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おねがい


春先の澄んだ空に木々の隙間から太陽の光が差し込んでいる。多くの鮮明高校の生徒たちが通学路であるこの道を歩いている。

腕の毒も抜けて、気持ちのいい朝だ。

早起きは三文の徳のというように朝は1日の運命を決めて、今日のテンションに大きく影響する。

それなのに少し前を歩く黄色いセミロングの髪をかき分けた美少女こと木下さんはなぜこんなに不機嫌なのだろうか。

後ろから見てもなんか負のオーラが見える。触らぬ神に祟りなし。

このまま見つからないように一定の距離を保って学校目指そう。




教室に入ると火元が木下さんと楽しそうに話している。さっきまでの不機嫌そうな感じは見受けられない、気の所為だったのか火元の力なのか、まあどっちでもいいか。


「楓斗ん、おはよう。」


「おはよう、昨日は悪かったな」


「腕大丈夫?」


「ああ、もう平気。」


「ちょっと見せて。」


戻ってきた火元は、挨拶をするなり俺の腕を掴んで見る。大胆なやつだな。どうだ、鍛え抜かれたこの腕は惚れんなよ。どんだけ見ても完全解毒したから大丈夫だよ。


「これ何?」


「ああ、セレナさんお手性のブレスレット。着けてる人の魔力を抑え込むんだってさ。昨日解毒した後、セレナさんに絶対外すなって念を押されて付けさせられたんだよ。」


「昨日のはヤバかったもんね」


「解毒した後も説教ヤバかったぞ。もう機嫌直すのにどれだけ時間かかったことか。」


「ウチももうヤダよ、あんな楓斗ん見るの」


「ハハッ、そんな顔らしくねぇぞ。お前は笑ってる方が可愛いんだから。」


やっぱり迷惑かけたみたいだな。火元が俺を心配してくれたのは痛いほど伝わってくる。けど、俺は心配してくれる時間よりも、一緒に笑ってられる時間を火元と過ごしたい。


「ん〜もう、真面目に心配してやったのに。姫、楓斗んの腕平気そうだよ。」


俺の腕を人形のように振り回して木下さんの方へと手を振る。俺の鍛え抜かれた腕も火元の前ではおもちゃと化してしまう。

まあ木下さんにも昨日は迷惑かけたしな。けど俺睨まれてない?なんか睨みながらこっち向かってくる。


「なあ火元、木下さん今日機嫌悪くなかったか?」


「ほぇ?そんなことなかったけど、なんで?」


「今日少し前を歩いてるの見えたんだけど、超機嫌悪そうに見えてさ。今も睨まれてるし。」


「見かけたなら、声かけてあげなよ。」


「お前じゃねぇんだから、朝から木下さんの邪魔出来るかよ。」


「ウチなら話しかけてくれたの?」


「そりゃそうだろ。」


散々木下さんに付き纏って迷惑かけた俺が話しかけるなんて出来るわけないでしょうが。女神の朝の時間、女神タイムは完全不可侵の時間なのだ。火元の時間は普通にノリツッコミという笑いの時間なので、気にすることはない。


「手ぇ見せないよ。」


こっちに来るなり、木下さんは腕を組んで俺を睨む。何なのこれ?けど、今までもデフォルト怒らせてた気がするからこの状況に違和感を感じない自分が怖い。このまま土下座させられて踏んづけられるのかしら。変態かよ。


