自殺と世界。
どこにでもいる女子高校生の美姫。
普段変わらない毎日が嫌でたまらない。
学校へ行く意味も人への興味を無くしていた。
ある日、他校の生徒が自殺をしたと、友人から聞く。
友人は見に行くと言って、その現場に向かう。
次の日に様子を聞くと、その友人は何かおかしくて?
1人の姫とこの世界
「美姫!起きなさい!遅刻するわよっ」
アラームの音が鳴り響く中、少女は重い瞼を開く。
「まだ寝てたいよぉ」
体をゴロゴロと揺らしながら、駄々をこねてみる。
「姫、学校、遅れるぞ。」
ベッドの上に浮かびながら、ツンツン指で
顔を突いてくる男がいた。
突かれる痛さから逃れようと、布団をかぶる。
頭がボヤけてはっきりしない。
だんだんと思考が戻ってきたのか、
頭に血が上る。
「もう!突かないでよっ!」
ガバッと布団から起きてみると、目の前にその
男はいた。
「今、何時?」
目を覚まそうと、瞼を擦りながら、男に聞く。
「8時半がくるよ?」
ニコニコしながら答えを返す男に、少しムッとする。
「いいわよね、あなたは学校行かなくていいんだから!」
携帯をみると、大量のメールに電話。
時間は完全な遅刻だ。
急いで行く準備を整えて、階段を駆け降りた。
ご飯がテーブルに置かれている。
冷え切っているご飯を食べる最中、
母がつけていたテレビのニュースが流れていた。
テレビをソファに座って見ながら、母はポツリと
「変な世の中になったものね。」と呟いた。
「若い人達の自殺が増えています」
アナウンサーはグラフに自殺率を写したのを、
指示棒で差しながら説明していく。
その声は感情もなく、淡々としていた。
「ご馳走様!いってきますっ!」
ご飯を口に放り込み、口がいっぱいになったまま、
食器を片付けて、玄関に急ぐ。
学校のカバンを持って玄関を出ると、
眩しい光に目を細めるのだった。
私の名前は「岡田 美姫」
どこにでもいる、普通の女子高生だ。
成績も普通、見た目も普通。
目立たないように、空気のような存在。
幼い頃から体が弱く、すぐ熱を出していた。
夜には息苦しくなったり、お腹が痛くなることもある。
病院にいくのだけど、すべて原因不明。
精神的なものや、ストレスじゃないかと、
言われ続けていた。
その症状が治まると、けろっと本人は元気になり、走り回っている始末。
親達は首を捻るしかなかった。
唯一、祖母だけはお腹をさすって、
「とおかみえみため」と唱えてくれた。
すると、スッと痛みが消えていくので、
安心して眠りにつくのだった。
産まれた時から、祖母に懐いていた。
母は忙しく夜もいない為、祖母がそばにいてくれる。
寝る時も、そばで私を守っているようだった。
幼い頃から追いかけられる夢ばかりみて、
泣きながら起きる。
その度に、祖母は「大丈夫よ」と抱きしめてくれ、
再び眠りにつくのだった。
ずっと、一つの考えがよぎる。
「この世界って何なの?」
なぜ人がいるのか、なぜ鳥や動物がいるのか、
なぜこの体なのか。
さっぱりと理解が出来ない。
特に人間という生き物が、よく分からなかった。
自分にも他人にも興味がない。
呼ばれたら行く、指示には従う。
ただ、みんなといても、疎外感や寂しい感じになる。
だからこそ、
一人で高い所に登って下を眺める事が好きだった。
人の笑い声やそよぐ風が吹くのを、
目をつぶって感じるほうが楽しい。
そんな変な子だった。
自然の森や川が好きで、原っぱに横になって寝ている。木の木陰から見る太陽の光は、星のように
キラキラと輝いていた。
「なんで私はここにいるんだろう」
誰かが、「お役目があるからだよ。」と言っていた。首を傾げながら、役目ってなんだろう。
と、考えていた。
高校生にもなると、怖い夢をみることもなく、
熱を出すこともなくなっていた。
だからこそ、学校に行けていいのだが。
「つまらないな」
美樹はポツリと呟いた。
学校はまるで監獄にいるみたいで。
登校中、歩きながらどこかに行きたくなる。
周りの人達は忙しなく、仕事に向かっていた。
一人の老婆に気がつく。
