第44話 驚嘆に値する人物
直前まで見つめ合いながら惚気ていた二人だったが、突然セレーナは泣き出してしまった。
「セレーナ! 一体どうしたんだ!?」
「私、もうレオンの天使にはなれないわ。翼が無くなってしまったもの」
「ああ! 何て痛々しい……あのくそ親父のせいだな!」
「もう飛ぶことも出来なくてあの洞窟から出られなかったの……貴方に見つけて欲しくて、ただ唄うことしか出来なかった」
「泣かないでくれ! セレーナの涙を見ると俺の胸が張り裂けそうだ。たとえ君が飛べなくたって永遠に愛することに変わりは無いよ」
「レオン!」
「セレーナ!」
アルフは二人のやり取りに何となく割って入るのも悪い気がして、何も言えないでドロシーを撫でていた。
ゴロゴロ喉を鳴らし始めたドロシーを見ていると、暗闇で薄い緑色に光っていた瞳がスッと金色の瞳に変わった。
朝日が昇り始めて海や船を照らし始めたからだ。
『ニャア』
「あっ!」
商船がヴェルヌ王国に到着する時間が迫っていることを思い出しアルフは慌てる。
今の時期なら日の出頃には船からフィッシャー港が見えてくるはずだった。
「僕、急いで行くところがあるので! セレーナさんの翼は再生出来ますから安心して下さい」
「は?」
「え?」
「それじゃあ……」
額に手を当てて商船に転移しようとしていたアルフをレオンが呼び止める。
「いや待ってくれ英雄様!」
「急いでいるんですよ。それと恥ずかしいので英雄呼びはやめて下さい。魔道士ですって」
「一体どこに行くんだ。娘の元に連れて行ってくれる約束だろ!?」
「フィッシャー港に到着する商船に待たせている子どもがいるので、娘さんは後でお連れします」
「英雄様の子か!」
「違いますよ!? 攫われていたエルフの子を保護しているだけです」
「俺たちの娘だけじゃなくエルフの子まで助けているのか? 忙しい英雄様だな。そう言うことならフィッシャー港で待ち合わせよう。ここからなら昼には港に着くはずだ」
「分かりました」
今度こそ転移しようとすると次はセレーナに呼び止められた。
「待って! 私の翼が再生出来るって言うのは本当なの?」
ゆっくりと説明している時間も惜しいためアルフは腕を振りセレーナに眠りの魔法を掛ける。突然、レオンに向かって倒れ込んだため慌てて支えている。
「セレーナに何をした!?」
「眠らせただけです。目が覚める頃には翼が元に戻っているはずですよ」
「そうなのか! さすが英雄様だ!」
「だから魔道士ですって! わざと呼んでいるでしょ!?」
何度言っても英雄呼びするレオンに疲れてきたアルフは、時間の焦りも有って少し強めに抗議する。
「悪かった。本当は『眠りの魔道士様』だろ? ラッセル帝国を救った英雄様じゃないか。実際に目にすると聞いていた以上に凄い魔道士様だな。驚いたよ」
「誰から何を聞いているのか分かりませんが、レオンさんこそ驚嘆に値する人物だと思いますよ」
「そんな事を言ってくれたのは魔道士様が初めてだ。是非、友人になりたいね!」
「考えておきます。それでは!」
「ああ! 港で会おう」
■■■
「カリュブディスの出現する海域に神の船が現れたそうだ」
「神の船?」
「空飛ぶ船で魔物に天罰を与えに来たんじゃないかって話だぜ」
夜が明けて、本来なら港に到着していても良い時間帯だったが商船はまだ接岸していなかった。
アルフが船乗り達にチップを渡しながら聞いてみた所、航路の近くで魔物の群れが確認されたので避けるために遠回りした影響らしい。
「ふああ……」
「何だ寝不足なのか? 貴族様にはこの揺れじゃ眠れないか」
「あはは。下船したら港町の宿で一休みしますよ」
「少し遅れているが、あと一時間ほどで到着すると思うぜ」
「教えてくれてありがとう。それまで荷物の確認でもしておきます」
海に出ていた漁船や他の船と通信石でやり取りをしている船長の元には、突如高波が発生したとか、嵐でも無いのに天候が急変したとか、挙げ句の果てに空飛ぶ船を見たとか様々な情報が入り乱れて報告されているらしい。
色々と心当たりがありすぎるアルフは無難に応答して、とりあえず間に合った事に安心していた。
まだ多少の時間はありそうなので、エルフの子を見つけた荷物室を訪れていた。
人の気配は無いが念のため防音結界を張る。
「神の船か。馬車は飛ばさなかったけど、船を飛ばしちゃったからなぁ」
『暗くても夜目が利く人はたくさんいます。当然目立ちます』
「高度を上げたのが拙かったな。でも触手に攻撃されるのはもっと拙かったし」
ドロシーと反省会をしつつ、転がっていた荷物室の空樽を起こす。
「スーリオンが閉じ込められていたこの樽。本来の行き先を知りたいよね」
『中身が空になった事を知ったら騒ぎになるのでは?』
「そうなる前に細工する時間が欲しかったから到着が遅れて助かったよ」
そう言って起こした空樽に、収納空間から大量の泥を落として入れていく。
そこに核となる魔石を放り込み、魔法でゴーレムを作り始める。
幻影魔法でスーリオンに似せて、仕上げに拘束具を付ける。
「よし! 完成だ」
『お見事です。ご主人様』
「この樽を追跡すれば、ヴェルヌ王国で悪魔召喚を企んでいる奴の元にたどり着けるはず」
多くの魔法を使って徹夜で人助けをし続け、目の下に隈が出来ているアルフに気がつきドロシーは心配そうに尋ねる。
『お身体は大丈夫ですか? 魔力も残り少ないのでは』
「大丈夫って言いたい所だけど……はっきり言って、さすがに休まないと限界です」
『水薬は残っていますか』
「残り一本。何かあった時に遠方に転移したり大魔法を使うためにも、出来れば残しておきたいな」
『あまり無理はなさらないで下さい』
「そうだね。いつも心配してくれてありがとう。まずは客室に戻ろうか」
部屋に戻る途中で、食料と子供服を買ってから貴族エリアへと向かう。部屋に入ると素早く収納していたローブを羽織り寝室になっている部屋に入る。
「よほど疲れていたみたいだね。ぐっすり眠っている」
『ニャア』
「うん。下船まで僕たちも休もうか」




