第62話 フードを取った顔
何とか興味を失ってはくれないだろうかとアルフは願っていた。
しかしそう簡単にはいかないようだ。殿下が疑問を口にする。
「でもやっぱりおかしいわ」
「何がです?」
「だって貴方は宮廷魔道士団の試験を受けていたのでしょう?」
「……それは」
アルフが殿下にどう言い訳しようか考えていると、扉がコンコンとノックされた。
メイドが訪問者の名を告げる。
「殿下。銀の魔女様がお見えです」
「通して」
扉が勢いよく開かれた。白フードを翻し、銀髪の女性が現われる。
フローラ殿下に追い詰められていたアルフはしばしの解放に安堵していた。
「失礼するね。おー! いたいた。冒険者くん!」
「銀の魔女様」
「探したよ。待たせていた子って姫殿下のことかい? これは王宮スキャンダルかな」
「まあ魔女様ったら」
「違いますよ!? 僕が待たせていたのはドロシーです!」
『ニャア』
アルフは慌てて肩に乗るドロシーを紹介する。
この上スキャンダルに巻き込まれるなんてとんでもない話だ。
「何だ。冒険者くんの彼女とは猫だったのか! あれ? その子はもしかして……」
「あー! そうなんですよ! 僕も話がありました! 銀の魔女様」
「うん。そうそうお姉さんも魔……」
「あー! すみません! 魔女様をお待たせするなんて! さあ行きましょう!」
アルフは余計な事を言われないように大声で言葉を遮り、銀の魔女の背を押して部屋から出る。
フローラ殿下はその様子に、つい呆然と見送ってしまいそうになる。
「それでは殿下。僕たちは失礼します」
「お待ちなさい! そう簡単には帰さないわ」
「……怖い」
「何か言ったかしら?」
勢いに任せて退出しようとしたのに、失敗してしまった。
銀の魔女からは不憫そうな子を見る目で見守られている。
「そもそも王族の前で顔を隠す何て不敬よね。そのフードを取りなさい」
「……お目汚しになると思いますが」
「構わないわ」
「……どうしても?」
中々フードを取ろうとしないアルフに、フローラ殿下の言葉が強くなる。
眠りの魔道士に似た姿を気に入った殿下は、フードを取った顔を見るまで帰す気はなかった。
「当然のことよ! 不敬罪で投獄されたいの!?」
これ以上は隠し通せない。
アルフは大きなため息をついて顔を隠していたフードを外す。
「うっ」
その顔は酷い火傷跡で醜くただれており、頭髪も失われている恐ろしい容貌だった。
顔の右半分には大きな爪痕まで残っている。
元がどんな顔だったのか想像するのも難しい。
――ガチャン!
「……ひっ! も、申し訳ございません」
お茶の準備をしていたメイドがその顔を見て、ティーカップを落として割ってしまった。
「フードの理由はこの顔で納得いただけますか」
アルフは瞳孔の開いた眼でギョロリと見つめながら、殿下に確認を取る。
そのおぞましい容貌を直視出来ずに、フローラは目を逸らしながら告げる。
隠していた顔を見てしまった事を後悔していた。これは確かに見られたくないだろう。
「わ、悪かったわ。フードを外させてしまって。でも、どうしてそんな顔に?」
「冒険者に危険はつきものですから」
「……そう。もう良いわよ」
「お心遣いに感謝します。このまま退出しても?」
「許可します」
よし! 内心ガッツポーズを決めて、アルフは魔女と共に足早に退出していく。
殿下の部屋を出て長い廊下を無言で歩く。
さらに数階分の階段を降りて無言で歩く。
ようやく戻ってきた廊下の途中で、銀の魔女は耐えきれずに忍び笑いを始めた。
「ふっ。ふふふふっ。面白いことをするね! これからお化け屋敷のバイトかな?」
「さすがに魔女様の目は誤魔化せませんか」
「まあね」
「出来れば内密に願いたいのですが」
「それならお姉さんの頼みも聞いて欲しいな」
そう言って銀の魔女はフードの中をのぞき込むような仕草を見せる。
動きがあざとい。さすが年の功とか考えていたら目つきが鋭くなった。
魔法阻害結界の効果外に出ていたので、アルフはパチンと指を鳴らして防音結界を張る。
「魔女様が探しているのは、地の精霊お気に入りの子でしたか」
「そう。お話好きの精霊なんだけどね、魔力が強い子どもに取り込まれたみたいなんだ」
「……魔力が強い子ども」
ベルジェ国では魔力を持った子どもは貴族に多い。
しかし、貴族の子が行方不明になればもっと大騒ぎになっているはずだ。
「冒険者くんは、この城周辺の精霊の動きがおかしいのに気がついているね?」
「ええ。精霊から瘴気が感じられました」
「その動きを見るに、この城のどこかにいそうなんだけど」
「王城は広いですからね。探している間に移動でもされたら見つからないか……」
「そもそも全ての部屋を探し歩くような権限もないし、困っていてね」
これはもしかすると、目的が一致するのではないだろうか。
「その精霊を取り込んだ子どもって、もしかしてエルフの子では?」
「詳しい姿までは分からないけど、魔力が強いなら可能性はあるね」
「魔女様、この城上層の魔法阻害結界をどうにか出来ませんか」
「あの規模だと数分なら抑えられると思うけど、集中するからその間は動けないかな」
数分あれば探し出せるかもしれない。
失敗すれば反逆罪で捕縛されるかもしれないが、最悪逃げ出せばいい。挑戦してみよう。
アルフの気持ちが固まる。
「分かりました。魔女様が結界を抑えてくれるなら、僕が城の中を探してみます」
「おお! さすがは冒険者くん。協力してくれるなら助かるよ」




