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一般人は冒険などしたくない  作者: ゆーらん
19/22

伝わらないのか、伝えられないのか

 午後からスキル訓練をして、明日にはメルガルト森林に向かいたいという強行スケジュールのため、昼食時についでにスキルの話をしようということになった。

 そのため、伊織やクリフォードがいつも行っている食堂では少々都合が悪いので、一室を用意してもらって五人での昼食となった。

 お互いスキル部分は鑑定で看破できないので、それぞれが自己申告で発言していくこととなる。


「それで?あの森行くなら全員火属性は持ってんだろうな?」

「イオリ殿には火魔術の中級を付与してますから準備できてます。ハヤト殿は…」

「ああ、俺は四属性あるらしいから大丈夫。これゲームで言うと魔術師(ウィザード)ってところかな」

「え、なにそれずるい」

「そういう伊織はどうなんだよ。何もないってことはないだろ?」

「ああ、私ね。私のは…まあ、こんな感じ」


 すぐ隣に座っていた隼人に問われたので、伊織は答え替わりにスキル画面を出し、MP2000を払って【基礎能力Lv.MAX】を生成し、そしてもう一度MP2000を払ってそれを付与する。

 隼人が「え、」と一言発するほどの僅かな時間だった。

 何かをされたという事だけを理解した隼人は、すぐに自分のステータスを確認して――絶句した。


 ――――――――――

 ハヤト・コトヒラ

 Lv:37

 HP:1092/MP:4004

 力: 85 知力:100

 素早さ: 56 体力: 73

 ――――――――――


 同じく勝手に鑑定をした伊織は初見なので、その数値がどのぐらい上昇しているかは分からないものの、全体的なバランスが自分より上回っていることに複雑な表情をする。

 力は仕方ないにしても、体力は倍以上だというのを数字でハッキリと示されて凹んだようだ。


「いやいやいやいや、何してんのお前!?馬鹿みてえに数字上がってるけど、何かリスクでもあるんじゃねえのこれ!?」

「え、いや別に…?MP払ってるだけなんだけども」

「嘘つけお前…さっきまでMP3000ちょいだったからえーと…三割ぐらい上がってんじゃねえか」

「三割か。結構上がったなあ。…そんな目で見んなって、MPを4000ぐらい払っただけだから」

「は、4000!?」


 隼人との会話に急に声を上げたのは斎だ。がちゃん、と食器を取り落とし、正面の位置からがさがさと伊織のもとへやってくる。

 伊織が戸惑っているうちに、斎は腕をつかんで伊織の目をのぞき込むように凝視する。

 そして目の前でせき込んだものだから、それに腹を立てた伊織が渾身の力で斎の腹を殴ったのは許されるはずだ。


「おま、お前…なんだそのMP…バグなんじゃねえの…?」

「あんたこそ何しやがる。顔の前でせき込む馬鹿がいるかよ」

「俺はお前を心配してだなあ!?」

「暑苦しい」


 もう一度顔を寄せてきたので、今度は頬を押して横に逸らす。

 かつての伝説も身内の前では形無しですな、とアレクシスはその様子を見ながらニコニコしていた。

 とはいえ斎の心配も理解できないではないので、助け舟を出すことにした。


「ハヤト殿。イオリ殿には初日に注意したのだけれど、君もひとつ、絶対に忘れないで欲しいことがあるんだ」

「何でしょう?」

「MP量が可視化できているなら話は早いんだ。そのMP、絶対に一割以下にしてはならないよ。この世界ではMPも生きるためのエネルギーだからね、それ以下になると生命が危うくなる」

「げ、MPも切らせねえタイプのやつかよ…気を付けます……ていうか伊織、MP4000使ったって…」

「言っとくけど、あんたの四倍以上あるから心配は無用だよ。何ならステータス見ればいい。【オープン】」

「マジかよ、……マジだわお前バグだわ」


 伊織に言われてすぐに彼女のステータスを見せられた隼人だが、どちらかといえば引いている反応であった。そういうお前こそバグじみてる、と言い返そうにも隼人は全体のバランスが一見して取れているので口を噤むしかなかった。