なんだか調子が悪いのか、座りこんでいる。
誰も気づかず、まるでそこに居ないかのようで。
見ないし、助けようともしない。
「大丈夫?」
老婆に声をかけてみるが、
「ちょっと休めばいいから、大丈夫よ」
と、そっけない返事が返ってきた。
なんだろう、
なぜみんな見てないんだろうか。
美姫は、老婆を心配しながら学校に向かった。
「もー!遅いよ!美姫!」
学校に着くなり、声をかけてくる女の子がいる。
可愛い感じのその少女は、顔を膨らませながら、
そばによってくる。
「あ、ごめん。寝坊した」
謝ってみるものの、なんで私を待っているのか、
分からない。
「メールに電話したのに!」
返事がなかったのが、心配だったのか。
怒っているようだった。
いつも声をかけてくるこの少女は、「梨花」
花のようにくるくると回り、表情が変わる。
男性にモテるタイプで、私から見ても可愛いと思う。
いろんな人に声をかけていて、人のお世話が好きなようだ。
「ねぇ、聞いた?また自殺があったらしいよ?」
私が席に着くなり、前の席の椅子をくるっと回転し、後ろに向けて座ってくる。
「他校でしょ?」
人の不幸な話に興味はない。
どんな死に方をしようが、私には関係のない事だ。
梨花はお構いなしに話を続けた。
「学校で飛び降りたんだって!」
目を輝かせて、楽しそうに話をする。
ニュースには出なかった情報だったので、
自慢したかったのだろう。
「ふーん」
興味がなく、感情のこもっていない返事をしたため、梨花は不満そうにしていた。
「もー!なんで自殺したのか、興味をもちなさいよ!」
梨花はまるで探偵みたいに、原因を探りたいみたいだ。帰りにその学校に行ってみよう!と、しきりに
誘うのだった。
「私は興味ないし、他の人を誘ってみたら?」
私よりも興味のある人を誘った方が、楽しいんじゃないだろうか。
同じように、目を輝かせて、行きたがるだろう。
梨花は他の人にも、その情報を嬉しそうに話を
するのだった。
声をかけた何人かで集まって行くようだ。
私は一人、家に帰ったのだった。
次の日。
今度こそは遅刻をせずに起き、
むしろ、早く着いてしまうくらい。
不思議と早目に学校に着いてしまった。
何もする事もなく、席に着く。
授業が始まるまで、寝ていようと、
机に伏せて目を閉じていた。
ガラッと勢いよくドアが開く。
先生でも入って来たのかと、目を開けようとしていた。人が前の席に座っている気配がする。
きっと梨花なんだろう。
「おはよう」
ゆっくりと起き上がり、
そう声をかけようとした。
どうも雰囲気がおかしい。
いつもなら、大きな声で騒いでいるはずなのだが。
シーン。
返事がない。
聞こえてなかったのかと思うが、
どうも近寄り難い雰囲気で大人しい。
あれ?いつもと雰囲気が違う?
違和感を感じながらも、声をかけてみた。
「昨日はどうだったの?」
学校に行ってみたんだろうか。
誰と行ったんだろう。
様子を聞きたかった。
しかし、返事は
「別に、なにもない」
と、冷たい言葉が返ってくる。
暗い表情を浮かべ、目がうつろになった顔は、
異常のように見えた。
その後は、声をかけれず、様子を見守る事しかできずに。
放課後になっていた。
「梨花、一緒に帰ろ」
そう声をかけてみたが、先に帰ろうとする。
教室から出ていく梨花を慌てて追いかけた。
廊下に出て行く後ろ姿を追いかけていくと、
急に梨花が叫び出した。
「来ないで!」
一瞬、私に言っているのかと思った。
けれど、その声は震えていて、
何かに怯えているようだった。
「いや!来ないで!」
何度も繰り返し、つぶやいている。
目はどこか他の方を見ているようだった。
何が見えてるの?
梨花は何かを見て、来るのを怖がっている。
咄嗟に、梨花の手を掴んだ。
「大丈夫?!」
すると、声が男の声に変わっていく。
可愛い声が、野太い声に変わっていた。
「邪魔をするな!」
その力強い声にビクッと体を怖がらせ、
梨花の手を離してしまう。
梨花は階段を上がり、屋上へと向かっていた。
いけない!自殺するつもりだ!
