加護とツンデレ
「火元、ちょい手ぇ出して」
木下さんと話しを中断してこっちを向くと同時にボディーブローを振るってくる。手ぇ出す意味が違うだろ。どんだけだよ。
「殴んなよ。普通に手貸して」
「なんで?」
「お前、さっきの先生の攻撃に気づけてなかっただろ。ダンジョンで怪我するかもしんないから加護を付与する。」
「なーに、私が心配なの?」
「まぁそうかも。今回は一緒にいないしな」
「姫は心配しなくていいの?」
「ん〜まぁ〜大丈夫だろ。お前はおっちょこちょいで周囲の危険を見落としそうだけど、木下さんはそのへんしっかりしてるしな。先生の攻撃にだってちゃんと気づけてたし」
「なに、喧嘩売ってんの?さっき守ったからって100位のくせに生意気な。オラオラ」
「横腹はやめろ〜ったくほら、さっさと手を出して」
横腹は苦手なのだ。それに気付いた火元から、こうしてちょくちょくツンツン攻撃を受けている。
これは耐えられん。俺は一瞬の隙をついて、ツンツンしようとした火元の手を取り、魔力を流す
【真炎の加護】
「なんか一瞬炎が体を包んだように見えたけど。あれ?ブレスレット。いつの間に。」
火元の腕にはさっきまで身につけてなかった赤い水晶を繋げて作ったブレスレットが付いている。加護は成功したようだな。
「まあヤバくなったら、その炎が傷つかないように守ってくれるさ。ブレスレットは加護が付いてる証。」
「楓斗んの代わりに守ってくれるってこと?」
「まあそういうこと。」
「ふ〜ん、ありがとね」
『頼んだよ、ヒノエ』
『承知しました。』
十二真の1体真炎であるヒノエに念話で伝える。炎の力がほぼ使えなくなるけど、これで火元たちは問題はないだろ。
「姫もやってもらったら」
「アンタなんかに心配される筋合いはないんだからね」
「さいですか」
いつも通りツンツンしている木下さん。制服じゃなくて白のローブバージョン最高です。
まぁ加護は本人がいいって言うならいいだろ。俺も木下さんなら大丈夫な気がするし、なんかあったらヒノエがなんとかするだろ。
「えっ?」
「ん?」
まさかのキョトン顔。白のローブバージョンいただきました。可愛くてありがとう。
「ちょっと第1婦人たる私にもしなさいよ。」
「なんで?ってかだれが第1婦人だよ。」
「火元さんに出来て私に出来ないって言うの」
火元よ、煽るように志保にブレスレットを見せるのはやめなさい。お前らそんな仲良かったけ?絡んでるのなんか見たことないけど。
「やる必要ないだろ。」
「えこひいきするきね。そんなに火元さんが大事なの?」
「なにそんな熱くなってんだよ。面倒くせぇな。」
「面倒くさいって何よ!私だって傷つくかもしれないのよ。」
「志保が?ありえないだろ。だってお前のそばには俺がいるんだぞ。」
「えっ?」
「だから必要ないんだよ、俺がそばで守ってやるからな。」
「確かに!そうね、そうよね。私はずっと直接守ってもらえるんだ。直接隣でね!火元さん、今流行りのリモートで守ってもらって良かったわね。私は直接守ってもらうけどね。」
逆に志保が火元に見せつけるように急に上から目線で憐れむように火元に言い放つ。お前らホントどんな関係なんだよ。
「ふふ、楓ちゃんは私のものよ。」
志保が突然俺に抱きついてくる。女子特有のいい匂いがする。そして、腕には柔らかい感触が。これはまさか・・
「ちょっとくっつき過ぎよ!」
バシっ!
「なんで、俺?」
まさかの木下さんが志保と俺との間に手を入れて強引に志保を剥がすと俺の頬に強烈なビンタをくらわす。いや、殴られる意味わかんないんだけど。
「今回はこの辺で引こうかしらね。」
その様子を当事者のハズなのに楽しそうに傍観した志保は満足そうに自席に帰っていった。アイツ絶対木下さんを煽りたかっただけだ。相変わらず悪魔だな。
■
準備が出来たことで、教室から校庭へと移動がはじまる。
いよいよか。さすがに少し緊張するな。先ほど先生が引き締めた空気も少しは和らいでおり、だらけるまではいかないにしても、リラックスした状態でみんな歩いている。俺も席を立つと、クラスの流れに従ってついていく。
「ねぇ」
「ん?」
振り返るといつの間にやら木下さんが隣に立っていた。
「アタシにはやってくれないの?」
「なんのこと?」
「あの、その・・美香にはやってたじゃない」
「ああ、加護のこと?木下さんは強いから大丈夫でしょ。冷静で周りよく見えてるし、峯岸たちも強いしな」
「アタシは傷ついてもいいってこと?」
「そうは言ってないけどさ」
志保とのやり取りのデジャヴかな?同じようなこと言われた気がする。女子ってよくわからないね。
それにさっきいらないっていってなかった?とはなんとも聞きにくい感じに頬を膨らませている。可愛すぎる。
「んっ」
木下さんが俺に手を出してくる。これはお手の合図か?それとも火元のように握って加護を付与しろってことなのか。あの女神から手を指し延べられる時がこようとは。絶対おかしい。どっちのパターンでもおかしい。解析魔法で見てみても状態異常は見当たらない。幻覚状態ではないみたい。
「なんか火元に言われたの?」
「別に」
そっぽ向く感じ、これはなんか言われてますな。
近くに火元がいないから聞けないけど、なんか言われてんな。全く、アイツはなにやってんだよ。俺はもう木下さんに迷惑かけなくないの。こんな無理矢理こさせやがって。
「いいんだよ、無理しなくて。」
ここはやんわりと俺が断るのが一番だろ。そうすれば火元になんか言われても俺が悪者になって全てが丸く収まる。木下さんが傷つくのは嫌だけど、ヒノエが付いてるし、そこは大丈夫だろ。
「木下さん、風間と何話してるの?」
「峯岸か。別に、ダンジョン頑張ろうって話しだよ。」
そこへ突如俺の肩に手を回して峯岸が木下さんとの間に割って入ってくる。
「なっ、木下さん」
けど、木下さんは答えてくれずそっぽを向いて先に行ってしまった。なんかまた不機嫌にさせてしまったか。これで更に嫌われたかもな。はぁ〜ため息が尽きませんな。
「風間、俺本気だからな」
「わーってるって、別に邪魔はしねぇよ」
峯岸は真剣な顔をしている。どうやら俺が木下さんにまだ未練があるのではと疑っているのだろう。まあ未練はあるが今更何かをしようとは思わない。俺と彼女では釣り合わないし、眺めてるだけで十分癒やされるしな。今の距離感がちょうどいいのかもしれない。散々ウザがられたけど、やっと見つけた木下さんとの適切な距離感。ファンとしてこの距離で女神を眺めて、その恋に対しても傍観者として応援は出来ないけど、実ったらやっぱり祝福しないとかな。峯岸かぁ〜まあ見守らせてもらおう。
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