お願いと本音
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放課後
クラスメートはホームルームが終わると同時に一斉に席を立つと、収監された牢獄から旅立つように生き生きとした顔で部活やら遊びに行くやら友達同士で話しながら教室を出ていった。それに釣られて俺も教室を出ては行くものの、俺と火元はまだ檻の中に居て、投獄される場所が教室から裏庭の落ち葉地獄へと訪れていた。裏庭には季節樹と言われる四季に左右されない独自の四季を持つ木が植えられている。なので、現実は春なのに秋の季節を持つ季節樹のせいで、裏庭は新緑ではなく落ち葉でいっぱいとなっていた。
先生、ダンジョン行くの明日ですよ。こりゃ相当根に持ってるな。
「火元が余計なこと言わすからだぞ」
「楓斗んだって言いたそうな顔してたじゃん」
箒を片手に言い争ってても仕方ないか。魔法で一発で終わらせてもいいんだけど、まあこういう反省しなさいみたいな感じで言われてやらされてるのに、なんか魔法で解決ってのはなんか違うよな。
「さっさと終わらせちまおうぜ。」
なんで春なのにこんな落ち葉あるんだよ。
「ねぇ前さ、お願い1つ聞いてくれるっての覚えてる」
「ああ。セレナさんが言ってたやつだろ。覚えてるよ。」
「今使ってもいい?」
「掃除1人だけでやれとかは止めてくれよ。お前も部活あって大変だろうけど、さすがに1人でってのは寂しいからな」
まぁそうなったら魔法で一発で終わらせちゃうかもだけど。
「ううん。そうじゃなくて、ダンジョンのグループのこと。ホントに姫と組みたくなかったの?」
「その話は教室でもしただろ。」
「建前は聞いたよ。ウチは本音が聞きたいの。」
火元がいつになく真剣な顔してる。なんでそこまでして俺なんかの本音が知りたいかね。まぁけど、約束は守るかな。
「本音で言うと自分でもよくわからないかな。だって俺フラレたんだからさ。いつまでも木下さんの近くにいたらウザいだろ。散々迷惑かけたし、可能な限り迷惑をかけないようにしたいんだよ。けど、心のどこかでやっぱり組みたいって思いがあって・・けど教室で木下さんが俺とは組みたくないってハッキリ行ってくれたおかげで、攻略に専念することに決めたんだよ。んで、組まなかった理由に繋がるわけ。」
「・・そっか」
「まぁ、もっと言うと火元とは組みたかったよ。俺の構想の中に志保と火元は居て、カノとシバサクはどっちでも良かったんだ。」
「姫じゃなくて、なんでウチなの?」
「お前と一緒に居ると楽しいからだよ。」
「なに、その理由。もしかして告白?」
「ちげーよ。お前今回のダンジョンの場所聞いてんだろ。」
「迷わずの森でしょ。」
「その森では精神的に何かしらの攻撃を受けることが予想される。魔法は精神状態に大きく左右されるからな。だけどお前となら楽しく攻略出来ると思ったんだよ。だから一緒に組みたかった。」
「なら、なんでウチじゃなくて2人を選んだの?」
「だって、火元が居ないと木下さんは困るだろ。ウザいやつがせっかく寄り付かなくなったのに、親友も居ないとか、木下さんに迷惑かかるじゃん。今までのこともあるからさ、もう迷惑かけたくないんだよ。」
「迷惑か・・」
「そっ、だから今回はシバサクとカノと頑張るよ。お前らも峯岸と轟と一緒に頑張れよ」
さて、話も済んだ。さっさと掃除終わらせよう。せっせと掃きまくってやるぞ。まだ春だから日は少しずつ長くなっては来ているけど、夕陽が沈む前にはさすがに帰りたいからな。さっきからたまに吹く心地よい風は、見事に集めた落ち葉を舞い上がらせて掃除の手間を増やしてくれていることだしな。
「ねぇ、ウチとも勝負してよ」
