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RESTART FANTASY【リスタート ファンタジー】  作者: 棚山 もんじゃ
第2章
16/27

2-10


「随分なことになっていますな…。

長年勤めた御国の一大事とあれば、このゼルバ、一肌も二肌も脱ぎましょうぞ」

「助かります、老師」

「前口上はどうでも良い。そのニムエとかいう奴が持つ魔石について、知っていることを話せ」

「未だにそのような高圧的な口調を披露しておいでとは…。カテジナが聞いたら卒倒しますぞ」

「ゼルバ」


ミネルヴァに急かされたゼルバは、お小言はひとまず後回しにして、話を元に戻した。


「まず初めにお伝えしておきますと、ニムエの持つ魔石はライナ様たちが求めるものではないということですな」

「なあんや、じゃあ行かんでええやん」


サラが興味なさげに返すと、ゼルバは慌ててこう言いかえす。


「お待ちくだされ。どうか、どうかニムエの奴を救ってやって欲しいのです」

「救う…?ニムエに何かあったのか?」

「ここしばらく、村と対立しておるんです。ニムエが村に水を送らぬと言って聞かず、ついに村の者がそんな役立たずの女神は追い出せと言い始めおって…」

「そんな身勝手な…逸話があると言えど、ニムエに人の願いを聞く義理はないのでは?」

「それがややこしいことになっておりましてな…」


ゼルバによれば、そもそも村に伝わる逸話はかなり穴だらけで抜けている部分が多いと言う。

書棚から古い紙束を机に広げたゼルバは、そこに書いてある古文を読み上げる。


「創造神、涙の落ちたる先に湖を創られたし。更に、姉妹神を生み落とされる。

白き衣を纏う姉は天候を操るもの、青き衣を纏う妹は水の精霊を束ねるものとして命を受けた」

「えっ、じゃあほんまに、人の祈りに呼応して生まれた神様やないってこと?」

「元のお役目通りならば、そうなりますな。しかし村の者はそうは思っておらぬのです。

自分の親の代からずっと、湖の乙女は村の人々の祈りに呼応して生まれた水の女神、雨乞いの女神だと聞いて育っておるのです」

「なるほどな…姉神がいた頃は雨乞いに応じていたから口伝で残されたのか」


口伝では雨乞いをしたら女神が水をもたらした。人々の願いを叶える女神が湖に存在すると、村にとって都合よく伝わっていたのだ。真実は異なるというのに。


「左様。特に姉神であるエレインは人間が好きな女神で、自分の役割ついでに村の願いも聞いていたと古い資料に記載されておりますな。それがひとたび願いを断っただけで慈しむ人々の手で湖を追い出され、ニムエとも離れ離れになろうとは…」


アンティークマニアが高じて古文書解読にも精通しているゼルバは、さらに続ける。

今、エレインがどこへ行って何をしているのかは古文書に一切かかれておらず、消息は不明。

神という存在は自分の役割を果たし続けるか、人々の信仰を糧に存在することができるそうだ。

ここで言うなれば、エレインが新天地で天候の操作という与えられた仕事を続けていれば問題ないが、その手を止めていたら最後、彼女の神としての力は徐々に失われていくらしい。

