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第05話 『憤怒を盾に-ニケア-』

【Warning!】


 今回の話には暴力描写が含まれます。

 どこまで引っかかるのか、どう対応すべきかは手探り状態なのですが、R15規程に引っかかる方と、こうした表現が苦手な方は読み飛ばす等をご判断頂き、対応を願いします。


5/8 挿絵を追加しました。











 驚く以前に体が勝手に動いた。

 闖入者の抜刀と同時に<迎撃インターセプト>を発動させて、アルメリア殿下との間に割り込む。これは反応速度を一瞬だけ上昇させる魔術で、護衛にはほぼ必須の魔術とも言える。


 ニケア・ディアシウス(わたし)という人間が近衛騎士として抜擢されてからは実戦など始めてのことだが、訓練の成果は生きるものなのだと強く実感する。


 そうして正面から対峙しても信じられない。

 信じたくない。


 だが――


「なんのつもりかランパス卿!!」


 今回の行幸に際し、近衛騎士団のアルメリア殿下付きの警護のために編成されたランパス支隊。その隊長が殿下に剣を向けるというのか。

 許せない。


 確かにアルメリア殿下とはほんの少しの時間しか言葉は交わしていない。

 親しみやすい話し方も、記憶を失っているために年相応になっているだけだろうし、記憶が戻れば元の主従関係に戻るのだろう。


 だがそれでも、殿下の本質を汲み取るには充分だった。

 我が剣を捧げたエイリューズ4世陛下のご息女であられるという理由だけではなく、騎士としての誇りを預けるに足る方だと強く感じた。

 しかも記憶を失って心細かろう殿下に、いや、少女に対して剣を抜くなど!


――絶対に許さん!


 私は吼えた。


 私に割り込まれたことで先頭のランパス卿が立ち止まると、後続の三名も立ち止まった。

 二人は同僚の近衛騎士で、もう一人はローダンキア防衛大隊長のジルス卿か。


 無言のままの相手と対峙したまま、単文節の呪文を唱えて<戦闘準備コンバット・レディネス>の魔術を発動させた。

 怒りのあまり沸騰していた頭に、わずかに冷静さが戻る。

 間違いなくこのタイミングでの魔術攻撃があると踏んでいたが、相手はじりじりと詰め寄るだけだ。


 しかし戦力分析をしてみても、どう考えても勝ち目は無い。ランパス卿と二人の近衛騎士、三人とも私より強い。

 その上ジルス卿とジェルジという兵士で五対一。

 しかも私の手には短剣スティレットしかない。

 それに私の戦闘向けの魔術は、攻撃に寄っていて防御に向いていない。

 正直な話、分が悪いというレベルではなく、秒殺されてもおかしくない。


――だが関係ない


――ここは守り通す


 アルメリア殿下にお逃げくださいと声をかけたかったが、相手の意識をこちらに向けたままにしておかなければならない。

 それに時間を稼げば、テッサがアルメリア殿下を連れ立してくれるはずだ。

 テッサのことも守らなくてはならないが、こうした状況でもテッサは上手く逃れてくれるだろう。

 ともすれば屈しそうになる心を奮い立たせる意味も含め、もう一度吼える。


「裏切るというのか卿ら!!」


「……そうではない。貴様こそ、そこを退け」


「理由を言え!」


「言う必要など無い」


「なんだと!」


 ランパス卿が冷ややかな顔で言い捨てる。


――何を言っているのだこやつは!


 理由があるにせよ解しかねる。

 いや、理由があっても明確な叛乱行為だ。

 尊敬できる方だったが、今のこやつはまるで信用できん。


「退かねば殺す」


「ひっ」


 最後の一言に、背後からか細い悲鳴が零れた。

 あの愛らしい殿下が怯えているのかと思うと、再び怒りに飲み込まれそうになる。

 思わず奥歯からギリギリと音が鳴ったが、それすら耳障りだ。


「やって見せろ痴れ者が……貴様らのような下郎に屈する私ではないぞ!!」


 我ながらこんなに底冷えする声が出せたのかと、冷静な部分が考える。

 ともあれ、少しでも押し返さねば稼げる時間も稼げない。

 間合いを詰める為に一歩前へと踏み出す。


 じり…とランパス卿の背後の者達が左右に広がり、包囲する動きを見せた。


「止めてください大隊長! ここは御前です!」


 途端、ジェルジがジルス卿に背後から掴みかかった。

 敵側ではない……のか。


 気が逸れた瞬間、眼前のランパス卿が両手に握った剣を打ち込んできた。

 それに対応するアクションで身体強化(エンハンスド・ボディ)の術式を使うと、手にした短剣スティレットで払いのけるように剣を受け流し、返す動きで身体強化増幅(エンハンス・ブースト)を使いながらランパス卿の顔面へと突きを繰り出す。


 だが所詮は短剣の攻撃、打ち込んだ体勢から肘を跳ね上げられると刃は鎧に弾かれる。そして上げた肘を支点にしてくるりと剣が翻り、流れるような動きで第二撃が振り下ろされる。

 鎧を着けてない身軽さが幸いしてか、身を逸らすことでそれを回避できたが、体勢が崩れてしまった為に結果として数歩後退することになる。


 分かっていたが、強い。

 二人の近衛騎士に包囲されていたら間違いなく追撃を受けていたところだが、ジェルジのおかげで展開が間に合っていなかった。

 いや、先に手を出さざるを得なかったと言うべきか。


 そのジェルジはジルス卿ともみ合うと、突き飛ばされてこちらに転がってくる。

 いや、今のはわざとこちらに来たのか?

