となり、キングベアーたちも4人へと突撃していく。さっきまでよりも敵の能力を半分以下にして、峯岸たちは能力を1.5倍にしたから大丈夫だろ。
予想通り、4人はバッサバッサと魔物たちをなぎ倒していく。
そして数分後、峯岸の一閃でキングベアーが倒れ、轟の拳でエンペラーウルフが絶命した。
火元は元の姿へと戻り、魔力を消耗しすぎたんだろう。座り込んで呼吸を整えている。
4人でハイタッチして喜ぶ姿をなんとも言えない気持ちで見守り、和にはいれない寂しさと同時に思うこともあった。
俺が離れることで・・
俺の願う木下さんの幸せがてに入るのかな
今朝の教室で感じてた。俺が離れたことで変わることがあって、それは木下さんに限らず俺にもある。距離を置かないと今のような木下さんは見れなかったろうし、逆に俺は志保やカノと組むことはなかっただろう。
いいことなのか悪いことなのかはわからない。
見守ろう。この距離が適切なのかもしれない。
もう俺は彼女の横は歩けないのだから
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