あるいは役割を果たしていなくとも、人々から彼女への信仰が深ければ力を失う心配はない。


こう聞くと、神という存在の縛りや曖昧さを感じざるを得ない。

三女神の下とはいえ強大な力を持つ神々を自由にさせないための縛りだろう。

だが余りにも人に有利すぎる。

人の祈りに呼応して生まれる数多の神々を、人の身勝手で使い捨てているような印象を受けた。

人に忘れ去られて影ながら消えていく神を悼むものは誰もいないのだ。

成し遂げた役割も存在も、人の口伝次第で善にも悪にも書き換えられてしまう。

もっと、どうにかできなかったのだろうか。

どうしてこんな循環になってしまったのだろう。


「エレインは、悔しかったやろうな…」

「そうでしょうな…。村の周辺はエレインが言った通り、当時は地盤が緩んでいたんでしょう。

私が家を建てる時にこの辺りの地盤を業者に調べさせたところ、どうも水を含みやすい地層があると結果を貰いましたからな」

「そう聞くと、余計にニムエとエレインが可哀そうだわ…。人間を愛してくださる善良な女神さまであったでしょうに…」


人を守るために取った言動で故郷を離れた姉神と、それを見送ることしかできなかった妹神。

よくニムエの怒りが爆発しなかったものだ。

姉の事を想えば、人間嫌いになってもおかしくはないだろうに。

今日に至るまで、ずっとニムエは村人の願いを叶え続けたというのだから、驚きである。


「確かに同情はするが…。しかしなあ、何故今更になって村の水を止めるんだ?やはり積年の恨みか?」

「それは違う!ニムエはそんな子ではない…。何か訳あって水をもたらせんのでしょう。

ただ…その原因が何かは私にも話してはくれんのです」

「しかしながら老師。私どもには時間がありません。水の女神さまの一件にアルティナ様の魔石が関わっていない以上、我々が動くメリットを感じられません」

「…そうだな。心苦しいが、杖の魔石絡みではなさそうだしな…」


ぎ、と椅子を引き、ミネルヴァが席を立とうとするのをゼルバは必死に引き留める。


「お待ちくだされライナ様!いつぞやにニムエが言っておったのです!湖の底に変なものが埋まっている、と!」

「変なものだあ?ゴミじゃあないのか?」

「水の精霊が集う場所ですぞ?塵一つありはせぬのです。

その美しい湖が生まれた時からずっと、湖底に埋まっているらしいそれには、緑色に光る石がついているのだと」


何故かエレインもニムエも触れる事すらかなわなかったと聞いた、とゼルバは続ける。

湖で最初に生まれた姉妹神が知らないもの。

それを埋めることができたのは、湖とニムエたちを創造したアルティナ様しか思い当たらないのだ。


「もしかして、アルティナ様の杖の魔石なんかな?!」

「そうね。わざわざ湖底に沈めて隠し、ほかの誰にも触れられないだなんて、おかしいわ。

杖の魔石でなくても、アルティナ様が残されたものなら貴重な物でしょう」

「ふむ…確認してみてもいいだろうな」

「なれば、善は急げです。湖へ参りましょう」

「では、ご案内しますぞ。湖のほとりに私の別宅もあるので、そちらで休んでいきなされ」


ゼルバは裏庭のポーチへ行く前に、ジュリアへフードを被るよう合図をする。

ジュリアがすっぽりと顔を隠したのを確認したゼルバは扉を開け、庭で遊んでいたレニャと子守りでくったくたになっていたワトーに声をかける。

湖に調査へ行く旨を伝えると、レニャが騒ぎ始めた。


「レニャもいく~!!」

「レニャ、お家にお戻んなさい。良い子はもう帰る時間ですからな」

「やだやだやだやだ!レニャもニムエに会いに行くの!ニムエとお約束したもん!

またいっしょに遊びましょってお約束したの!」


弱りましたなあ、とゼルバが頬を掻いていると、横からすっとワトーが出てきた。

ぐずるレニャの前にしゃがんだワトーは、優しくゆっくり語り掛ける。


「レニャちゃん、お姉ちゃんが心配するっすよ。せっかくお花の指輪作ったんだから、渡さないと」

「うん…」

「ニムエとのお約束は明日行けばいいんすよ。もう日も暮れるし、おなかすいたんじゃないっすか?

今日は久しぶりにお父さんが帰ってくるって言ってたじゃないっすか」

「うん…。うん、レニャ、おうちかえる…」

「いいこっすね」


この1時間少しの間にレニャとワトーは随分仲良くなったらしい。

レニャが大事そうにハンカチに包んで持っている大量のシロツメクサの指輪や、ワトーが頭に乗せている花冠がその証拠である。


「じゃあレニャちゃんお家に送ってから行こ!その方が危なくないやろ?」

「ううん、だいじょうぶ~!レニャひとりでお家かえれるの!

