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治療


「花火師が帰ってきたぞ」


教室に入った瞬間はみんな心配そうな顔で俺を見ていたが、西本のその一言でクラスから爆笑があがる。俺を笑い者にしやがって、魔法が使えるようになったら、アイツ殺す。

俺はイジられながら自分の席につく。


「手大丈夫?」


俺の隣の席にいる火元と木下さんがこちらを向く。


「まぁそれなりには治ったよ」


「それなりってどういうこと?」


「火傷と凍傷は治ったけど、毒が残ってるみたいなんだよ。」


「それって大丈夫なの?」


「まぁ今んとこ少し熱いぐらいかな。先生が言うには俺に毒耐性があるから大丈夫だろうだってさ。」


軽く包帯を外して、火元と木下さんにキレイに治った腕と毒の印を見せる。

こう見ると紫の線が案外カッコよく入ってるな。けどさっきより少し濃く、長くなってる気がする。こりゃ毒が回ってきてるな。


「楓斗んって毒魔法まで使えたの?」


「ん〜まあ直接的には使ったことはないんだけどね。」


「解毒すればいいじゃん」


「それができないから、毒が残ってるんだろうが。」


「姫、解毒してあげれば?」


「けど先生が無理だったなら、アタシじゃ」


「やってみればいいじゃん。どうせ何かあっても痛がるのは楓斗んなんだし」


「お前、俺の体を何だと思ってるんだよ」


まさか木下さんが解毒魔法を習得出来るとは以外だった。呪いとかの浄化系の魔法は得意で、あとは光属性の攻撃が使えるという情報は調査済みだったのだが、ここにきて見落とした情報があったとは。女神へのリスペクト不足だな。


「よし、やってみる。手ぇ出しなさい」


さっきまでの会話のどこにそんなやる気に満ち溢れるワードがあったのでしょうか。火元ならそうツッコミを入れる所だが、相手は女神。この方に殺されるなら本望。俺は素直に右手を差し出した。


「解毒魔法【クリアポイズン】」


木下さんの言葉で俺の毒の線が光輝く。身体が少し軽くなっていく感覚がある。おっこれは解毒出来ちゃう。


バチバチバチ


光から突然紫の稲妻が現れると包んでいた光が弾け飛ぶ。

腕には紫の線が残ったまま。やっぱり無理か。


「うそ、失敗。なんで解毒出来ないの?」


「先生が言うにはこの魔法は俺自身がかけた魔法だってのが厄介なんだって。」


「どういうこと?」


「俺以上の魔道士じゃないと解毒出来ないってこと。」


「アタシがアンタより下ってこと?」


そんな睨まないで下さいよ。まあ確かに学年ランキングだと俺の方が下だけど、けどなんか睨まれてるこの感覚も悪くない。


「少なくとも俺の魔力量と毒魔法の練度は、木下さんを上回ってるってことだよ。」


「じゃあ、どうやって解毒するのよ」


「ん〜まぁ先生が調べてくれてるみたいだけど、俺が魔法のコントロール出来るようになるのを待つか、セレナさんに無理矢理頼むかとかかな。」


「そんな悠長に構えていいの?毒に犯されてるのよ」


「まあなんとかなんでしょ。」


笑う俺を呆れ顔で見る木下さん。ホント可愛いな。諦めたけどやっぱり木下さんと話せることは嬉しい。もう一つ解毒方法があるんだけど、それも話してみるか。


「あと、解毒方法としては俺に抱き着いてくれたら治るかもしんない。」


俺は二人に両手を広げてみた。

木下さんは驚いて膠着している。まあそうなるか。


「ウチでもいいの?」


「やってくれんの!助かるわ」


まさかの火元が俺の元へと両手を広げて一歩近寄る。さすが陽キャ。いつも木下さんに抱き着いてるし、こんなの慣れっこなのか。火元が善意で言ってくれてるのかもしんないけど、なんか急に遊び人っぽく感じてしまった。すまん、火元。


「ちょっと美香。止めなよ。」


「けど楓斗んが。」


そんな俺と火元の間に木下さんが手刀を振り下ろしてストップをかける。


「ちょっと、本当に抱き着いたら治るの?」


木下さん近いですよ。その、距離感。誰かが押したらキス出来ちゃう距離ですって。


「ん〜多分」


この方法には相性があるから絶対とは言えないんだよな。やってみないとわかんないんだよな。


「なによ、それ。ただ抱き着いて欲しいだけじゃないの。この変態!」


腕を組んでプンプンと怒る木下さん。マジ、カワユス。

抱きついてほしかったって気持ちがないわけではないけど、いやむしろ解毒よりも抱き着いてもらうことの方が嬉しいんだけど、まあ流石にこれは無理だよな。いろいろ不確定要素もあるから火元が来ても解毒試さなかったかもしれないし。



授業が開始され、先生が黒板へと板書を始める。

右手は段々と熱くなってくるし、毒の線も肘の辺りを過ぎている。

思ったより毒の周りが早い。ホントに大丈夫なのか?


