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33 救済処置と魔王解放

バッカスによりシャルロッテ率いるエリナベル軍の上空に漆黒の球体が出現する。


「きゃああぁぁぁ!!!!」

「「「「「うわああぁあぁぁぁ!!!」」」」」


その球体は無残にもシャルロッテ含めた大勢のエリナベル軍を吸い込み始める。


「待ってくれ!!!!!」


俺が力いっぱい叫ぶとその瞬間……世界の色がなくなった。

……というより、視界に映るすべてのモノが動きを止めていた。


(……は? 何だよこれ!?)


俺だけが動くことが出来るこの状況に困惑していると、エイルが話しかけてくる。


≪うぅ~……アーノルドさ~ん! 時間を止められるのは限りがあるんです~! 早くシャルロッテさん達をホーリーゲートで避難させてくださ~い!!≫

(……わ、わかった!)


俺は訳も分からず、言われた通りにすぐに――


『ホーリーゲート!』


――小さな輪っかを出現させ、瞬時にデカくなった輪っかに吸い込まれそうになった状態のまま停止したシャルロッテ達を避難させる。


「……よ、よかった」


俺は心の底から安堵の声を出すと、聞き慣れない子どものような声が鳴り響く。


「ま、待つのだ~!!」

「……誰だ!!!」


止まった世界で俺は声が聞こえる方に顔を向けると、そこにはバッカスがいるだけだった。

だが、次の瞬間バッカスの体から黒い影が飛び出してくる。


――スタッ!

その飛び出してきた影の正体は、ラミリアよりも背の低い子供だった。


「……ふっふっふ、まさか出られるとは思わなかったのだ!」


白い肌に長く伸びた漆黒の髪を左右に結んでおり、服装も漆黒な大きなマントとハイレグといった露出度のとても高い服装をしている。

細い尻尾や角を頭部に二つ生やしている等、特殊な部位が気になるが……痴女にしか見えない。


(……エイル、なんだこいつは!)

≪あわわ……! おそらく、私の時間停止の魔法が復活した魔王の精神体と干渉したのだと思います~!≫

(……ってことは、こいつが魔王なのか?)

≪おそらく……でも、以前に私達が封印した時はもっと背の高い大人の状態だったので……子供のような容姿をしているのは、まだ完全に復活していないからなのでしょうか? ……うぅ……分かりませんが……もう限界なので時間停止、解きますね~!≫

(……わ、わかった。助かったよ、エイル)


俺が返答をし終えた瞬間、世界に色が戻った。




――バタンッ!

時間が動き出すとバッカスはすぐにその場に倒れ、放った漆黒の球体も瞬時に消滅する。

だが、バッカスから飛び出してきた魔王は立ったまま辺りを興味津々に見渡していた。


「……お前は……バッカスが解放した魔王なのか?」

「……ん?」


周りを見渡していた痴女が俺に気付くと急に笑い出す。


「わ~っはっはっは~! そうだ人間! 我は偉大なる魔王イブリス! ひれ伏すのだ!!」

「……自分で偉大なる魔王って言って恥ずかしくないか? ……それにどう見ても子供じゃないか」

「無礼なやつなのだ! この人体を形成する為に魔力をすこ~し多く使ってしまっただけなのだ! ふふ……だが、許してやるのだ。我は今、とても気分がいいのだ!!」

「……あっそ」


どうやら俺が思っていた以上に、この魔王は脅威ではないのかもしれない。

そう判断した俺は、すぐに右手を先ほどシャルロッテ達がいた方へ向け――


『ホーリーゲート・リバース』


――先ほど取り込んだシャルロッテ率いるエリナベル軍を輪っかから解放する。


「うぅ……私は一体」


シャルロッテと多くのエリナベル軍は何が起きたか分からない状態のようだった。

そんなエリナベル軍を横目に、俺はすぐにシャルロッテに近寄る。


「大丈夫か、シャルロッテ?」

「……あ、アーノルドっ!! ……私、何か黒い球体に飲み込まれようとしていたような……」

「あぁ、危なかったけどな。何とか助けられたんだ」

「……ありがとうございます。またアーノルドに助けられたのですね!」

「俺だけじゃないけどな」

「……え?」


俺の言葉に一瞬不思議な表情を浮かべるシャルロッテ。


「まぁいい。シャルロッテ、早速で悪いがバッカスとカンク兵を拘束しておいてくれないか?」


俺の言葉を聞いてシャルロッテは、倒れているバッカスとその周辺に倒れているカンク兵に視線を向ける。


「……は、はい! わかりました!」


そしてシャルロッテはすぐにエリナベル軍に指示を出す。


「皆さん! すぐにカンク軍を拘束してください!」

「「「「「はっ! 畏まりました、シャルロッテ様!」」」」」


すぐにシャルロッテの指示で統制が取れたエリナベル軍は速やかに行動を始める。

動き出すエリナベル軍を横目に、俺はイブリスと名乗る魔王の痴女に視線を戻す。


「……で、何が望みだお前は?」

「我の望みか? そうだなぁ~……甘いものが食べたいのだ!」

「……へ?」


あまりにも斜め上の回答に俺は気の抜けた声が出てしまう。


(……おいエイル! こいつ、本当に魔王なのか?)

≪そのはずですが……長い時間、封印されていて狂暴性が収まったのでしょうか~?≫

(……まぁ……とりあえず、何か悪さを仕出かさないか監視していたほうがいいな)


俺はてっきりまた戦う事になると思っていたので、肩の荷が下りた気分になりながら痴女に提案する。


「……だったら俺の村に来いよ。甘いもんを食わせてやる」

「本当か! 行くのだ!!」


痴女はパァっと笑顔になり、その場で両手を上げる。

すると、バッカス達を拘束し終えたシャルロッテが俺達に近づいてくる。


「……アーノルド? 先ほどからいる……この可愛い子は誰なのですか?」


めちゃくちゃ回答に困る質問をされる。


「……え~~っと。……こいつはイブリスっていう子だ。魔族の子らしいが、バッカスに酷い目にあっていた可哀そうな子なんだ。甘いものに飢えているらしい。これからネルド村に戻って食べさせようかと思っていたところだ」


俺は適当に思いついた事をシャルロッテに伝える。

だが、俺の紹介をそっちのけでイブリスは話始める。


「ふっふっふ~! 我は偉大な魔王イブリスなのだ! 早く甘い食べ物が食べさせるのだ!」

「ふふ、そうですか。……イブリスちゃんですね。それじゃ案内しますから、一緒にいきましょう」


シャルロッテは魔王という言葉を子供の言葉と思っているのか、全く気にしていない様子でイブリスの手を握る。

俺は一瞬シャルロッテに危害が及ぶと思い身構えたが――


「わかったのだ!」


――普通にイブリスアは笑顔で返答してシャルロッテと手を繋ぎネルド村に向かい始めた。


(……警戒している俺がバカみたいだ)


こうしてネルド村で起きた激動の戦いは、思わぬ形で幕を閉じたのだった。

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