 二人ともにスルーされてすごすごと席に戻った斎が、仕切り直すように口を開く。


「そんで、レベリングにしたって目安はどんなもんなんだ?一ヵ月丸ごと上げ続けるってわけじゃねえんだろ?」

「明日の様子を見ながらになりますが、理想は70あたりですね。たしかお爺様のレベルの上がり方は異常だったと伺ってますし、50はいけるかと思うのですが」

「ああうん異常…そういや俺、異常ってやつだったわ…」


 過去に同じことを言われたのだろうか、斎が顔を覆ってあからさまに落ち込む。

 ニュアンスからすると「上がりが早すぎた」と取れるのだが、そうまで落ち込む要素があっただろうか、と伊織と隼人は思う。しかし多感な時期の経験は何が刺さるかわからない。それを聞いた時の気分が落ち込んでいたりしたのだろう、と特に深く聞くつもりはなかった。


「レベル50ともなれば冒険者としてはトップクラスと言っても差し支えはないので、王都へ向かったとしても面倒は減ると思います」

「逆じゃないんすか?強い異世界人ならウチにこいよーって感じの…」

「いいえ、レベルが低い方が辺境においては厄介です。ここは地脈からの影響が出やすいので、必然的に魔物が強い土地です。そうなると保護という名の囲い込みが考えられますし、実害としてそちらの方が断りにくい」


 隼人の疑問はばっさり切り捨てられる。

 少なくとも王都に近ければ近いほど、魔力による結界があるから魔物の脅威からは守られる。逆に辺境であればその結界が張られている範囲が限られるために危険は増す。

 一般人にしてみれば、安全な生活を営むならば人口の多い都市を選ぶものだが、冒険者は違う。

 魔物からは様々な素材が手に入るし、瘴気を帯びた魔力が存在するところにしか自生しない植物なども存在する。リスクを冒すほどに金が稼げる、ある種分かりやすい職業というのが冒険者だ。

 逆に言うと、弱くリスクを冒さない冒険者は常に金に困っている。たまに運よく一山当てるタイプもいるが、そんなものは一握り中の一握りで、夢を見るにも現実的ではない。


 その現状はこの国、いやこの世界に住まう者なら誰もが知っているものだ。もちろん、貴族も。


 直接的には把握していないだろうが、冒険者にツテのあるような従者に「弱い冒険者は困窮するはずだ」などと進言されたらどうだろう。親切心を装い手を伸ばすのが道理ではないか。あるいは本心からの親切心で手を差し伸べるかもしれない。そして辺境のヴェラー辺境伯がそれを断るには、周囲に強い護衛が存在しているという事実が理由として必要になる。

 それでは冒険者にしない、ならないと言ってしまえばいいのではないか。しかし危険な土地が隣り合わせなのは現実である。過保護な主張をゴリ押ししてしまえば、異世界人をどうしても失いたくない側ならばその主張が受け入れられてしまうかもしれない。

 ヴェラー家は辺境にあるため、アレクシスはいまの王家を量りかねている。そのためどうしても慎重に動かざるを得ないのだ。

 斎は王家の一族に信用を置いているようだが、それも60年も前の話だ。現在では思想が変わってしまったかもしれないし、仮に変わっていなかったとしても実権をほぼ譲り渡した先王一人だけでは手の届かないこともあるだろう。

 そうなる可能性を潰すためにも、切る切らないに関わらず、持てるカードは可能な限り手にするべきである。


「いいんじゃねえの?都合の悪い連中は額面だけで討伐の経験がねえって難癖はつけてくるだろうが、現実に数値として現れるレベルである程度は黙らせられるだろ。それに、難癖つけてくる方が逆にありがてえ」

「それって(ふるい)にかけるってことか?」

「かけるっつうか、勝手にかかってくれるんだがな。とりあえず程度の低いやつは排除できる」


 斎は賛成らしいし、そうなると伊織もだが隼人にも異存はない。

 いまいち貴族の想像がついていない二人なので、この辺りで口出しすることは止めようと思っていた。


「ま、色々と王都に行ってみねえと分かんねえけどな。アレクシスも慎重に考えてるみたいだし、俺は俺でいざとなりゃどこでも生きれるし何とかなるだろ。それはそれとして、午後からは魔術練習するぞ」


 目の前の昼食を平らげたところで斎が軽く言う。

 どこでも生きれるの内容が知りたいところだが、実体験からだとすればこの世界でのことだろう。サバイバル経験があるとは伊織も聞いたことがないので、亡命とかその方向だと思いたい。





 昼食会にも近い昼食を終えると、それぞれ動きやすい服装に着替えて、伊織が昨日行った鍛練場へと案内される。アレクシスは昼から執務をするとのことで、クリフォードが一人で訓練を見ることになっている。

 通常の鍛練場の更に奥になるため、ここまで来られるのは基本的にヴェラー家の許可があるものだけだ。とはいえ、いまは特に許可を出している人はいないらしいので、現在は専らアレクシスだけが出入りをしている状態なのだ。