「そう言えば、楓斗んウチ等の願いを1つ叶えてくれるんだよね?」


「セレナさんが言ってたやつか。まあ俺が出来ることならな。あっ、火元昨日のノート貸してくれよ。」


「あいあい」


火元が机の中を漁っていると、俺の机の上に2冊のノートが置かれる。


「アタシの貸してあげる。」


「あ、ああ、サンキュー。」


木下さんのノート。つまり女神のノートか。なんてことだ。これは扱いに困る。嬉しいんだけど、困るけど困るより嬉しいが勝つという難しい心情。


「良かったじゃん、楓斗ん。」


「さてさて、願い事はなんでございましょう。お姫さまたち。可能な願い事なら1つだけ叶えて信ぜましょう。」


「またいっ・・」


俺が魔法の妖精のように両手を組んでどっしりと構えていると後ろからさらなる来客。


「翔吾、お前どうしたんだよ。」


そして何故か不機嫌。今日不機嫌なやつによく絡まれるな。イケメンが来たことでクラスにいた他の女子の視線が翔吾に集まる。くそ〜これがイケメンの力か。


「火元、ちゃんと楓斗見張っててくれよ。」


「急になんだよ。しかも俺じゃなくて火元にようなのかよ。ハッお前まさか火元にコクリに・・」


翔吾が俺ではなく火元の前で足を止めて彼女に話しかけたのは以外だった。少し心がモヤっとした感じがする。これが嫉妬なのか。


「んなわけねぇだろ。お前と一緒にすんな。火元、二度とあんなことにならないように、このバカの手綱をしっかり握っててくれよ。」


「俺は火元の犬かよ。」


「リードは短めにな。」


「ウチはもっと可愛い犬がいい。」


「魔法が使えて便利な犬だから勘弁してやってくれ。」


「お前ら二人して俺をディスるのはやめろよ。」


なかなかのコンビネーション攻撃じゃないか。だが毒から復活した俺なら捌き切れる攻撃だな。作り笑顔じゃなくてナチュラルに女子と笑ってる翔吾なんて珍しいな。そして翔吾の笑顔にキャーキャー言ってる女子と火元への嫉妬の炎が見える女子に分かれているのが怖い。


「んで木下、お前どの面で楓斗に会ってんだよ。」


「おい翔吾、急にどうしたんだよ。」


笑顔から一転、翔吾は険しく明らかに怒りを滲ませて木下さんを睨む。この2人にそんは接点なかったハズだけど、なんでこんなキレてんだ。


「ノートなんて貸して、散々無視しておいて今更いい人ぶんな、迷惑なんだよ。」


木下さんの胸ぐらを掴みそうになった翔吾の手を体を入れて防ぐ。

女に手を出すなんてコイツどうしたんだよ。俺の前でしかも木下さんに手を出すとか危うく殺しそうになったじゃねぇか。ってか女神である木下さんの行動が迷惑なワケねぇだろ。ノートに謝れ。


「翔吾、もうやめろ!用が終わったならさっさと帰れ」


「木下、なんか言いたい事があるなら・・」


「帰れ」


コイツの言い分も分からなくはない。多分俺のために言ってくれてるんだろう。けどこの件にコイツはそこまで絡む必要はない。俺と木下さんの問題であり、いやむしろ俺の問題か。


「チッ。火元、頼んだからな。」


「アイツ何しに来たんだよ。キレてるし」


「ウチに楓斗んの飼い主になれってことかな?」


「それって告白か?」


「そう聞こえる?」


「いや」


「首輪とリードは何色がいい?」


「強いて言うなら赤かな」


去りゆく翔吾は、いつものような作り笑いで女子へと手を振りながら去っていく。その姿を火元と馬鹿みたいな会話で刻む。そして俺の後ろには俯き小刻みに震える木下さん。翔吾のやつマジ切れしやがって。


「木下さん気にしないで、昨日からアイツピリピリしてるんだよ。俺もめっちゃ怒られたし、多分八つ当たり。絶対そう。全く、顔が良くても器が小さくてこまっちゃうよね。」


「ごめん、ノートやっぱり美香に借りて」


木下さんは素早く俺の机の上からノートを取ると自席に戻り、蹲ってしまった。


「まあ九条くんの言い分も分からなくはないよね。」


コイツのことだから翔吾に殴りかかったりするのかと思ったが、意外に冷静でどこか寂しそうな顔する火元に驚く。

翔吾の言い分か。火元なりに何か思う所はあるんだろうな。


「ほい、ノート」


「サンキュー。」




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