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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ウィリアムの憂鬱

作者: ぐみ

※ 出血したり暴力的な表現があります。ご注意ください。

※本編「悪役聖女になんてなりたくない」ウィリアム目線の独白となってます。本編ネタバレ含みます。

 

『―――……最初は殺すつもりだった』


 僕はベニア国第二王子として生まれた。

 10歳年上の兄ルイスは生粋の遊び人、婚約者がいようが構わず朝まで遊び倒す。顔はすこぶる良いため相手が絶えない。毎日、楽しそうな兄。


 そんな兄をみて育ったからか、僕はどちらかといえば冷静な人間だ。自分ではそう思っている。


「隣国では300年周期で聖女がくる。確かめてきてくれるか」


 国王に呼び出されて言われたのは、隣国にくる聖女について。


『聖女が本当に来るのか――…魔法は使えるのか――…この世界にはない知識があり我が国を脅かす危険はないか』


 この3つのことを確認し、報告するように命じられた。


 ―――……なぜルイスではなく僕なのか。


「ルイスは‥今年28歳だからな。学園に入るには少々目立ってしまう。それにあいつはいつもヘラヘラしていてダメだ。お前の方がしっかりしている」


 隣国には王立学園があった。

 その歴史は古く、貴族や上流階級18歳が1年間通い、幅広い知見を深めるのを目的とされている。


 と、言うのは建前で、有力者同士の繋がりを深めるためにある。


 聖女は来ないかもしれないし。魔法も使えないかもしれない。


 そう思いながら学園に潜入したら、聖女は本当に現れた。

 学園の中庭で眩いばかりの光に包まれて登場した黒髪の少女は、不思議そうに周りを見渡し、そして――…叫んだ。


 聖女はすぐにペンシル国第一王子、ハリー王太子殿下に夢中になったと噂が立ち…馬鹿だな…なんて思いながら僕はひっそりと過ごしていた。のちに、自分がそんな馬鹿な男になるなんて思いもしなかった。


 ――…マリーと初めて出会った時、心臓が止まるかと思った。


 あの日、僕は魔術書を読んでいるうちに寝てしまっていた。

 この世界で魔法はとうの昔に廃れ、誰も使えなくなっている。聖女の出現に備え、今後使うかもわからない難しい魔術書を読むことほど面白くないものはない。


 ふと‥気配を感じて目を開けると、僕を覗き込んでいる真っ黒な瞳あった。――…まるでホラーだった。


 マリーはどこか幼い見た目と馬鹿そうな顔に反し、この世界に馴染もうと努力していた。〝郷に入れば剛に従え〟それに少し共感した。



「ウィリアム様、最近楽しそうですわね」

「そう?」

 フードを被った女が僕に話しかけてくる。

 10年以上隣国で間諜をしているサラだ。

 最初は侯爵家に任務に行き、今回聖女が来たため王宮に配属された。

「聖女様は可愛らしですわ」


 マリーはあまりにも無害で自分の状況も理解しておらず、マナーについて教えてほしいと言ってきたのでサラを頼るように促した。


『ねぇねぇねぇ、ウィル』

『うるさいな、聞こえてるよ』

 マリーにいつものセリフを吐いて、たわいもない話を図書館でしている間にどんどん自分の任務を忘れていってた。


 ―…そんなある日

 僕をじっと見つめてくるマリーの視線を無視できなくて『何?』って聞いたら『かっこいいな‥…』と、頬を赤らめ言ってきた。

 ―…その顔を見た瞬間、僕は自覚した。あぁ、僕はマリーの事が好きなんだ、完全にマリーに恋に落とされた。

 そして、マリーも少なからず自分に好意を持っていることを嬉しく思ってキスをした。

 間諜のサラは僕のことを手が早いというが、そんなことはないと思う。僕は兄のルイスのように遊んでないし、取っ替え引っ替えもしていない。ちゃんとマリーと真剣に向き合っている。


 マリーは聖女の〝せ〟の字も能力がなく、本当に普通の女の子。

 ―…魔法は使えず、知識はあるが実用不可能、拍子抜けするほど害はない。

 〝聖女の力がないなら自国に害はなく、始末する必要ももちろんない〟そう思ってた。


 けれど、直後に事態は変わった。

 マリーは古文書の〝文字〟が読めることがわかった。それならまだいい。なぜなら〝利用価値〟がないと自国に連れて帰れないからだ。文字が読めるのはちょうどよかった。

 しかし、マリーは文字を読む能力を生かして、魔法の秘密を解読し、魔石まで手に入れた。

「終わった…」と思った。魔石をもった聖女をペンシル国は戦争に利用するだろう。そうなる前にベニア国は動かなければならない。―…自国に害が及ぶ前に。

 簡単な話しだ。力を使いこなせないうちにマリーを始末すればいい。


 ――…僕はマリーを殺す事が出来なかった。


 なんとかマリーを助けたくて、兄のルイスを通して水面下でペンシル国と交渉したが難航した。

 ペンシル国王はマリーを兵器として戦いに導入する考えは変わらず、時間だけが無駄に過ぎていく日々。僕は目の前にいるマリーを失うのだけは嫌だった。そんな人生耐えられない。

 そんな中、僕はマリーにとうとう禁断の質問をした。

 僕のことをどう思っているのか…「―…えっ?そんなこと考えたことなかった」なんて言われようものなら、辛くて立ち直れない気がしてずっと聞けなかった。しかし、僕の心配は杞憂(きゆう)に終わった。

