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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの魔道士編
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第8話 悪夢の中で

 気がつくとアルフは暗闇の中にいた。

 いつものように目の前には大きな鏡が出現している。

 この鏡に自分の姿は映らない。

 映し出されるのはこれから起こるかもしれない未来の出来事。


 いわゆる予知夢であった。

 それは身近な人物に対してのものもあれば、知らないだれかのものもある。

 以前はこの鏡の中で見た出来事は変わること無く現実のものとなっていた。

 しかしドロシーと出会ってからは変えることが出来るようになっていた。


『ご主人様』

「ドロシー。来てくれてありがとう」


 出会う前はどんな悪夢も一人で見ていた。

 今はドロシーが夢の中に入ってきて一緒に居てくれる。

 アルフは逃げ出さずに最後まで悪夢に向き合うことが出来るようになった。


「今回の舞台は王都か」


 アルフは呟くが、その声が鏡の中に届くことは無い。

 ドロシーと一緒に演劇を見ているような心境だった。


 王都アングレットの街で、白いフードをかぶった女性が男達に追われている。

 何度か角を曲がり、路地裏に逃げると一軒の家に飛び込んだ。

 女性は扉を閉めて息を殺しながら外の様子を窺っている。

 男達は女性を探し回っているがなかなか見つからない。


 その間にフードの女性は首から下げているペンダントの宝石を握りしめた。

 しばらくすると家の裏口から貴族と思われる身なりの男性が入ってくる。


「貴女がご無事で何よりです。例の帳簿は見つかりましたか?」

「はい。こちらが奴隷商人との取引記録です。屋敷の地下には不当に捕われた者達もおりました」

「ご苦労様でした。ではこちらは私から宰相へ渡しておきましょう。貴女はしばらくここへ隠れて居て下さい。仲間に連絡しておきます」


 そう言って渡された帳簿を仕舞うと男は家の外へ出て行く。

 しかしその男に女性を捜し回っている男達の一人が話し掛けている。


「マクシム様」

「不用意に外で名を呼ぶな。あの女は路地裏にある青い屋根の家にいる。始末しておけ」


 そう言い残すと待たせていた馬車に乗り込みどこかへと向かった。


■■■


 鏡の中では血まみれになった女性が床に倒れている。

 その映像を最後に鏡は消えていった。

 ひとつの夢が終わった合図だった。


「うーん。あの女の人、裏切られて殺されちゃうのか」

『殺させはしないのでしょう?』

「もちろんさ。こんな夢の結末、僕には耐えられないよ」

『捕われている者達も救うのですか』

「出来れば助けてあげたいな。でも貴族の屋敷となると準備が必要かな」


 アルフとドロシーは暗闇の中で語り合う。

 そうしていると再び目の前には大きな鏡が出現した。


「次はどんな夢だろう」

『エルフ族が暮らす森のようですね』



■■■



 巨大な樹木の上に自然と調和したように家がいくつも作られている。

 樹上では、とがった耳が特徴のエルフ族が暮らしているらしい。

 そこから近い場所に視点が移る。

 姉妹だろうか髪の長さはちがうが似たような顔をした二人がいる。

 切り株に腰を掛けて仲良くリンゴをかじっている。


「シャリシャリで美味しい!」

「蜜もたくさん」

「お母さんにも食べさせてあげたいね」


 そんな二人に向かって背後から大きな網が投げつけられる。


「きゃぁ!」

「いやっ! 何これ!?」


 突然のことに慌てるが網が絡みついて上手く逃げられない。

 そこに電撃の魔法が放たれ、ふたりはそろって気を失ってしまった。


「ぎゃははは! 上手くいったぞ!」

「さすがは魔法使い様。狙い通り、傷つけずに商品が手に入りましたよ!」

「魔道士と呼べ」

「失礼、魔道士様でしたな」


 ほのぼのした空気は一転。

 二人は気を失っている間に、手枷と首輪を取り付けられていた。

 そして檻のようになった馬車の荷台に乗せられてしまう。


「エルフの娘は高く売れますよ。これは成功報酬も楽しみですねえ」

「つまらん仕事だ」

「まあまあ、あと数人狩ったら完了ですから。もう少し力を貸して下さいませ」


 奴隷商人と思われる小太りの男と魔道士と呼ばせた男がいる。

 他にも武器を所持した男達を含めて八名いるようだ。

 商人は薄ら笑いを浮かべながら馬車を走らせた。

 その左右と後方に二名ずつ馬に乗った男達が護衛として付いて行く。

 魔道士と呼ばれた男は荷台へ入り逃げ出さないように見張っている。


 辺りが暗くなった頃、男達がたき火の前で酒を飲みながら食事をしている。

 奪還に来たエルフの弓が暗闇から飛んでくる。

 しかし弓矢は男達を射貫く事無く全て地面に落ちていく。

 行動を予想していた魔道士が魔法防壁を張っていたため奇襲は失敗に終わった。


「魔道士様の見立て通り、どうやら商品が自ら来たようですな」

「無駄口を叩いていないで昼間のエルフを連れてこい」


 その後、人質を取られたことで手を出すことが出来なくなったエルフ族。

 次々と男達や魔道士に倒されていく。

 商品価値のあると思われるもの達は捕まってしまったようだ。

 その場面を最後に鏡は消えていく。


■■■


「はぁ。こっちの夢もひどいな」

『ご主人様の力で永眠させてやりましょう』

「……ドロシーさん怖いです。でもあんな魔道士なら永眠させるのも有りかな?」

『ご主人様の思うままに』

「しかしこんな悪夢ばかりだと気が滅入るね」

『ニャア』

「もっと楽しい夢なら良いのに」


 そんなことを話しながら悪夢を振り返る。

 ユサユサと身体を揺り動かされる感覚があり少しずつアルフの意識が浮上した。

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