「なんだよ、突然」
お掃除モードに移行しようとしていた俺に火元はいつもの明るい口調で問いかけてくる。
「ウチらがダンジョン攻略出来たら、またなんか1つ言うことを聞いてよ」
「お前らのメンバーなら普通に攻略出来るだろ」
ランキング上位のメンバーで構成されてるんだ。俺等より早くゴールするのは無理だとはおもうけど、攻略は楽勝だろ。このメンバーが攻略出来ないダンジョンだったら、ほとんどクリア出来ないだろうしな。
「何があるか分からないのがダンジョンだよ」
「何、それっぽいこと言ってんだよ。」
実際そういう可能性は大いにある。不足の事態が起きるということこそが、ダンジョンは危険だと言われてる大きな理由のひとつである。
「まぁけどあんま無茶じゃなくて、俺が出来ることならいいよ。」
「約束だからね」
「ああ、けど攻略失敗したら火元が俺のお願い1つ聞くんだぞ」
「分かってるよ〜あっ、エロいのとかは無しだからね」
「んなこと言わねぇよ」
「ホントかな?」
火元はニヤニヤしながらスカートの裾を持ってヒラヒラとアピールしてくる。
コイツはホントおちょくってくるよな。まぁだからこそ一緒に居て楽しいんだけど。
「美香、まだいる?」
「会いたかったよ、姫」
裏庭に突如として現れた美女に火元は持っていた箒を放り投げて速攻で抱きついた。この躊躇いない動き。ほとんど考える間もなく条件反射で抱きついたって感じだな。けど、会いたかったってつい数分前までは教室で一緒だったし、ここに来る前にも教室出る前に抱きついてただろ。火元もホント、木下さんのこと好きだよな。俺との違いは火元は親友へと昇華し、俺はウザいやつへと降格したってところかな。
あと、火元よ。抱きつくのはいいが、お前が投げ捨てた箒が貯めてた落ち葉を再び盛大に散らしたぞ。
「火元、箒投げ捨てたせいで落ち葉また散らばったじゃねぇかよ」
「ニャハハ」
笑って誤魔化してやがる。けど木下さんという絶対領域に居る以上、木下信者としては手を出しにくい。火元め、腕を上げたな。
「ところで、姫はどうしてここにきたの?放課後家の用事があるって言ってなかった?」
「先生に伝言頼まれたの」
「伝言?」
木下さんを伝書鳩代わりにするなんて。先生、それは酷いと思います。けど、どんな所でも木下さんに会えるのは信者として嬉しい限りですな。先生ありがとう。掃除頑張ります。
「掃除は楓斗に任せていいから、美香呼んで来いって」
先生を信頼した瞬間に裏切られた気分。
「先生が言うんじゃ、仕方ないよね。じゃあ、あとはよろしく。
「マジかよ」
まあけど、先生が呼んでるんじゃ仕方ないよな。掃除の罰を与えた先生が掃除を免除させるってことは重要なことかもしれないしな。けどこれが俺を貶める罠だったら・・やられたらやり返す。先生、覚悟しといて下さいよ。
「あっ、楓斗んさっきの約束忘れないでよね。」
「わーってるよ。お前も忘れんなよ」
「ニャハハ、じゃあまたね〜」
手を振りながら木下さんと消えていった。
さっきまでとは違い、異様に裏庭が広く感じる。これは裏庭が広がったのでしょうか。
「はぁー。んなわけねぇよな」
先生、魔法で一気に終わらすのは有りですか?
無しです。
って気がするよな。さっきまでは、火元居なくなったら速攻魔法使おうと思ってたけど、まさか本当に居なくなるんて予想出来るかよ。魔法使っちまうか。
「はぁー。けどなんだかんだ魔法使わずやっちゃうんだよな。こんなトコ真面目にやっても誰も評価してくれないんだけどね。」
箒を片手にまずは火元が散らかしたのから片付けるか。
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