天国と地獄
「ハァハァ、あの鬼ババア・・」
俺は今学校に向かっている。体がダルい。
なぜ朝からここまで疲労しているのかと言うと朝から祭さんに呼び出されて保育園の準備を手伝わされたのだ。
俺にも学校があるので、普通なら断っているのだが、祭さんではなく鈴さんが困っているということで直行したのだ。だが、着いてすぐに鈴さんが居なくてハメられたことに気がついた。なぜ俺が?と当然聞こうとしたが、昨日合コンに失敗して二日酔いの祭さんの機嫌は最高に悪く、散々こき使われて只今魔力切れで意識が朦朧としている。
「もう限界」
学校に行く道を少し逸れた公園のベンチへと腰掛ける。
ベンチはちょうど木陰になっていて、通り抜ける風が気持ちいい。まだまだ暑さは序の口だろうが、春が過ぎてもう時期夏がやってくる。
「ねぇ」
眠くなってきた。まだ少し学校始まるまで時間あるし、少し寝ようかな
「ねぇ、ちょっと」
ちょっとだけ、ちょっとだけ寝たら学校に向かおう。俺の意識はあっさりと途切れた。
■
「ねぇそろそろ起きないとまずいわよ」
誰かに体を揺らされて目が覚める。なんかいい匂いがする。そして柔らかいクッションのような枕。せっかく人が気持ちよく寝てたのに誰だって!!
「朝姫!なんで!ってか!なんで!膝?なんで?」
「ちょっと落ち着きなさいよ。」
「俺死んだのか?朝姫はいつも通り可愛い。ここは天国なのか?」
「落ち着きなさい、ちゃんと生きてるわよ。」
「おお、そうだな」
とりあえず深呼吸、深呼吸。
俺は今まで何してたんだ。目覚めた衝撃で記憶が全部吹っ飛んでる。
ここはどこで、俺は誰なんだ。
なぜ起きたら女神がここに。
落ち着け、思い出せ思い出すんだ。
「話しかけようとしたらあなた寝ちゃったのよ。それで倒れそうだったから横に座ったら、楓斗アタシの膝に倒れてきちゃうんだもん」
ってことは俺は木下さんの膝の上でずっと寝てたのか。まさかの膝枕!木下さんの膝枕。
うぉーーーマジかよー。
神様ありがとう。祭さん、俺を魔力切れにしてくれてありがとう。
「つっ!」
頭痛がする。まだ魔力は全開にはなってないっぽいな。木下さんの膝枕。破壊力半端ない。この痛みを代価としてもおつりがくるぐらいの喜びだ。興奮で立ち上がったけど、頭痛で足元がふらつく。倒れそうになる俺はなんとか踏みとどまる。
「えい。」
それと同時に木下さんが俺の胸へと飛び込んで抱き着いてくる。
「どどどどどどうしたの?木下さん」
動揺しちまうよ。なんなんだ。この状況なんなんだ。
もう、なんでもいいよ。木下さんが抱き着いてくれてる。
神様ありがとう。祭さんありがとう。冬には死ぬかもしれない俺だけど、もう死ぬかもしれない。
「早くやりなさいよ。」
やる?何を?俺も手を回して抱きしめろってことか?いやいやそれはないだろ。
「また魔力逆流して毒が回ったんじゃないの?目の下にくまが出来てるわよ。」
木下さんの手は俺の体を伝って俺の頬に手のひらを触れながら目の下のくまをなぞる。
「もう、あんな楓斗を見たくないの」
消えてしまいそうなか細い声で呟く木下さんの声を聞き逃さないようにする。
それにしても、木下さんの頬を赤く染めた上目遣いハンパねぇーーーーーー
しかも顔近いよ。キス出来ちゃうじゃん。
これは、最早拷問だろ。惚れてまうやろ。
これで、惚れない男子はこの地上におりませんって。
「いや、ただの魔力切れでそれでかな。だから・・毒とかじゃなくて・・」
俺の言葉を理解したのかさっきまで以上に木下さんの顔が赤くなる。抱きつかれてるので、体温が上がってるのが伝わってくる。俺は噴火しそうなぐらいの体温なんですけど。
「それでも、もう少しこのままでいていい?」
「えっ?」
「お願い。1つ聞いてくれるんでしょ」
「よ、よろこんで。」
まさかの木下さんからの申し出に声が裏返ってしまった。俺としては二度と離したくもないし、離れて欲しくもないんだけど、まさか女神に抱きつかれて、更にお願いで抱き着き増しましですよ。
「あなたと一緒に居ると安心する。」
「何かあったの?」
「いい。もう全部解決したから」
木下さんの抱き着く力が強くなる。今まではソっと触れ合う程度の力だったのに今、ギュッて抱きつかれた。これはもしかして今なら俺もこの手で木下さんを抱きしめても。
キーンコーンカーンコーン
遠くの方から学校の鐘の音が聞こえてくる。
んっ?チャイム?
「ヤバい遅刻する。木下さんチャイム、チャイム。急がないと」
「ヤダ、離れたくない。」
「えぇー可愛すぎるんですけど。」
頬を膨らませて上目遣いで言われたら可愛すぎて俺が何も言い返せないよ。これはいつも気の強い木下さんからのギャップ萌え。けど、木下さんを遅刻させるわけには・・
「じゃあこのまま飛ぶよ。」
浮遊だと間に合わないから、このまま空間魔法で行けばギリ間に合うハズ。空間魔法で飛べば木下さんが俺に抱きついてても言い訳できるだろ。
「ヤダ、人に見られるの恥ずかしい」
「なら離れてくれても空間魔法は可能だよ。」
なんか間に合わないかもしれないから保険かけとくか。
「楓斗はアタシに離れて欲しいの?」
「いや、そんな、いやけど・・」
離れてほしくないに決まってるでしょーが。けど木下さんの学生生活に遅刻という汚点を残すわけには。けど駄々っ子木下さんにかなわないなぁ。
「もう!あなたは黙ってアタシを抱きしめてればいいのよ!」
「えっ?」
「早く手を回しなさいよ。」
いいのか?いいのか?ここまで言われたならオッケーってことだよね。木下さん公認で俺は初めて彼女を抱きしめた。始めて抱きしめた木下さんの背中は思ったより小さくて可愛いかった。
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