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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの冒険者 前編
53/275

第53話 狙われています

「あんまり大きな声を出すとカレンちゃんが起きてしまいますよ」

「っと……大丈夫だ。ぐっすり眠っている」

「お話の途中ですが私はそろそろ他の子の様子も見ますので失礼しますね」


 そう言ってシスターが部屋から去ったので、アルフはパチンと指を鳴らして防音結界を張る。

 ここからは込み入った話になりそうだからだ。

 そして眠りを邪魔しないようにもう一度指を鳴らし、小さな防音結界を赤子の周囲にも張っておく。


「それで、名前を教えてくれる気はないのか?」

「まあ僕が何者かなんてどうでも良いことなんです」

「隠されていたら知りたくなるのが人間ってものだろ? 友人なら教えてほしいものだが」

「友人として教えますが……たとえ僕の名や顔を知ったとしても眠ったら忘れていると思いますよ」


 そんなアルフの発言にレオンはゴクリと唾を飲み込む。誰も英雄の正体を探れない理由。探っているのに本人にたどり着けない理由。それは探っても意味をなさないからだとしたら……。


「もしかして記憶を消せるのか?」

「本気を出したら自分が何者なのか分からなくなるくらいに消せます。だから探るのは止めて下さい」


 さらっと述べた内容は警告だった。もしも興味本位で正体を探ったらどうなるかという。

 もちろんセシル嬢にも聞かせるように。出来ればアルフにたどり着かないで欲しいから。


「……やっぱり魔道士ってのは怖いな。分かったよ。もう無理に探る事はしない」

「そうしていただけると、僕もこの関係が維持出来るので嬉しいですよ。さて本題に入りましょう」


 言いながらアルフは収納空間から身代わりの指輪とナイフを取り出す。

 そして手をかざして魔力を送り込みそれぞれを強化(エンチャント)しておく。


「まずは狙われている二人に僕から贈り物を」


 セシル嬢には『身代わりの指輪』が入った小箱をスーリオンには『ナイフ』を手渡す。

 セシルは渡された小箱を開けると中に指輪を確認して驚き、頬を染めた。

 スーリオンは渡されたナイフの価格を知っているので逆に顔色を悪くしている。


「まさか魔道士様が私を狙っているなんて……どうしましょう。婚約はお父様に聞いてみないと」

「違いますよ!? 何か勘違いしていませんか!?」


 本題に入ろうとしたのに、大きく勘違いしているセシル嬢の発言にアルフは慌てる。

 

「男性から貴金属を贈られたら狙われているから気をつけるようにとお父様に言われていたので、私はてっきり……」


 魔道士から贈られた指輪に頬を染めていたセシルは、今度は残念そうに目を伏せる。

 その様子にレオンは理解した。セシル嬢が魔道士に好意を抱いていると言うことに。


「えっと……その……誤解させたようで申し訳ないです」

「俺もてっきり魔道士はセシル嬢を好いているのかと思ったが? そうか違ったのか」

「いや、それは……好いていないわけじゃ……無くて……狙われているって言うのは別の意味で」


 そしていつものようには即答しない魔道士の様子に、こちらもセシル嬢に気がある事に気付く。

 名前も顔も知られたく無いのに好いているなんて難儀な友人だとレオンは思った。


「……っ」


 アルフは額を抑えて目を閉じる。

 セシル嬢を狙っているのは悪魔召喚を企む者たちなのだが、自分に全く下心が無いかと言えば嘘になるし何と説明すれば良いのか頭が混乱していた。この場でセシル嬢に気持ちを伝えても、その後に責任が持てるかと言われれば……。


 眠ると未来の悪夢を見知ってしまう体質は、解けることの無い呪いのようなものだ。

 この呪いは魔法の才能に恵まれた事の代償なのかもしれないとアルフは考えている。

 悪夢を潰すために危険と隣り合わせの日々が常だ。果たしてそんな自分がセシル嬢の未来に責任を持てるのだろうか……思考がまとまらない。

 

『ニャア。ご主人様。しっかりして下さい』


 肩の上にいたドロシーが、苦悩している主人の姿を見かねて話しかける。

 アルフはドロシーの鳴き声に目を開けて、私情を捨ていつもの冷静さを取り戻し説明を続ける。


「もちろん狙っているのは僕ではありません。二人を狙っているのは悪魔召喚を企む悪魔崇拝者です」

「どうして私たちが狙われるのですか?」

「スーリオンには説明しましたが、悪魔が憑依するのに適していると崇拝者に判断されたからです」

「悪魔の憑依!?」

「そうです。内包する魔力や年齢……それ以外にも基準があるのかもしれませんが憑依体の条件を満たしている事が狙われている理由です」


 スーリオンは一度聞いているためその話を受け止めているが、セシル嬢は恐ろしさに震えている。


「しかも憑依体の生死は問わないため、お二人は極めて危険な状態です。ですから身を守るための贈り物をさせて頂きました」


 ようやく落ち着いて説明することが出来てアルフは胸をなで下ろす。


「この指輪に何か効果があると言うことですか?」

「この高価なナイフにも何かあるの?」


 セシル嬢とスーリオンがそれぞれ尋ねてきたので、アルフは効果を説明する。


「まずスーリオンのナイフには瞬時に風魔法を発動する効果がある。離れていても風の刃を飛ばして攻撃出来るから危険な時は迷わず使って欲しい。さらに身につけていれば常に物理と魔法の防御結界が発動するから、攻撃を受けても逃げることが出来るはずだよ」

「凄い!」

「そんな国宝級の代物なのか!? それほどの武器は上級貴族でも持っていないぞ!?」


 効果を聞いていたレオンまで驚いている。


「そしてセシル様のその指輪は『身代わりの指輪』です」

「一度だけ、どんな即死攻撃でも魔石が砕けて代わってもらえる魔道具ですね」

「そうです。その効果を強化して、僕の魔力が宿る限りは何度でも身代わりになってくれます」

「は?」

「な、何度でも……?」

「魔石に込められるだけなので、無限にとはいきませんが数百回くらいは大丈夫だと思います」


 何度でも身代わりしてくれると言うだけでも驚きなのに、その回数が数百回となればもはや不死身といっても過言では無い。


「激しく魔石が点滅している時は何度も攻撃されている時なので僕を呼んで下さい。もちろんそうなる前に対処しようとは思いますが」

「さらっと説明しているが、もはや伝説級の代物だからな!? 王族だって持っていないぞ!?」

「そ、そんな指輪を頂くわけには……!」

「いいえ。それくらい持っていないと危険な立場にいると思って下さい」


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