 さすがに許可を出す基準が「中級以上の魔術を習得しており、かつ余力のある者」というのは、騎士たちにとっては厳しいものがあると伊織は思う。なにせ実質のところは「上級魔術を習得している者」と言っているに等しい。同じ話を横で聞いていた隼人も同じような感想だったようで、微妙な表情をしていた。

 こうなると実はクリフォードも許可事案に当てはまっていないのだが、彼の場合は斎と同じで、魔術を魔術として放たず、武術の一部として使用している。その威力がやはり斎譲りで段違いに高いので、周囲への被害を出さない為にも出入りを特別に許されている。

 そんな話が途切れたところで、隼人が声を潜めて話しかけてきた。


「なあ、どう思う?色々あいつが考えて動いてんのは分かるが、どうも何かある気がする」

「だろうね。まあ、兄ちゃんもだけど、アレクシス殿も何か含んでんじゃねえかとは思うよ」

「うん?どういうことだ?」

「強けりゃ囲われない?そんな馬鹿な話あるわけねえだろ。一応、表向きはそれで通せるんだろうけど……知ってるか?最初の目標レベルって軍人の中でも精鋭なんだと。絶対おかしいでしょ。

 それに…兄ちゃんはあれ、最悪は一人で囮になるつもりだな。どこでも生きられるって、そういうことでしょ」

「俺たちのスキルがあれば生きていけるって話じゃねえのか!?」

「たぶん違うね。あいつ、言葉の端々までは嘘がつけねえから」


 基本は直感で生きてるような人間だから、と伊織は斎を評する。

 40年近く生きているから多少はそういう頭の使い方も覚えているのではないかとも思うが、斎に関してはそういうことはない。

 駆け引きが必要なシーンなど彼の日常にはない。よって、必然的にそういった嘘のスキルは磨かれることはないわけだ。

 先ほどの会話で、「俺たち」と複数形にしなかったという些細な点に引っかかった。ただそれだけのことだが、根が正直な斎ならばその部分をわざわざ雑な言い方にはしないだろう。伊織には確信があった。


「ま、たぶんアレクシス殿も感付いたと思うから大丈夫だと思うけど」

「……」

「どしたの?」

「いや…随分とアレクシスさんを信頼してんなって」

「そりゃそうでしょ、貴族当主だけあって頭のいい人だしね。言葉遊びなんかは得意とするところだろ。というより血縁らしいし、しばらく厄介になるなら当然だと思うけど。ほれ着くぞ」

「そういうことじゃ…ああクソ、お前ってそうだったよ」


 伊織に到着を告げられ、隼人は後半を濁しながら呟いて、ガリガリと後ろ頭を掻く。

 要はわかりやすく子供のような嫉妬をしていただけなのだが、肝心の伊織には何一つ伝わらない。今の機微が伝わるぐらいならば、学生時代ですでにこんな腐れ縁のような関係は終わっているはずなのだ。

 10年ぐらいぶりの会話でそのことを思い出した隼人は、静かに溜息を吐いて頭を切り替えることにした。





 ****** *****


 クリフォードと一緒に先を歩いていた斎は、背後の二人の会話を途中から聞いていた。

 たしかに小声ではあったたし、実際クリフォードには内容は伝わってないだろう。しかし斎は魔力による身体強化を得意とする。それには感覚強化も含まれるため、いまは聴覚を鋭敏にして盗み聞いたのだ。


「(伝わらねえなあマジで。隼人も隼人だが、伊織も伊織で…アレわざとなんじゃなかろうな)」


 もはや女嫌いとも言ってもいいほどに女性が苦手な斎だが、漫画やドラマなどの創作物までは否定はしていない。なのでその程度の機微ぐらいは察せられる。

 隼人の態度は、そんな斎から見てもあからさまが過ぎる。

 同じく漫画やゲームでその手の話を見ているはずの自分の妹は、いったいどんな情緒に育ってしまったのか。10年前から思っていた難題だが、改めて原因を突き止めるか、分からなければ進展させるかを考えるべきだろう。


「…あいつも難儀で不憫よな」

「お爺様?」

「いや、何でもねえ。それより――」


 こっちに来てしまったのは事故だったが、こうして三人で揃うのも随分と久しぶりだ。

 そして()()()()()()()()()()ならば、これから長い付き合いにもなることだろうと斎は思案する。

 ガキの恋愛ごっこじゃあるまいし、学生時代の繰り返しはやめてくれよと二人に願うしかなかった。



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