内通者2
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昼休み。結局内通者は見つけられなかった。
だってなんかみんな怪しそうにみえるんだもん。まあ祭さんに関するワードさえ気をつけてれば問題ないだろう。
俺は中庭にあるベンチに腰掛けて大きく伸びをする。昼飯でも食うか。購買でかろうじてゲットしたあんぱん・・?あんぱんはいずこに?
俺の横に寄り添うように倒れていたあんぱんはどこに?
「ここのあんぱんはじめて食べたよ。」
俺のあんぱんちゃんの反対側に一人の女子生徒が恐らく俺のあんぱんちゃんを開けて勝手に食べてる。
「宮代さん、何してるの?」
「あんぱん食べてる」
「誰の?」
「?風間くんのだよ。」
「ですよね」
ってコイツなんやねん。いやクラスメートだよ。クラスメートの宮代志保さん。知ってるけどそんな絡んだことないハズなんだけど。なのになんでナチュラルに人のあんぱん食ってんの。
「なかなか見つからないから、疲れちゃった。」
「俺を探してたの?」
「そっ」
「なんで?」
「はい、これ」
「なに?」
「おねぇちゃんが渡せって」
おねぇちゃん?宮代さんのおねぇちゃん?・・宮代・・鈴
「えええええええ!宮代さんって、まさか鈴さんの妹!」
「うん。そうだよ、ポ・チ♪」
そのあだ名まで知ってるってことは確定だな。宮代さんは、鈴さんの妹で恐らく内通者だ。鈴さんの妹なら祭さんを知っててもおかしくない。あの人鈴さん溺愛してるし。
「お姉ちゃんって天使みたいに可愛いよね」
「同感です。」
おおーーさすが妹。鈴さんの魅力がわかってらっしゃる。祭さんへの密告者だろうと同士は大切に扱うべきだ。
「そんなお姉ちゃんがまさか、お弁当をね」
「なに!ってことはこれは鈴さんの手作り弁当なのか」
マジか、鈴さんの弁当。つまり天使の弁当。嬉しすぎる。神様ありがとう。
「ううん。作ったのは私。」
って鈴さんじゃないんかい。めちゃくちゃ期待しちゃったじゃねぇかよ。なんだよ今のフリは。
「お姉ちゃんの手作りかと思って期待しちゃった?」
「いや、別に」
めちゃくちゃ喜んじまったじゃねぇかよ。
「それは1度喜んじゃった顔だよ」
宮代さんはニヤニヤといたずらが成功したから勝ち誇ったように笑う。あんま絡んだことないけど、この子こんな子なん?
「まぁけど、弁当サンキュー。食べていい?」
「写メ取ってお姉ちゃんに送ってあげようよ」
宮代さんが出したスマホに2人でピースサインをする。鈴さんに送られるであろう画像だ。カッコよく映らねば
カシャ
「うん、よく取れてる」
宮代さんのスマホから写真を見してもらうと、何故か俺には垂れた耳と大きな鼻。そして吹き出しにワンと書かれていた。俺完全に飼い犬じゃん。
「なんで俺、犬デコされてるの?」
「お姉ちゃんこの方が喜ぶと思うから」
鈴さんが喜ぶなら俺は犬で本望です。
「ねぇこれクラスのメッセージグループに送ったらどうなるかな?」
「お前は悪魔か」
「そっ、お姉ちゃんは天使だから私は悪魔なの。間違って押しちゃいそう」
どうなるかなんていろいろ面倒になるのなんて目に見えてるだろ。まるで付き合ってるカップルがリア充アピールしてるみたいにしか見えんわ。けどホントにやりそうな怪しい顔を宮代さんはしている。
「あっ!間違えて押しちゃった」
宮代さんはいたずらが成功したようにスマホをタップする。
ヤバい、あの写真がクラス中にバラまかれるのはヤバい。恥しすぎる。
急いでスマホを開いてクラスのグループを確認するもそこにメッセージはなかった。なんだ騙しただけかよ。
