雨に打たれて
嵐が近づいて雨が続く暑い昼間。僕は街中を歩いてる。
もう何日歩いたかは覚えてない。気の向くまま歩いてたら街中だった。
すれ違う人達は僕のことは見てない。目が合っても興味なさげに見て見ぬふりを繰り返される。そんな日々。
でも今日は違う。たまたま目が合った女性が僕に微笑んできた。と思ったら何も言わずに僕の手を引っ張って体を攫われた。
流石に反抗することも考えたけど、僕にはそんな力がもうない。何日もご飯を食べてなく、雨に打たれてたから。
気づいたら暖かな家にいた。多分女性の家。雨に濡れた僕の体を乱暴に、でも優しく布で拭ってくる。
少し痛かったけど、その後ご飯を出され、そんなことは簡単に忘れた。
ご飯と言っても味気のないものだったけど、空腹でそれどころじゃなかったし、まぁいつもの事でもあったから気にはならない。
差し出されたご飯を食べ終わった頃、不意にご飯が乗っかっていた銀色のお皿に、僕の顔が映る。
頭にはピンと立った耳。そして何日も食べてなかったからかやせ細った顔。目は黄色く細い黒目。首には、黄を中心にした紫の花が小さく刺繍された、首輪のようなもの。
ーー僕は人間じゃない。
改めてそう実感させられる猫の顔だった。
そして口に光る牙は人間を傷つける。手先に伸びる爪だって凶器そのもの。
だから僕はここにいるべきじゃない。
助けてくれたのはありがたいけど、もう人を傷つけないように、僕は開かれていた窓から、首輪に付いた鈴を感謝の意を込めて鳴らしながら飛び出した。