いっぱい遊んでくれてありがとう~ソバちゃん!またね~!」

「はいはーい、またねー」


お花を抱えた小さな背中を全員で見送ったあと、サラが間髪入れずにワトーへと問いかける。


「なあなあ!レニャちゃんから『ソバちゃん』って呼ばれてんの?」

「ワイアーって発音が難しかったみたいで」


そう言いながらワトーは頭に乗っていた花冠を外し、テーブルの上に置く。

ゼルバがテーブルの茶器を片付け、変化の指輪を入れた木箱を上着に入れて身支度するのをよそ目に、ジュリアたちはソバちゃんについて立ち話をする。


「それにしても貴女、ソバちゃんは無いでしょう。…まさか、変な知識をあの子に吹き込んでいないでしょうね?」

「変な知識って!蕎麦はれっきとした料理っすよ!」

「お馬鹿!貴女の作り方に問題があると言っているのよ!」


なんてことをしたの、未来ある幼い子に!とジュリアはワトーをしかりつける。

サラもいまいちよく分かっていないが、ワトーが蕎麦を作ると本当に危険らしい。

もはやこの世のものではないおぞましい『なにか』になる、とジュリアが青ざめた顔で言うものだから、さすがのサラもしり込みして深く追究できないでいる。


「そんなにコイツの蕎麦はヤバいのか?逆に気になるな…」

「え、気になっちゃいます??いつでも作りますよ!」

「ライナ様。くだらない話はもう結構ですから、先を急ぎましょう。老師が外でお待ちです」

「くだらないだあ?!蕎麦のどこがくだらないってんですかあ!!のぼすんな!!」

「さ、行きましょうライナ様」

「え?お、おう…」


待てこらわっ!と方言でまくしたてるワトーを無視して、リナリアはライナの背中を押して外に出る。

愛する蕎麦をけなされたと鼻息を荒くしているワトーを何とか落ち着かせ、サラ達もそのあとに続いた。


ゼルバの道案内の最中、仕事を終えた男衆や通りを歩くお年寄りの会話が嫌でも耳に入ってくる。

ニムエはダメだ、水を止める意地悪な女神、姉の一件を未だに根に持っているなど、村の利益しか考えていない彼らの意見にサラは眉根をひそめる。

挙句の果てには、ニムエは幼い子を食らって魔力の足しにしているだとか、普通に考えて有り得ない噂までたっている。

誰もニムエの話を聞こうとも思っていない。自分の生活と村の存続しか考えてない村人たちに、サラは奥歯をかみしめて足を動かした。


少し歩けば、村へ来た時に馬を置かせてもらった放牧場までたどり着いた。

その時、あ。とワトーが思い出したように声を漏らす。


「今日は、このムキムキジジイの家に泊まるんすか?」

「ムキムキジジイではありません。ゼルバ老師です。老師のご厚意で湖のほとりにある別宅にお邪魔させていただくと、先ほど説明したばかりですが、もうお忘れですか?頭の中まで蕎麦に浸食されているんですか?」