そのあとを、急いで追いかける。
屋上では、空を見上げている梨花がいた。
刺激しないようにと、そっと近づく。
私に気付いたのか、言葉をポツリとつぶやいた。
「この世界は生きにくいよな」
女性とも男性とも受け取れるような、
中性的な声で呟く。
それは聞き取れるかどうかの、か細い声だった。
自殺した彼、だろうか。
イジメられていたのか、
周りの大人にも嫌気が差したのか。
その声は寂しそうに聞こえた。
「寂しかったの?」
そう私が聞くと、ポロポロと大粒の涙が溢れだす。
その瞬間、意識が遠くなった。
まるでその人になったかのように、感情が流れ込む。
イジメられて悔しい、言い返したい、見返したい、
誰か助けて欲しかった、僕を愛して欲しかった。
身体が暗闇へと飲み込まれる。
悲しみや怒りなどの、激しい感情の波が、
襲ってくる。
あまりの闇の深さに、光が見えない。
暗闇の海に落とされ、感情の渦に巻き込まれる。
これは、まずい!
光をつかもうと探すが見当たらない。
どうやら、彼は私も一緒に精神を持っていくつもりだ。
梨花の精神も取り込まれているんだろう。
必死にあがらうが、なかなか出られそうにもない。
身体も動きそうもない。
「カイル!!助けにきて!」
心の中で、男の名前を呼ぶ。
その瞬間、光が差し込み、腕を掴まれ、
ガバッと体を引き上げられた。
朝の起こす担当で、ベッドの上に浮いている。
人ではないイレギュラーなもの。
目には見えないエネルギー体の存在。
その男は、私を見てにやにやと笑みを浮かべていた。
「もう、姫ったら。無茶するんだから」
そう言いながら、呼ばれたのが嬉しかったのか。
背中の羽をひらひらさせる。
「呼んでくれないかと思ったよ」
出来るだけなら、呼びたくない。
あとがめんどくさくて、大変だからだ。
クネクネと体をくねらせながら、甘える男を無視して。
自殺した彼と話をし始めた。
「悔しかったよね、愛して欲しかったよね
でも、死ぬべきではなかった。
あなたは愛に気付く機会を、失ってしまったの。
本当は愛されていたんだよ。」
親からの愛。友達からの愛。先生からの愛。
拒否していたからこそ、感じる事が出来なかった。
本当は愛が含まれていたのに、気付く事が出来なかった。
心を閉ざして、1人になってしまった。
大切なものは、そばにあったのに。
無くしてから気付くなんて。
本当は1人じゃなかったのだ。
手を伸ばしたら、その手を掴んで助けてくれる人がいたのに。
「愛を思い出して」
その彼と彼女が一体となった身体を抱きしめ、一粒の涙を流した。
「泣いてくれて、ありがとう」
そう言って、彼はふわりと空へと上がっていった。
梨花の体は崩れ落ち、眠っているようだった。
それを見て安心したのか、私の体も一気に
重たくなる。
急な眠気に襲われて、その場に倒れ込んでしまった。
「やれやれ」
ため息をつきながら、男はすやすや眠る2人を
見下ろしていた。
「ちょっと、今何時?!なんでここにいるのよ!」
大声で叫びながら、梨花は私の体をゆする。
もう少し寝させて欲しい。
出来れば回復するまでは、動きたくない。
動かない私の体をゆすりながら、
慌てている梨花を見て
ああ、元気だな。元の梨花だ。
と、微笑んだ。
結局、暗くなった頃、事務員に見つかり、
謝りながら学校を出る事になった。
帰り道に、梨花は何があったのかと聞いてくるが、
知らないとだけ、言っておく。
「ねぇ、ご褒美は?ねぇねぇ」
家に帰るなり、男は体をくねらせながら聞いてくる。
これだから、めんどくさい。
男のくせに、なぜ体をくねらせるのか。
甘えてくるのか。
家に保管してある飴袋から、一粒の飴を取り出し。
ほいっと投げる。
キャッチした飴を不満そうに見ているが、
気にしないでおこう。
「助けてくれて、ありがとう」
そう呟いた言葉を聞いて目を輝かせる。
もっと言って!と纏わりつくその男の姿を、
誰にも見せたくないなと、
ため息をついたのだった。
性格も人格も変わってしまった友人。
中身は男の子が入っている?
屋上にあがり、自殺をしようとするのを止めるが、
逆に精神をやられてしまう。
意識を失ってしまう美姫を、男が助けに入り、
無事に男の子を空へと帰すのだった。