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一般人は冒険などしたくない  作者: ゆーらん
22/22

狩りとは効率化

 転送陣をくぐった先は、深い森の中……だと、てっきり二人はそう思い込んでいた。

 だが、どこからどう見ても室内である。飾り気のない木造で、背後を振り返るとそこには今くぐってきた転送陣があるばかり。


「……んん?森林に行くって話だったはずじゃ……?」


 きょろりと辺りを見まわして伊織が言う。隼人も同じことを思っていたので、視線でクリフォードに問う。


「ええ、間違いなくメルガルト森林の深部ですよ」

「ずいぶんと立派な小屋なもので……小屋でいいの?これ」

「ああ、そのことですか」


 飾り気がないとはいえ、作りはしっかりとしていて、山小屋と呼ぶには少し役不足である。ちょっと質素な一軒家とでも呼ぶべきか。

 その辺りを聞いてみると、さすがに転送陣を森のド真ん中に設置、というのは色々と問題があるらしい。某有名RPGでも転移施設は神殿のようになっているし、やはり装置の守護は必要だろう。

 そこでアレクシスが建てたのがこの一軒家だ。メルガルト森林の木材を使っているため火にはめっぽう強く、周囲はアレクシス自身が手掛けた結界が張り巡らされている。ここまではいい。

 説明をされながら転送陣の部屋を出ると、簡素ながらリビングルームとキッチンが備わっており、別の扉はと聞いてみれば簡易的なベッドがあるとか何とか。ヴェラーの方針として、森のド真ん中でレベル上げ合宿とかありなのだろうか。


「この森の樹はほとんどがヴァールといういい木材なので、木こりたちと協力関係を結んでいるんですよ。俺たちはレベル上げに魔物を間引く、木こりはその間引かれた箇所でヴァールを切り倒して木材加工をしていく、という感じですね」

「……ん?木こりたちの休憩所にしては狭くないです?それに木材もどうやって……」

「ええ。ですからここは俺たちの拠点で、木こりたちには近くに別の拠点がありますよ。転送陣も木材用に少し拡張してます」

「マジで何でもありだなアレクシスさん……」

「レベル上げのついでにやってることがえぐいわ」


 隼人が感心する横で、伊織は別の意味で感心していた。味方であるうちは頼りになるだろうな、と再確認したともいうが。

 小屋という名の一軒家に驚いている場合ではない、と気を取り直した二人は、クリフォードに続いてついに森林に足を踏み入れることになった。



 メルガルト森林は、ヴェラー辺境伯領から南西の位置にある広大な森林である。

 辺境伯領から南西に向かうと半日とせずに森林が姿を見せる。そこから海まですべてが森林になっており、森を西に突っ切ると急に断崖が現れる土地でもある。

 森林の内陸側よりも海側の方が魔力が濃く、それに伴い魔物やヴァールの性質も少しずつ変わってくる。

 基本的に水の魔力が満ちた土地なので、ヴァールはこの恩恵により燃えにくく、魔物は水属性がスライド変化した地属性の性質を持つためとてもよく燃える。この特性が、海側に近づくほどに強く現出するのだ。

 ヴァールはその耐火性から建材や家具としてとても優れているほか、堅すぎないため加工がしやすく、工芸品などにもよく使われている。

 森林の奥地産の方がやはり水の魔力が多く、耐火性は高まるが、今度は風属性に弱くなるという難点も抱えている。そうなると建材とするには少し不安が発生してしまうため、海側ギリギリよりは、ほどほどに深い場所に生えているものがバランスが良いとされている。

 そう、ちょうど現在クリフォードたち三人がいる場所あたりだ。


「前回は西寄りを間引いたので、今回は南寄りに進んでいこうと思っています」


 そう聞いた伊織は、初日以降その存在を忘れていたマップを目の端に開いて置いておく。彼女はRPGなどでマップを出しっぱなしで移動するタイプなので、視界の端に何かがあることは問題はない。

 それよりも街中などと違い、目印も何もないところで現在値が分からないことに不安を覚えたためだ。いくらクリフォードが先導するとはいえ、この辺りは理屈ではない。

 伊織がマップに気を取られているところ、隼人はクリフォードが何やら石を進路に投げていくのに気づいた。


「石なんか投げてどうするんです?」

「木こりたちへの目印ですよ。石に魔力を込めてあるので、対応する魔道具でそれを辿ってもらいます」

「へえ……」


 隼人は先ほど伊織が言った「やってることがえぐい」という意見に、たった今深くうなずいた。

 レベル上げついでとは言うが、その内容はあまりにも効率的で無駄がない。おそらく専用に誂えただろう魔道具まで使ってとなると、話のレベルが違ってくる。

 石に込められた魔力を、魔力が高くなくても任意の追跡が行えるということ。これは人件費をカットするのに一役買っているはずだ。あくまで印象にすぎないが、追跡が行える魔力持ちを恒常的に木材調達に連れていくにはそれなりの金銭がかかるだろうことは予想ができる。