尊敬する師を愚弄されたからか、リナリアはワトーに冷たく当たり、鼻で笑った。

ついさっき蕎麦を悪く言った人物から更にけなされたワトーが怒らないはずはなく、今にもとびかかりそうな勢いでリナリアを睨みつけた。


「なんだとこの…!「ワイアー」


ぐいっと犬のリードを引っ張るかのように、ジュリアはワトーの首根っこを掴んで動きを封じる。

それと同時にミネルヴァも目を細めて、リナリアの眉間を人差し指で小突いた。


「リナリアもやめろ。大人げない」

「…申し訳ありません」

「ワイアーも、急にどうしたというのよ」

「別に…馬が置けるならそっちに移動しておいた方がいいかと思っただけっす…」

「なるほどなるほど。ならば連れてくるとよいだろう。ここから湖まで歩くよりも早いですしな」


ゼルバの別宅は随分と大きいらしく、並みの馬車なら2台は余裕で入るらしい。

それを聞いたワトーは嬉々として放牧場にとめていた幌馬車を動かし、サラ達も荷台に乗り込んだ。

御者席の横にゼルバを乗せ、案内のままに馬車は進んでいく。

カタカタと村から外れたケヤキ道に差し掛かると、サラ達の眼前に夕陽に照らされてキラキラと光を反射する美しく大きな湖が姿を見せた。


「うわあ~…!!きれー!!」

「水の精霊がたくさん…本当に澄んだきれいな水なのね」

「そうでしょうとも、そうでしょうとも。パトリア湖は水の精霊の故郷ですからな。美しく様々な精霊がここに棲んでおりますぞ」


にこにこと目尻を垂れさせたゼルバは、子供のように指をさして湖に棲む精霊たちを紹介していく。

水辺でふわふわと揺れる小さな泡は下位の精霊、ニンフ。

人魚のように優雅に泳いで歌っているのは上位の精霊、ウンディーネ。

他にも様々な精霊が湖に棲んでいるが、主立っているのはニンフとウンディーネ、そしてそれらを取りまとめているのがニムエだという。

ニムエは湖の中心近くにいるため、一番呼びかけやすい岸へ行かなければならない。


その手前にある青い屋根のお屋敷がゼルバの別宅だ。

木造2階建ての大きな屋敷は避暑地によくあるコテージのような作りをしていた。

木の柵で母屋と仕切られている庭は広く、園芸も趣味の一つであるゼルバの要望なのか温室も完備されている。

色とりどりの花と木々に囲まれ、その中で趣味にいそしむのはまさに理想的な隠居生活といえよう。

筋骨隆々の上背ある元軍人がいるだけで多少ミスマッチ感が否めないが、そこは今流行りのギャップという奴だ。


ワトーが幌馬車をゼルバに指定された場所に止めると、サラ達は一斉に降りてひときわ大きく見える湖の傍に近寄った。

楕円形に伸びている湖はゼルバの説明にも合った通り、一カ所だけ湖の中心へと岸から道ができている。

さっそく行ってみようという話になった時だった。

バアンッ!と屋敷の扉が勢い良く開かれて、中から見知った顔が飛び出してきた。


「お師匠!!」

「なっ、パロマか?!お前さん何故ここに…?!」

「ええっ?!」

「パロマ?!」


つい数時間前に別れたばかりのパロマと思いがけず再会を果たしたサラ達は動揺を隠せない。

皆がざわつく中、ミネルヴァがハッとして顔をあげる。


「ジジイ、絵の趣味もあると言っていたな?まさか今は絵師の教鞭でも取っているのか」

「おお、言っておりませんでしたかな?

魔法絵師の資格を取りましてな、今はゼルファン・ゴッフォードという名で画家として生計を立てておるのです。

絵画教室もその一端ですな」


普段は画家として絵を描き上げ、週に一度、村の自宅で無償の絵画教室を開いているのだとゼルバは明かした。

レニャやライナもその教室の生徒だから、よく知っていたのだ。

そしてパロマは、勝手にゼルバを訪ねてきて一番弟子を勝手に名乗っている困ったちゃんなのだそう。


「勝手じゃないっしょ!師匠言ったじゃん!『一番でも弟子でもなんでも好きにしろ』って~!」

「その言葉の後ろに『そして頼むからアトリエから出ていけ』と付いていたはずなんだがなあ~」


疲れ切った表情で眉を下げるゼルバの腕をつかんだパロマが、ガックンガックンと師匠の体を大きく揺さぶって抗議する。


「ええ~!!聞いてないってそんなの~!」

「ハア…まあ、お前もいろいろと苦労をしたのだろう?