 マリーは「ウィルの事が好き」と言ってくれて「僕も好きだよ」と答えて想いを確かめ合った。心が満たされた。

 その想いだけで僕は心を決めた。

 自国に一旦帰り、マリーが古文書の文字を読めることを父王に最大限アピールして利用価値があるように語った。そうして、自国に連れて帰るための許可を得る事ができた。


 しかし、一安心したのも束の間、兄のルイスに〝聖女の歓迎パーティー〟があると告げられ、急いでマリーを取り戻すことだけを考えてペンシル国に戻った。

 けれど、急いで戻った僕がみたのは、ハリー王太子が送ったであろう可愛らしいピンクのドレスに身を包み、宰相ウォード伯ジョージの息子、ウォルターと顔を寄せ合い楽しげに踊っている姿。


 正直、二人とも殺してやろうかと思った。


 僕はマリーのために働いてたのに「なんで他の奴が送ったドレスを着て、楽しそうにダンスなんて踊ってるんだ」と心の中でブチギレた。

 本当はパーティー中に目立つ行動をとってはいけないと理解はしていたが、耐えられなかった…。

 ウォルターと踊り終わるのを見計らってダンスに誘い、マリーを取り返す事で自分の中にあるドス黒い感情を消化した。

 改めて、マリーに僕たちの関係を確認したら〝恋人〟と言われて簡単に許してしまった。僕は本当に〝ちょろい〟男だと思う。


 しかし、ペンシル国の宰相は僕達のことをよく思わなかった。僕とマリーのダンスが終わるのを怒りながら待ち構えており、僕からマリーを引き離しにきた。本当は側を離れたくなかったが、これ以上悪目立ちしてはいけないと判断し、マリーとしばらく見つめ合った後、宰相と歩き出すのを見送った。


 ―…そして、事件は突然起こった。

 きっちりと燕尾服を着こなした貴族の男が、ハリー王太子殿下の婚約者、イザベラに斬りかかった。皆、そちらの方を見ていたと思う。イザベラが斬られるのと同じくして、宰相も斬られるのが見えた。

 宰相を斬った男は迷わず後ろにいたマリーの方へ歩みを進め、縦に大きく一振りした。僕は世界がゆっくりと流れ、必死に走り寄ろうとしているのに、まるで夢の中のように手足が空振りして全く前に進まず、マリーが崩れていくのを目の当たりにした。

 絶望の中で、男が再び剣を振り上げてマリーにとどめを刺そうとしているのが見えた。その瞬間、マリーが両手で印を組み大きな声で呪文を唱えた。


 ―…『フラム』

 炎の魔法呪文だ。

 僕と図書館にいる時、マリーが練習していた呪文。あの時は図書館で炎の呪文を唱えて本当に出たらどうするんだ…なんて少し思ったのと、呪文を唱えても何も起きない事に落ち込むマリーを励ましたい…と思ってマリーの頭を触り、可愛らしい反応を見せてくれた思い出がある。

 その呪文を唱えた瞬間、貴族の男は青白い炎に包まれて後ろに吹き飛んでいった。

 その間に僕はなんとかマリーの側にたどり着いて、ギュッと身体を抱きしめた。マリーは胸元に血が滲み酷い状態だった。このままでは…命が危ない…と現実が受け入れられず、心が壊れそうになった…。


 遠くから国王が高笑いをし始め「これが聖女の祝福だ」と、ふざけたことを抜かしていたが僕はマリーの状態だけが気になっていた


 すると次の瞬間、再び事態が動いた。


 マリーが再び印を組み呪文を唱えたのだ。


 ―…『リフク』

 光魔法、回復の呪文。マリーから真っ白な輝きが放たれて世界を優しく癒していった。あまりの眩しさに会場内の人々は目を覆い、顔を背けるほどだった。

 のちに分かった事だが、舞踏会場の人々だけでなく、市井で麻薬に溺れた人々、僕の母国ベニアの国の人々も含めてた全ての人々を癒していった。


 そして、煌めきが消えるころ、パリンッと小さく音がなって、マリーが握りしめていた魔石が砕け散った。

 マリーは完全に力を失ったのだ。


 すると、静まり返った会場内で国王が再びマリーを戦争の道具にしようと馬鹿なことを言い出した。

 マリーは毅然とした態度で国王に言い返し、僕はそれに加勢した。マリーをペンシル国の兵器ではなく〝平和の象徴〟に祭り上げ各国の〝和平条約締結〟の大義名分にした。

 ペンシル国王は野心が強いため、なかなかマリーのことを諦めようとしなかったが、各国の要人の前で「聖女を戦争に使うつもりだった。力を失ったのなら必要ないから始末する」などと言えるはずもなく、泣く泣く了承した。


 そうして僕は思惑通り、マリーを手に入れることに成功した。


 マリーに『最初は殺すつもりだった』と告白した時、驚きに満ちた顔をしていたが、僕のことを拒絶せず受け入れてくらたことは本当に嬉しかった。


 …―ちなみに、余談だけど、もしあのパーティーでマリーが聖女の力を発現しなかったら、僕はペンシル国王や各国要人の前で「聖女がベニア国王家の子を身籠っているから、責任をとって連れて帰る」なんて話をするつもりだった。ふふっ…既成事実をでっち上げるつもりでいた。

 ―…このことはおそらく一生の秘密だ。


 ――…僕はマリーのことが好き。とても幸せだ。



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