「燃えない木材」の需要は必ずどこにでもあるはずだから……と考えると、自分が思っている以上にこの領は富んでいるのかもしれない。隼人は力なく笑うしかなかった。




 時々石を進路の左右に落とすクリフォードを先頭に、伊織を挟んで隼人がやや後ろに南へと歩いていく。

 伊織は視界の端にあるマップをちらちらと見ながらなのでやや意識が集中していない。それに気づいた隼人が時折横に並んで自分を見上げさせる。尤も、これには彼の思惑がほんの少し含まれているかもしれないが。

 そして本題のレベル上げだ。ここでの獲物は樹が魔物化したものだ。見分け方はとクリフォードに聞くと、木々をよく見ると分かるとざっくりした回答をよこしてきた。

 魔術訓練といい、説明が下手なのか雑な性格なのか、見た目とは違う男である。

 とりあえず、二人はそれに従って木々を見るが、どうにも違いを見出せそうにない。


「ほら、あれです。あの辺を狙ってください」


 それを見かねたのかクリフォードが指示を出してくれる。だが、それより先に、指し示す方向をまず見る。そこに確実に居るというならば特徴が分かるだろう、と。


「……伊織」

「……分からん。何だろうなあ、鑑定でいけるのかな?とりあえず燃やしてみれば分かるかも?」

「お前も大概だからなマジで」


 示された樹とその隣の樹とを目を凝らして比べてみたが、二人にはやっぱり分からなかったのを小声で報告し合う。

 ひとまず魔術を放ってみて、どれが()()なのかを確認してみようという伊織の雑な提案に、隼人はこめかみを揉みながらも隣に立った。

 こんな場所で火を使うなどとはやはり抵抗があるが、燃えないという情報を信じるほかないだろう。


「「ファイアバレット」」


 二人同時に放ったそれは、ごうっ、と初級術にあるまじき威力の火魔術となって樹に向かった。

 ぱちん!と、枯れ木が燃え上がる音がする。理屈では聞いていたが、生木がこれほど容易く燃え上がるとは二人とも思ってはおらず驚くばかりだ。

 だが、その一撃でヴァールが死んだわけではなかった。ひゅうっ、と炎の上がる蔓が目の端に映る。

 咄嗟に隼人が前に出て受けようとするが、それよりも先にクリフォードが剣でそれを払った。炎のついた蔓は振り回した時、根元の方から燃えていて途中から勢いを失っていたので、ずいぶんと軽い音が鳴った。


「少し威力が足りませんね。この辺りなら中級魔術でも延焼はないので、もっと威力を上げても大丈夫ですよ」

「こんな森の中で火炎放射の許可出されるとかマジで信じらんないわ」

「俺もだわ」

「でも、まあ…」


 ちら、と互いを見ると目が合う。そのどちらともが「大義を得たならやぶさかではない」という意識である。

 小心者の大人というなかれ、ことの責任は出来るだけ負いたくないのが一般人だ。


「「フレイムバレット!」」


 先ほどよりも規模の大きい炎が弾丸となってヴァールへ向かう。太い幹に衝突すると爆発し、より一層燃え上がる。

 蔓をめちゃくちゃに振り回し、まるでのたうち回るかのようにその場で暴れた樹の魔物は、そのうち勢いをなくして燃え尽き、真っ黒な姿がそこに残った。


「いいですね。あとはこれを始末して、討伐完了です」


 そう言ってクリフォードは剣を抜くと、真っ黒になったヴァールを横薙ぎにする。

 二人が「あっ」と声を上げる暇さえなかった。すっかり炭化した樹は、内部に何の質量も残していない様子で、斬られた衝撃で砕けて空気中に溶け消えた。

 炭の煙に覆われるのでは、と二人は思ったが、文字通り消えてしまったのだ。どうやらここの樹は、魔物化した時点で性質がずいぶんと変わるらしい。

 到底実戦と呼べるようなものではなかったにせよ、まずは無事に終えることができて息を吐く。


 改めてここが異世界だと思い知らされる、と二人ともが思う。

 初級術ですら、日本ではグルメ情報番組などでしか見ない火の大きさになるのだ。中級術となると、先進国では生きているうちに見る機会はまず虚構のもの(ゲームや映画)でしかなく、基本的には自分の目で実際に見ることはないだろう。

 前日の訓練でその威力は予習済みとはいえ、自分たちが容易く扱えて良いものかと考えざるを得ないことは確かだ。


 二人がそんなことを考えているとは知らず、クリフォードはまた石を落として振り返る。


「一連の流れは以上です。不安な点などはありましたか?」

「……いいや、ないな。要は一撃で仕留めて、切り倒せって感じか。切り倒す理由は?」

「燃え尽きたとはいっても地の魔力が残っているので、残しておくと若木の生育を妨げるんです。切り倒してしまえばこの地の魔力に溶かされて処理されるので、それ以上の始末はいりません」

「なるほどなあ。上手いこと回ってるわけだ」


 この一連を調べ上げた先人もそうだが、それを使って自領の益とするどころか、自分自身の益にもするのだから感心もするというものだ。

 伊織と隼人はその辺りで思考が止まるが、おそらくここに斎がいたならば微妙な顔をして言ったはずだ。

「たぶんそれは考え方が逆だ。自分の益になるから、ついでに継続的な財源にしようと思ったに違いない」と。









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