内通者
【鏡魔法 鏡人間】
鏡に写ったような自分を複製する魔法。中身まで複製出来るかは術者の器量によるが、俺の場合はまあそこそこ自立して動くことが可能だ。その鏡人間を魔法で転移させて、授業を受けさせたことで見事に木下さんの遅刻は回避させることが出来た。木下さんも誰にもバレないよう、鏡人間と入れ替わることにも既に成功している。
「風間くん、遅刻の言い訳はあるかしら?」
そして俺は只今みんなの前で先生に問い詰められている。鏡人間を2体作ることも可能なのだが、あまりにも木下さんが可愛かったことで動揺して、魔力を安定させることが出来ず、誤って転移先を海底にしてしまって俺の鏡人間は海の藻屑となったのだ。
「鬼ババアに朝から騙されて、飯も与えられず奴隷のように働かされた結界、昼飯を買う余裕すらなく魔力切れを起こして倒れてました。」
「確かに顔色悪いし、目の下にくまも出来てる。魔力切れの症状に似てるわね。もう大丈夫なの?」
「それなりですかね。」
「事情はわかったけど、次から気をつけるのよ。連絡がないと何かあったのかと心配しちゃうから。寮母さんには連絡しときなさい」
「すいませんでした。」
スマホを見るとセレナさんから連絡が入っていた。
とりあえず大丈夫っと返信する。
すぐに返信が返ってきたのかと見ると、受信したメッセージは祭さんからだった。
ーーー
誰が鬼ババアなのか、今度じっくり話し合いましょう
ーーー
祭さん!!なんで鬼ババアって言ったことを知ってるんだ?まさかこのクラスに内通者がいるのか。
■
「久しぶりに夫婦で重役出勤?」
「なんのことだよ。」
「またまた〜朝の姫は楓斗んの魔法だったでしょ。」
「げっ!お前気づいてたの?」
「にしし、やっぱりそうだったんだ。なんか違和感あるな〜とは思ってたんだよね」
カマ掛けて来ただけで確証なかったのかよ。相変わらずコイツ勘良いな。ってかコイツにバレたってことはまさか
「多分先生は気づいてなかったと思うよ」
お前エスパーかよ。いつの間に心を読む魔法を習得したんだ。いや、たまたまかもしれない。よし、テストしてみよう。
火元の今日のパンツは赤色だ
これを読み取れるか
「ウチ心読めないけど、楓斗んが今なんかすげぇ失礼なこと考えてるのは分かるわ」
ジト目で俺を見る火元。あながち間違ってはいないのが、火元の凄い所ではあるが、心を読む魔法は習得してなかったのか。俺は当然使えるけど、これは倫理観の問題もあるから使わない。かつていろいろ使って遊んで知らなくてもいいことをたくさん知ってしまったからな。実体験を踏まえてこの魔法は封印した。
「先生は基本的に脳筋だから、気づいてないと思うけど、クラスの感知系に優れた子たちは違和感あったかもね。」
「まぁその程度ならなんとかなるかな」
「でっ、実際なにがあったの?楓斗んが魔力切れなんて珍しい」
「さっき先生にも言ったけど、鬼に朝から呼び出されて持たされたんだよ。」
「頼られてるんだね。」
「んなわけねぇだろ、あの鬼が俺を呼んだ理由は二日酔いだから朝の準備手伝えっていったんだぞ。頼ってるって言うんじゃなくて奴隷労働だよ。」
ん?待てよ内通者がいる以上はこれ以上下手なことは言えない。火元が内通者の可能性だってあるわけだ。だが、これだけ祭さんのクレームを入れたのにまだスマホにメッセージが来てる感じはしない。この席の近くにはいないのか?
