第04話 『長い一日のはじまり』
5/8 挿絵を追加しました。
そんなこんなで少しだけまったりしていると、入室許可の後にメイドさんが入って来た。
テッサと違ってちゃんとメイドさんだよ。
私のイメージしてたブリムを着けて、エプロンを着けてというメイドさん。
ちゃんとロングスカートだよ。
やっぱ侍女とメイドさんは何か違うのか。
「失礼致します。防衛大隊より伝令の方が参っております。なんでも直接アルメリア殿下の安否を確認せよと申しつけられておりますそうで、この部屋にお通ししてよろしいのか確認に参りました」
「その者に近衛騎士団からの許可証は出ているのか」
「はい、それは間違いなく」
「では私が対応しよう。そちらの扉へ連れてきてくれ」
対応したニケアが、2つある扉の中で最も遠い扉へと向かう。
私も色々聞きたいから近くでいいよー。
って言っても聞いてくれなさそうなので、テッサとお喋りしながら様子を伺うことに。
「ところで、あれってメイドさん?」
「はい、そうですよ。ご用がございましたらこちらのベルを鳴らして頂ければすぐに来ますよー」
「テッサとはまた違うのね」
テッサは一瞬きょとりとしてから、私の言いたいことを察してくれたのかにこやかに微笑んだ。
ぼんやりした雰囲気を纏っているのに、こういう察しが良いのは嬉しいね。
たおやかな微笑みも愛らしい。
もしかして良家のお嬢さんなんじゃないかな。
「私は侍従の扱いですから……どうご説明したものでしょう。メイド達は屋敷の雑用を担当しますが、私達は姫さまのみ身の回りの雑用をします。と言えば分かりますか?」
「あー、それで側仕え。達ってことは他にも居るんだよね」
「はい。侍女長もおりますし、普段は二人でお世話致しますが、パーティーなどの際は総掛かりですよ」
「へぇー」
身の回りの雑用というのは、着替え、普段の食事で同席しての料理の取り分けなどのちょっとした事。お茶を淹れたりお喋りしたり、さらには宥めたりなども入っているとのこと。
しかも侍女として雇い入れられるのは基本的には下位の貴族で、嫁入り修行も兼ねているんだとか。
王族より下位の貴族って全部じゃん。
それでも格式は求められるので、私の場合は基本的に侯爵家以上の者が集められている。
なお、男爵家とかは下がいないじゃんと思ったが、そもそも子爵家以下は金銭的な事情も込みでメイドが兼ねる事が多いそうな。
そしてメイドさんの方の屋敷の雑用ってのは、掃除洗濯管理修繕と幅広い。要は女性の使用人ってことだものね。それから使用人は男性の割合の方が多いんだとか。私の目に付くところにいないのは、淑女の側には淑女を置くべしって事だからだって。
「あれ、それじゃあテッサも結婚したらやめちゃうの?」
「そうですねー、良縁があればいいんですけど」
頬に手を添えて小首を傾げたテッサは溜息を吐く。
はっきり言って、このスペックで良縁が見つからないとかどんだけ難易度高いのよ。いい男性が居ないのか、このスペックの女性がゴロゴロいるのか。
前者だったら悲しい。
その場合は自分で育てるしか無い。
逆光源氏計画ってヤツですよ。
そんな女としての複雑な心が顔に出ていたのか、テッサはのほほんと付け加えた。
「お父様が断固として反対してるんですよー。『お前は12女なんだから、結婚なんかしないでずっと家に居ていいんだぞー』などと申して」
あー、親バカなのか。納得。
って12女!?
女系一家にしても女性ばかりって事ないでしょその人数。
仮に女性ばっかりで最短で頑張り続けてたって言っても、12年間毎年とか死んじゃわない?
それとも側室なの? ハーレムなの?
ニケアが対応しようとしてる伝令のことなんか頭から吹っ飛びかけたよ!