 一瞬警戒した私に、ジェルジは即座に言ってきた。


「思うところもあるでしょうが、協力させてください。『自らを顧みよ、汝は“ソード”なり』」


 手にしていた短剣スティレットに鈍い光が纏わり付き、刃渡り60センチほどのブロードソードへと延伸される。<武器錬成(アルケミア・ウェポン)>だ。

 これは助かる。

 司令部付きと言っていたから、意外と手練れなのかもしれん。


「ありがたい」


「僕では盾まで作れないので恐縮ですが」


「それでも安心感が違うからな」


 横で刺突剣レイピアを抜くジェルジと壁を作るように立ちはだかる。

 それでも二対四で圧倒的に不利だ。

 いや、ジェルジを突き飛ばしたジルス卿は、近衛達が前に詰めたことで部屋のもう一つの扉、つまりアルメリア姫から一番近い出口を陣取る。

 二対三にはなったが、それでも四人倒さねば脱出は難しい。

 しかもこちらは増援の見込みはないが、敵側には増援があり得るのだ。

 扉の外に数名が詰めていても不思議ではない。


「分の悪い戦いに付き合わせることになるが……」


「ここを切り抜ければ、分は良くなるはずです」


 なるほど、彼なりに戦局を読んでいるということか。

 傍観に徹してこの場の勝者に付くという日和見ひよりみもあり得たのに、その選択をしなかった事でジェルジの人柄がうかがい知れる。

 となると、問題はどのように切り抜けるかだが――


 再びランパス卿が真っ向から打ち込んでくる。

 考える間もない攻撃に意表を突かれ、剣で受け止める事しかできない。というのも、次は魔術で崩してから打ち込んでくるものと踏んでいたからだ。そのため私は対魔法防御に気を取られていた。

 それが魔術も込めていない剣戟けんげきとは、違う意味で意表を突かれた。


 ジェルジの方も同じだ。

 近衛の一人に打ち込まれ、それを受け流すように回避はしているものの、そちらも魔術による仕掛けはされていない。


「ちっ」


 舌打ちすると、受け止めた剣を横に流そうとつかに引っかけるが、相手もそれは同じだ。

 柄と柄が互いの剣を引っかけあい、十字の形でがっぷりと組み合う。

 だがそれは相手の思惑に乗ることになる。

 護衛側としては常に動ける状態になっておきたいからだ。

 下がることになるがここは仕方ない。

 私はタイミングを見計らって後ろに引くと同時に、剣を上に跳ね上げた。

 と、もう一人の近衛が斬りかかってくる。


――そんな鈍い連携で!


 内心で罵りながら、今度こそ剣を受け流してランポス卿への盾にすると、反撃の一撃を打ち込む。


 ガキィ!!


 鈍い音が鳴り、近衛騎士が身を翻す。


――鎧で受け流された(アーマー・パリィ)か!


挿絵(By みてみん)


 戦場で言うなら、こちらの戦線は押し込まれ続けている。

 崩壊は即ちこちらが倒されることだが、それ以前に押し潰される事もあり得る。

 ちらりと背後を確認すると、アルメリア殿下はテッサに庇われるように敵から最も遠い位置――つまり最初に敵が入って来た扉の対角線上となる窓際へと避難していた。


 こちらもベッドを横方向の壁にできる位置取りで進路を塞ぐかと考えたとき、アルメリア殿下の方向からガタガタと音が鳴る。

 見ればアルメリア殿下が窓を開けようとしていた。

 その顔色は真っ青で、今すぐここから逃げ出したい様子がありありと伺える。

 三階から飛び降りてでも逃げたいのかと思ったその時、私は私が魔術による補正を受けてもなお、まったく冷静でなかったことを知った。


「トライゼー殿、下がるぞ! 『喰らえ!』」


 言うが早いがベッドに飛びかかるようにシーツを掴み、目の前の近衛騎士とランポス卿に投げつけて視界を奪う。

 投げた動作のままに身を翻すと、ジェルジと対峙していた近衛騎士に、横合いから打撃(ブロウ)の魔術を込めた蹴りを入れた。

 騎士としてというか、女性としては少々褒められたことではないが、鎧を着けてない場合の真っ当な戦法だ。

 ジェルジも驚いたようだがすぐに反応してくれた。


「殿下! 飛び降ります!」


 アルメリア殿下が困惑したようにこちらを向く。

 窓に剣を投げつけざま、砕けるガラス片から殿下の身を守るように割り込み、その小さな体を抱え上げると安心させる言葉を投げかける。


 そこからは早かった。

 こちらの意図を瞬時に察したテッサが窓際の椅子からクッションを引っさらい、窓枠のガラス片を除けながら穴を広げると、先に行くように目で合図する。

 ジェルジはそこまでの時間を稼ぐつもりなのだろう。自分もすぐに飛び降りれる位置に移動しながら、迫る近衛騎士を牽制けんせいしていた。


 もはや考える時間も無い。

 私は<弾性域フィールド・オブ・バウンディング>のための精神集中をしながら、三階の窓から身を躍らせた。


 前書きでも書きましたが、今の規制描写はまだちゃんと調べていないので、大丈夫だろうと思っても戦闘シーンが含まれる場合は前書きにて注意を呼びかけることにします。


 え? 前話?

 抜剣ぐらいならええやろ(てきとう)

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