とりあえず居間で大人しくしておれ。私はライナ様の同行があるでな」

「サラ達も行くんじゃん?だったらあたしも行く!」

「お前さんな…年寄りの願いをたまには聞いておくれ」

「ええい、もういいじゃあないかゼルバ。面倒だから連れて行こう」

「ひゅう!さっすがライナ様!いっけめーん!」


そこにイケメンは関係ないと思うが、付いて行く気満々だったパロマからしてみれば何でもいいのだろう。

またよろしく~と間延びした声で挨拶するパロマを見て、サラは思わず口角が緩む。

もうしばらくは会えないと思っていたパロマが隣を歩いている。

こんなにうれしいことは無かった。


「な~に笑ってんのさサラ。そんなにあたしとまた会えたのがうれしいワケ~?」

「だって、ほんの一時間前にまた会おうって約束したのに、もう会うとか笑うしかないやろ?」

「確かに」


ケラケラと笑いあうこの時間が、サラにとって心安らぐものだった。

世界に降りかかる闇の気配を忘れられるこの一瞬が、心の奥底に刺さった棘をほんの少しだけ溶かしてくれたのだから。


湖の周りをしばらく歩き、やっと湖の中心へ行ける道が見えてきた。

すうっと通った一筋の道は3人分の道幅があり、白い砂地がサクサクと足元で音を鳴らす。


「この道は夕方から夜にかけてしか現れず、朝になれば消えてしまう不思議な道でしてな。

私の持論では、水の精霊とニムエが活動する時間帯に湖の水位が下がり、そのほかの時間が来ると水位が上がるのでは、と考えておるのですよ」


ちょうど夕刻になって良かったですなあ、と言ったゼルバは湖に向かって声を張り上げる。


「ニムエ、ニムエや!ゼルバ爺が来ましたぞ!」


ゼルバがそう呼びかけると、湖の中心がザアア…と渦巻く。

ぴたり、と水音がやむと大きな水泡が浮き出てくる。風船を針でつついたように水泡が消えると、中からそれは美しい湖の乙女がサラ達の前に姿を現した。

水色のウェーブがかった長い髪の毛は潤いに満ちており、白い肌は汚れを知らない砂浜ようだ。

青い衣に身を包んだ長身の彼女こそ、水の女神ニムエである。


「ゼルバ、後ろのはだれ?」


透き通ったソプラノがゼルバに問いかけ、そして淡い青の瞳がサラ達を見た。

こわばった表情を浮かべ、一歩引き下がるニムエにゼルバは優しく接する。


「ニムエ。この方たちは私の馴染みの人だ、村の者のようなお人ではないから安心おし」

「ほんと…?」

「もちろんだとも。この方たちは訳あってアルティナ様の痕跡を辿っておられる。以前に湖底に何かあると教えてくれただろう?それについて話してくれぬか?」

「アルティナ様…に、ついて…」


そう言うとニムエは急にうつむいて押し黙ってしまった。

どうしたのだろうとミネルヴァ達が心配していると、サラが口を開いた。


「ニムエ!私はサラ!サラ・エトワールっていうねん!エデンから来た魔導師!仲良うしてな~!」


ニカッと笑ってサラはニムエに笑いかけ、手を差し出す。

その言動の対処に困ったのか、ニムエはおろおろと戸惑いを見せたが、ゆっくりとサラの手を握り返した。


「わたし…は、ニムエ・エーゲリア。水の精霊を束ねるもの、だよ」


その様子を見ていたパロマもサラに便乗してニムエの手を強引に掴む。


「あたしはパロマ!師匠の一番弟子!こ~んな美人の女神サマと沢山の精霊がいる湖ってぱないっしょ!今度お宅をモデルに絵を描かせてよ!」

「えっ、あ、うん…」


約束、とパロマが小指を出すもニムエは指切りを知らなかった。

仕方なくパロマが指切りのやり方を教え、ニムエは流されるままに絵のモデルを了承していた。


「パロマ!ニムエに対して馴れ馴れしいにもほどがあろう。弁えんか」

「師匠はかったいな~。イーじゃん別に、人間と神様が友達になっちゃあいけないなんて規則はないっしょ?」

「パロマの言う通りやわ!神さまだって精霊だって関係ないやん?少なくとも私はニムエと友達になりたい!」

