表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの魔道士編
9/274

第9話 王都にて その一

「坊ちゃん! そろそろ起きて下さい!」

「…………ん?」


―――カーン! カーン!


「ひえっ!?」


 なかなか起きないアルフに耐えかねたマーサが、フライパンをお玉で叩き鳴り響かせる。

 耳元でそれをやられたアルフは驚き飛び跳ねた。


「マーサ。もう少し優しく起こしてくれないかな」

「坊ちゃんが何度呼んでも起きないからですよ! 良い夢でも見ていたのですか」

「良い夢ではなかったよ」


 先ほど見た悪夢を思い出してアルフは口をとがらせて渋い顔になる。


「だったら余計に早く起きて下さいな。もうお昼ご飯の時間も過ぎてしまいましたよ」

「えっ!」

「サイドテーブルに軽食を用意してありますから召し上がって下さい」

「ありがとう」

「ドロシーのご飯も置いておきますよ」

「さすがマーサ! 助かった。食べたら出かけてくるよ」

「ニャァ」


 言いながらアルフは用意されていたパンを紅茶で流し込むように食べる。


「またお出かけですか? 毎日毎日いつ約束をしているのやら」

「あははは……」

「笑い事じゃないですよ! 坊ちゃん」

「それじゃあ、行ってきます」

「はいはい。行ってらっしゃいませ」

 

■■■

 

 貴族であれば、通常出かける時には馬車を利用する。

 しかしアルフはパーティや買い物以外はいつも徒歩で出かけていた。

 表向きの理由は”乗り物酔いが酷いから”という事にしてある。

 もちろん実際は魔法転移で移動した方が早いからである。


 辺境伯であるブロシャール家の屋敷周辺には野菜畑や薬草畑が広がる。

 果樹園の他に木材確保のための植樹などもされており、人が身を隠せる場所も多い。

 アルフはそういった死角を利用する。

 いつものように収納空間からフード付きの黒ローブを取り出しバサリと羽織る。

 それを合図とばかりにドロシーが肩に飛び乗った。


「さて、王都とエルフの森のどちらを優先すべきかな。ドロシー見えるかい?」

『王都の方ではすでに女性が追われています。危険度が高いかと』

「ゆっくり準備している時間はなさそうだ。急ごう」


 アルフは軽く目を閉じて額に手を当てる。

 王都の市民が住まう路地をイメージして転移した。

 一瞬で周囲の景色が変わる。


 王都アングレットは中央に王族の住まう城があり、周囲を貴族の屋敷が取り囲んでいる。

 さらにその周囲には高級店や有力な商家の家が建ち並ぶ。

 外壁に近いほど市民の住まう住宅やギルドがある。

 都市の入り口には格安の宿や小売りの露店商の姿が見られる作りになっていた。


「さすがに王都は広いね。人の気配が多すぎて探すのも大変だよ」

『ご主人様。あの青い屋根の家ではありませんか』

「見つけるの早っ!?」

『お任せください』

「まだ中に人の気配は無いね。よし、先回りして待っていようか」


 そう言ってアルフはためらいなく家の扉を開けて中に入り、勝手に椅子へと座る。

 今頃、追われているであろう女性を探すという手も考えた。

 しかし昼間に黒フードがウロウロしていては悪目立ちしそうだった。

 おとなしく待機する方を選択した。


「まだかな」

『今は貴族街エリアを抜けて、市民エリアの手前で戦闘になっています』

「あ、けっこう戦える人なのか」

『短刀を使っているようですね』


 ドロシーはアルフの気配察知魔法よりも、さらに詳細な情報を知ることが出来る。

 そんな不思議な感覚が備わっていた。

 時には別の動物や人の視線を借りたりしながら教えてくれる。

 夢の中だけでは知り得なかったことを探ることが出来てとても助かっていた。


「……出会った瞬間に殺されないように防護魔法を発動させておこうかな」

『ご主人様は私が守ります』

「ありがとう。でも僕はドロシーが怪我するのも見たくないよ」


 そう言ってパチンと指を鳴らす。

 アルフは自身とドロシーに防護魔法を発動させた。

 これで解除しない限り、通常の物理攻撃ならば通らない状態が維持される。

 時間があったので収納空間から『美女名鑑』を取り出しパラパラと眺め始める。


「急いで来すぎたかな」

『そろそろです。もう近くまで来ていますよ』

「よし気配を消しておこう」


――キッ、パタッ。


 小さな音を立ててドアが開閉する音がした。

 そこには夢の中で見たのと同じように白いローブをかぶった女性が立っていた。

 夢とは目線が違うため、フードからこぼれる美しい金髪も見える。

 外を警戒している女性が少し気を緩めた瞬間を見計らってアルフは声をかける。


「お邪魔していま……うっ」


 次の瞬間、喉元にはナイフがあったので両手を挙げ敵意が無いことを示す。


「何者なの?」

「怪しい者ではありません。通りすがりの魔道士です」

「充分怪しいわ。まずはフードを取りなさい」

「それは勘弁して下さい。恥ずかしがり屋なんです」

「ふざけないで! 殺されたいの?」


 そう言ってさらにナイフを押し込もうとする。

 しかし首とナイフの間に薄い光りの壁が生まれそれ以上刃が進むことは無かった。


「お互いフードで顔が隠れていることですし、察して下さい」

「貴方の目的は何かしら」

「その前に。このナイフが喉元にあると話しにくいのですが」

「防護魔法の前では、こんな刃物なんて意味ないじゃない」

「気分の問題です」


 ため息を吐きながらフードの女性は渋々といった様子でナイフを仕舞う。

 そして目的を話すように手で合図する。


「僕の目的は二つ。一つは貴女の命を救うこと」

「私を助けに来たというの?」

「はい。そしてもう一つは貴族の屋敷地下に捕まっている人たちを救うことです」

「どこでそのことを……まさか王家の密偵なの?」

「あまり探らないでもらえると助かります」

「分かったわ」

「こちらも時間がないので手短に説明しますね」


 一部の者しか知り得ない情報を出したことで聞く耳を持ってもらえた。

 そしてドロシーが飛びかかることを防げたことにもアルフは安堵していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