※ ※ ※
私がテッサから驚愕の話を聞いていると、入って来たのは明るい緑色の髪を持つ、まだ若い男性だった。
「失礼します。ローダンキア防衛大隊司令部所属ジェルジ・トライゼーです。司令部よりアルメリア殿下の所在及び安否の確認を命じられました。確認取れ次第、護衛体制の強化にあたるとのことです」
短く切りそろえているが、好き勝手跳ねてる癖毛が特徴的なお坊ちゃんって感じの人物である。
こっちも10代半ばかなぁ。もしかして魔族ってめっちゃ若く見える種族なのでは。
濃緑色の学生服みたいなシンプルな服を着ているせいもあり、学生ですと言われても違和感がない。でもこの服、軍服と言うより戦闘服と言われれば納得。
腰に細身の剣を帯剣してるしね。
ちなみにニケアは帯剣してるけど、ジェルジと名乗った人とは違って短剣を帯剣してる。
近衛隊用とかそういうのなんだろうか。
かなり豪華な装飾されているんで実戦向けじゃないんだろうね。
で、そのジェルジ、右手で左胸を押さえて左手を腰に当てるように折り曲げて礼をすると、の姿勢で報告を始めた。左手が帯剣してる剣の柄を押さえるようにしているところを見ると、それによって害意がないことを示してるんだろうな。
ニケアも同じように礼をしてから直立不動に戻ったところを見ると、これが返礼なんだろうか。
こういう所作は覚えておいて損は無いだろう。
あ、でも私がやるとしたらカーテシーかー。
テッサみたいに出来る自信なんて皆無ですよ。
勘弁して欲しい。
「待て、我々はそちらがどうなっているのか把握が出来ていない。手筈では殿下と同時か直後に報告が来るはずではなかったか?」
「それが、自分は司令部より直接駆けつけましたので、現地がどうなっているのかまでは把握出来ておりません」
「その指示は誰の名で出されている?」
「近衛騎士団支隊長ランパス卿からです」
「なるほど、安否確認だけはしておきたかったということかな」
「卿の意図は解りかねますが……そのような理由ですので、この場での連絡の許可を頂きたくあります」
「……うむ、許可しよう」
おー、なんかニケアが軍人さんっぽい。
いや近衛騎士なんだからエリート軍人さんか。
思わず「格好いいねぇ」なんて呟いたらテッサが同意してくれた。
こっちも聞き流しかけたけど、それどっちの話?
ジェルジの方だったりしない?
結婚の話を聞いてしまったせいで、「うちのテッサはやらんぞ!」って気分になった。
それはともかく。
しかしこの場で連絡?
どうやるんだろうと思って見ていたら、左手をこめかみに当て始めた。
それだけ。
そして私はそれが何だろうと思う以前に、ジェルジの左手に嵌められた指輪を見てチャラいなって思ってた。
だって薬指以外の指にジャラジャラ指輪嵌めてるんだもん。
それはそれとして何が連絡なのか全く分からなかったので、こっそりテッサに聞いたところ。
「<心話>という魔術を使ってるんですよ」
「へぇー。あ、お水おかわり」
やっぱ魔法便利だなー。
要するに持ち歩き不要のケータイって事でしょ。
ハンズフリーもびっくりだよ。
しかも通信料はタダ!
いやタダって事は無いのか。魔力使うから疲労があるだろうし。
<転移>みたいに距離制限もありそうだし。
けどそれ言ったらケータイも同じか。
あれって基地局で中継してるわけでしょ。
心話中継局みたいなの作って範囲を拡大とか、商売になるんじゃないだろうか。
ゆくゆくは写真みたいなイメージも伝えられるようになればスマホも……。
って、イメージも伝えられるんだろうか。
最終的に機械文明を相手にするなら通信関係って押さえておきたいし、イメージ伝達できるなら充分対抗可能できると思うしね。
なんて受け取ったグラスを両手で抱えながら妄想じみた考え事をしていると、どうやら心話が終わったみたい。
だけど、ジェルジはやや怪訝そうな様子。
「護衛配置の完了まで、ここで待機するよう命じられました」
「ランパス卿はどう言っておられるのだ?」
「は、ただちに護衛を強化する、としか。……確認致しますか?」
「いや、それであるならよい。すぐにでもランパス卿が戻られるのではないかな」
居残りとなって困惑するジェルジと対照的に、ニケアはほっとした様子だった。
「そのようなわけで、間もなく体制が整うかと思います、リンド様」
「そうですか、エーベルト様もお戻りになりますかね? 戻られなかったらどうしましょう」
「恐らくランパス卿と共に戻られると思いますよ」
私から遠いところにジェルジを待機させたニケアが戻って来て、テッサと話をしている。
うーん。
どうやら“現地”とやらで何かあって、私が転移でここに避難した。ここは緊急避難所だから警備体制が整ってないって事なのかな。
さっきは<転移>に興味が行っちゃって聞きそびれたけど、聞くなら今かも知れない。
残念ながらニケアも交代するっぽいし、交代した人から聞き出せる保証もないしね。
「それで――」
と、口を開いたところで、部屋の外から声が響いてきた。
さっきのメイドさんっぽい。
「お待ちください、完全武装での入室は禁じられております!」
ん? 武装はダメなの?
ジェルジの剣は違うのかな。
なんて考えてると、先ほどジェルジが入って来た――今も側でジェルジが待機しているほうの扉から、鎧を着込んだ人達がずかずかと入って来た。
うおっ、マジで完全武装だ!?
面貌は上げているけど、それ以外は甲冑を着込んでいる。
白銀色のカッコイイ感じの人物を先頭に、同じような鎧の人が二人続いていて、黒鉄色というのか黒っぽい鎧の人物が一人。
しかもなんか剣呑な雰囲気だよ。
びっくりして目を丸くしていると、私を見た完全武装の人達はずらりと剣を抜く。
まことに!?
改行多めにして、文章の体裁を見慣れたなろうの雰囲気にしようと四苦八苦してます。
文章そのものの体裁ではなく、見た目の体裁とか考えたこともありませんでしたからね。
これが、なかなかに奥が深い。
Tabでネスト作ればいいって訳じゃありませんし、なんというかプレゼン資料でも作ってる気分です。