「なっ…お、お前さんらなあ…」


サラとパロマに言い負かされるゼルバを見て、ミネルヴァが笑いを堪えながら肩を叩く。


「ふ、一本取られたなゼルバ。なあニムエ。一つ聞きたいんだが、なぜ村に水を送りたくないんだ?」

「そ、それは…」

「大丈夫よ。私たちの中に、告げ口するような悪い人間はいないわ」


ジュリアが優しく問いかけるも、ニムエはうつむいたまま応えようとはしない。

その様子を見て、ジュリアは自らのフードを脱ぎ去った。

綺麗な金髪が夕焼けに照らされて赤金色に光る。


「ニムエ。人間がだめなら、エルフになら話してもらえるかしら?

精霊と世界樹と共に生きるエルフになら、話せるでしょう?」

「エルフ…そう、あなたエルフなんだ…」


ニムエが再び口を開くまでに少し時間を要したが、ジュリアがエルフであると明かしたことで、ニムエの中にあった警戒心はほぐれたようだ。


「…おねえちゃんの力が、もうないんだよ」

「お姉ちゃんの力?姉神、エレインのことですか?」

「おねえちゃんはパトリアを出る前に、自分の力を魔石にして私に託してくれた…。でももうその魔石の力がほとんど残ってないんだよ…」

「それって…!」

「逸話に出てくる魔石ってそういう事だったんだ!」


逸話だけを聞くとエレインが形見になるように魔石を送ったように感じたが、やはり実際は違った。

エレインが妹のためを思って渡したことに変わりはないが、これからも妹が村人の願いを叶えられるようにと力を託していたのだ。


「わたしは雨を降らせたり、天候を操る事は出来ない…。

出来るのは水の精霊たちにお願いして湖の水を運んでもらうことぐらいだよ…。でもそれもむずかしい…。

湖の水が日に日に枯れてきてる…これ以上湖の水を村に渡したら、精霊たちや水の生き物が死んでしまうよ…」


ニムエは今までずっと姉の力がこもった魔石を使って雨乞いに応えていた。

だがそれも徐々に魔石の力が弱まるにつれ苦しくなり、少量の雨と一緒に湖の水を運んでごまかしていたのだ。

そして、ついに万策尽きた。


「もう、どうしたらいいかわからないよ…おねえちゃん…」

「ニムエ…」


ポロポロとニムエの両頬に大粒の涙が伝う。

村人の身勝手で姉を失ったも同然なのに、それでも懸命に村の事を想って願いに応じてきた心優しい女神を捨て置くなんて出来はしない。


「これはもう、はっきり言ってあげた方がええんちゃうかな。村の人に」

「しかしどう説明する?あの村人たちの心理を考えれば、言うだけではハイそうですかと納得してはくれんぞ」

「…実際に、魔石を使って雨が少なくなっていることを見せるというのは?」

「駄目よ。雨が降らないなら湖の水を要求してくるでしょう」

「ああ~もう!堂々巡りじゃないっすか!」

「とにかく、話し合いの場を設けた方がよさそうですな。私が一度村長に掛け合ってみましょう。

村の者がいま何を考えているかも気になりますしな」


ニムエにゼルバが村との懸け橋をする旨を伝えると、彼女はほんの少しだけ笑って湖の底へと消えていった。

どうにかして村とニムエの問題を解決してあげたい。そんな思いがサラ達の中で強くなった。


屋敷へ戻る途中、ミネルヴァがゼルバに話しかける。


「ゼルバ、私たちは屋敷で待機していていいか?」

「ええ、どうぞごゆるりと。ハウスメイドが一人おりますから、何なりとお申し付けくだされ。

村長はよそ者嫌いですからな…いくらライナ様たちが押しかけようと無駄でございましょう」

「頼みます老師」

「お任せあれ。ああ、そうだパロマ。アトリエに入るでないぞ。良いな」

「ハーイ。ワカリマシタ、シショー」


ぜったいにわかっていない返事だったが、信じるしかないゼルバは屋敷に入って年配の女性を連れて戻り、

要件をいくつか伝えるとすぐに自分の馬にまたがって村へと走らせた。


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