ん?そこへ誰からメッセージが届く。
「宮代さんが祭さんに、今朝のこと話したんだよね。」
「そうだよ。なんか面白いことになりそうだなって」
「面白くねぇよ。おかげで次会ったら拳骨で地面にめり込むハメになりそうだよ。」
俺は宮代さんにスマホの画面を見せる。
ーーーーー
志保とツーショットとか百年早い。ババアだけなら、グーパンで許してやろうかと思ったが、次は埋める。せいぜい悔いが残らないようにしてから来な。
ーーーーー
こんな送ってきたらもう行くわけねぇだろ。命は大事。けど子供たちと鈴さんが居るからな。はぁ憂鬱だ。
「ねぇ、お姉ちゃんのこと名前で呼んでるなら私も志保って呼んでよ。」
「なんで?別に宮代さんでよくない?」
「いいから、呼びなさいよ。ポチ」
「はいはい、分かったよ。志保」
木下さんも前は朝姫って呼んでたけど、火元とかはまだ名前で呼んだことない。やっぱり女子を名前で呼ぶのって緊張するな。
「最近だと木下さんも名前で呼んでないみたいだし、火元さんも名前で呼んでない。あなたが名前で呼ぶのは私だけってことね」
ちょうど木下さんと火元のこと考えてたから言い当てられて驚いたし、確かに名前では呼んでない。
その通りだけど、だからどうしたって感じだよね。
「教室で風間くんが私の名前を呼んだら、彼女たちどんな顔するかしらね」
「別に気にしないんじゃないのか。」
「あなたの呼び名も変えてみようかしら。そしたらもっとフフッ」
「なんか悪い顔してるぞ。」
「フフッ今から楽しみだわ。ねぇ、楓ちゃん」
「誰が楓ちゃんだよ。」
「あなたは、教室で私の名前を大声で叫ぶことになるわ」
「んなわけあるかよ。」
その後も終始志保に会話のペースを握られ、振る舞わされながらようやく解放された。
教室までの道中がいつもより、遠く感じる。地面を眺めながら自然とため息が出る。
「ちょっとこっちきて」
「ちょちょっとなに?」
ようやく志保から解放されたと思った矢先に今度は、木下さん手を引っ張っられて俺は廊下から空き教室に連れて来られる。なにこのシチュエーション。今日はいったいなんの日なんだ。
「昼休み1人で居るって言ったのに。」
頬を膨らませてる木下さん。
「可愛い。マジ女神だわ」
「うるさい。なんで宮代さんと一緒にいるのよ」
「たまたまだよ。」
なんで?なんで一緒だったのかと言われて素直にお弁当持ってきてくれたなんて、とてもじゃないけど、好きだった人の前では言えないよな。
「嘘つき。死ね、さっさと消えろ」
【消失魔法】
「ホントに消えるんじゃないわよ」
俺が姿を表す前に木下さんは走り去っていってしまった。いったいなに?今日の木下さんなんか情緒不安定すぎない。なんか怖いんだけど。
■
ようやく自席に戻ってこれた。マジ疲れた。昼休みがこんな拷問タイムってあるのかよ。マジなんなの〜
「楓斗ん疲れてるけどなんかあったの?」
昼休み前より疲れた顔して帰ってきた俺をいつもと変わらず楽しそうな顔で横腹をツンツンしながら聞いてくる。
「ありまくりだよ。天使、鬼、女神、悪魔の4連コンボだわ。」
「あ〜なんか、大変だったんだね」
いろいろと察してくれたのか同情の顔が見える。
「お前はいいやつだな。お前の横が俺の唯一の癒やしの空間だわ」
踏み込んで何も聞いてこないし、なんか小悪魔的なこともなければ、逆ギレもない。今日ほど火元の横で良かったと思うことはなかっただろう。
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