「なんでそんな見てくるの」
コイツが内通者だったらヤバいよな。
「ちょちょっと恥ずかしいんだけど。」
なんかずっと愚痴ってた気がするし、恐らくコイツは白だろう。いや白であって欲しい
「姫〜。」
「キャッ。急にどうしたのよ」
俺等の席の前を歩いてきていた木下さんへと火元が飛びついた。相変わらず無邪気なやつだ。顔赤いけど、なんかあったのかな。
「楓斗んがいじめるから姫をチャージしてるの。」
げっ、この女なんてことを我が女神に伝えてるんだ。俺がいついじめたよ。断固抗議するぞ。木下さんに睨まれる。いやなんかいつもの切れる感じの睨みではなく、アンタ何やってんのよっという呆れ混じりの睨み方をされる。
「ん?姫から別の匂いがする。まさか男?」
「【浄化の炎】」
「いきなり何するのよ」
「木下さんという女神に男の気配なんてあるわけないだろ」
「楓斗んが影潜めてからちょくちょくあるよね。昨日も隣のクラスの男子に呼び出されてたよ」
「マジか」
直ちに調査して、始末すべきか。いやここは木下信者としてまずは、身辺調査から始めねば。
「姫に彼氏出来たら楓斗んどうなるんだろうね。」
木下さんに彼氏・・可能性は十分にあるな。ってかその気になれば今この瞬間にも彼氏を作れるだろう美少女だからな。そうなったら俺は・・
「死ぬかもな。」
「もう彼氏居るかもよ」
「火元、俺に止めをさしにくるか」
「見たくない?姫のか・れ・し!」
「ぐっ、。けど俺は木下さんが幸せならそれで・・ダメだ、泣きそう。火元慰めてくれ」
木下さんが、好きな人と付き合うのは信仰者として嬉しい。けど、嫌だという葛藤がぐるぐる巡り病んできた。その結界火元に抱き着いてみることにしたのだが、見事に木下さんに阻まれる。
「彼氏なんか居ないわよ。もう楓斗!美香にくっつかないの」
「じゃあさっきの匂いは?」
「朝、楓斗に抱き着いたからついたのよ。」
「・・・そっか」
あれれ?これって自分で言っちゃう流れだったんですね。せっかく勘づいた火元対策で浄化の炎使ってクリーニング同然の状態にしたのに。あまりの出来事に火元も目が点だよ。そして木下さんはようやく自分が何を言ったのかわかったのか、顔を真っ赤にして走って教室を出ていった。
■
「授業ダルいよね」
「今度休みどっか行こうよー」
「パピパピなす」
ダメだ。何言ってんのかわかんないやつ含めてみんな怪しく思ってしまう。これが疑心暗鬼ってやつか。昨日までは気のいいクラスメートだったやつらが今日は敵に見えてしまう。
休み時間クラスメートたちの、話し声に全神経を集中して会話を盗み聞きしてみたのだが、結界内通者は分からない。それどころかみんな内通者に見えて常に警戒態勢を張ってしまい、休み時間なのに気が休まらない。
耐えかねた俺は席を離れて廊下から外を眺める。ふわふわと浮く雲を眺めながら、朝の木下さんとの出来事を思い出す。
あれはもうすぐ死ぬ俺へのプレゼントだったのかな。
「ねぇ大丈夫?」
「大丈夫。俺は木下さんが居れば平気だから。マジ女神」
おっと、まさかの木下さん登場でついつい夢見心地のまま心の声が漏れてしまった。そう、他のやつならまだしも木下さんに騙されるなら問題ない。そう思うと気が楽になる。例え内通者だったとしても。
「な、なにいきなりキモいこと言ってんのよ。」
朝の時と偉い違い。これがツンデレか?
まぁけどこれがいつもの木下さんだよな。うん、そうだそうだ。朝はきっと何か魔が差したとか呪われてたとか気が動転してたとかまあいろいろあっていろいろあったのだろう。忘れられないけど、木下さんの邪魔はしないようにしないとな。俺の記憶の中に超厳重保管して、今まで通り対応しよう。
「早く戻った方がいいんじゃないのか?」
クラスの中の女子数人が教室からこっちを見ている。もちろん俺ではなく、木下さんをである。
「楓斗も一緒に行かない?」
「俺はいいよ。」
冗談だろ。火元とならまだしも、なんで、いきなり女子だらけの花園グループに入れってんだよ。流石に無理ありすぎだろ。
「ねぇ」
「ん?」
「どうしていつも一人なの?」
そう言えば木下さんにフラレてから一人になりたくて、気がつくと割りと一人でいる時間増えたかも。昼休みとかはたいてい一人でいるし。言われるまで全然気が付かなかった。けどこれは一重に俺がみんなと一緒にいたって言うより、木下さんの、周りに人が集まってきててそこに俺が居たってだけの話だろう。だから元々ボッチ気質だった、俺は女神の元を離れてめでたくボッチになりましたってか。なんか思ってて自分が悲しくなってくる。けど、実際は今の状況が嫌かと言われればそうではない。まあなんというかいい距離感を見つけたのかもしれない。
「昼休みも1人でいるの?」
「決めてはないけど、そうするかもな」
「前みたいにまた一緒に食べない?」
「どうしたの?急に」
「べ、別に。特に理由なんかないわよ。理由がないとダメなわけ?」
逆ギレしてても可愛い。マジ女神。
「ダメじゃないけど、辞めとくよ」
俺が居たら周りも気にするかもしれないし、木下さんの学生生活の邪魔出来るかよ。
「どうして?」
「木下ちゃーん!」
「人気者は辛いね。」
クラスの中から、女子たちが木下さんを呼んでいる。ホント女神。さすがの人気ですよ。信者として誇らしいよ。まだ何か言いたそうな顔をしながらも木下さんは教室へと戻っていった。
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