「か・・」


けど、現状この解毒方法はないし放課後まで持つしか


「かざ・・」


右手が痺れて体中が熱い。さすがはアイツの毒だよ。味方なら頼もしいけど、この事態は予想外だろうな。


「ちょっと楓斗ん。先生呼んでる」


火元が俺を揺すってくれたことで、ハッとすると先生が俺の前で教科書をパシパシと叩いてる。


「風間、聞いてるのか?これやってみろ。」


黒板の問題を指差す。やべ、ちょっと毒の方に集中し過ぎで堕ちてたかも。まあなんとか問題と先生とのキャッチボールで解いてみせましょう。

しかし、立ち上がった俺は直ぐに全身の力が抜ける。体に力が・・ヤバい。

俺は机に手を付くも体を支えきれず、こっちを向いていて火元の元へと倒れ込む。


「あっつ!凄い熱じゃん。楓斗ん!ちょっとしっかりして、楓斗ん!」


火元、お前いい匂いするな。そして胸が当たって幸せ。案外あるやんけ。

こんなこと思ってるなんて言ったら殺されちまいそう。心配する火元の声に答えてやりたいけど、ちょっと無理っぽいわ。

意識が遠退いていく。これで死んだら師匠たちは笑いそうだな。



意識が戻ると保健室だと言う事は、理解できた。白いカーテンに簡易的な結界が張ってある。

右腕は熱いし、左足も同じような感覚がある。いや感覚はもうないか。どうやら四肢を落とす系の毒をくらっているらしい。アイツらしい厄介な毒だよ。時刻は時計ないから分かんない。俺いつまで寝てたんだ。


「楓斗ん、起きてた。」


白いカーテンからひょっこりと火元と木下さんが顔を出す。


「迷惑かけたな」


「具合どう?」


「大丈夫・・とは言えないかな。ハハッ」


こんな状態で大丈夫と言っても信じてはもらえないよな。クラスで倒れたんだっけ。まさか自分の魔法でここまで拗らせるとは。


「アタシもう一度解毒やってみる」


「近寄らないで!」


カーテンから乗り出して来た2人を静止させる。


「結界が張ってあるってことは厄介な毒かもしれないから二人は関わらない方がいいよ。」


これ以上近寄るのは危険すぎる。多分うつらない毒だろうけど、万が一うつると自分で自分が許せなくなる。


「お邪魔するよ」


ドアが開いてカーテンから顔を出したセレナさんは結界の内側に入ってくるともう俺自身の力では動かすことの出来ない腕を見る。


「また、バカしたね。」


「すいません。」


「場所変える?」


「無理です。もう足も動かないんで。」


「なんでほかの人に、手伝ってもらわなかったの?手伝ってもらえば解毒なんて簡単に出来るでしょ」


「あの解毒する方法って?」


「この子に抱き着くこと。それで直接魔力を供給してもらうの。アタシは相性悪くて出来ないけどね」


「抱き着くってホントだったの・・」


木下さんが俺を申し訳ない目で見てくる。俺は精一杯の笑顔で平気そうな顔をしてみせた。


「今の楓斗は魔力をコントロール出来ないけど、コントロール出来る誰かに魔力を預ければ簡単に解毒出来たでしょ。」


「失敗したら俺の毒もらっちゃうかもしれないじゃないですか。巻き込めませんよ。」


「そんな状況?強がるのも大概にしときなさいよ。」


「今からでもアタシが」


「ウチもやってもいいよ。」


「大丈夫。もう大丈夫だから。セレナさんが来てくれたし。あとはなんとかしてもらうから二人は帰って。」


恐らく2人のどっちかを媒介にすれば解毒は可能だと思う。けど、やっぱ嫁入り前の女子になんかあったら嫌じゃん。女神である木下さんも、火元の2人共大切だからね。


「また明日学校でね。火元、今日の授業のノートあとで見してくれ。木下さんもありがとう。気をつけて帰ってね。」


「けど楓斗・・他の解毒方法で大丈夫なの?」


「もうやってもらえることは何もないから。帰れよ。」


思ったより苛立ってしまったのかもしれない。自分が思う以上に冷たい声が出てしまった。申し訳なく思うも、離れて欲しい思いは変わらなかった。こんな無様な姿を見てほしくないのもあったし、こんな弱ってる所は見てほしくない。


「明日楓斗が言う事1つ聞いてくれるみたいだから、今日の所は帰ってくれるかな。」


納得したのかしていないのか分からないけど、2人は何も言わずに部屋を出ていった。


「強がっちゃって、素直にアナタにフラレたショックで魔法をコントロール出来なくなりましたって言えばいいのに。どっちかなんでしょ。アナタの好きだった子。」


「んなこと言えないですよ。勝手な約束までしちゃって。」


「ああでも言わないと帰らなかったわよ、あの子たち。それで付き合ってもらえれば、あんた魔法コントロール出来るようになるかもしれないじゃない。」


「そんな人の心を弄ぶようなこと言って、無責任だな。楽しんでないで、お願いします。」


「周りを気に病む弟子も誇らしいし、あんなにアナタのことを思ってくれる子達がいるのもアタシとしては嬉しいけど、いいの?アタシはあの子たちに頼むべきだと思うけど。あんただって相性が良いと思ったから頼んだんだでしょ」


「いいですから。お願いします。」


「今は何言っても無駄か。アナタが弱さを見せられる子が早く現れないと早死にしそうね。はぁ、覚悟はしなさいよ。」


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


毒抜きのナイフという特殊な道具で血が出ず、毒のみを抜くことができる。しかし痛みは本物。腕に次から次へとナイフが刺される。


「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


部屋中に俺の叫び声が響く。喉が枯れるほど叫んで俺の解毒は完了した。



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