4 - 25.『Promotion War - XVI』
4-25.『昇格戦 16』
本日三回目の投稿です。
※環境依存文字(Ⅲ、Ⅶや①、⑤など)を通常文字に変更しました。
「ヨルクス達はJ-5の生徒を見つけたかな。」
合図をする方法はない。しかし恐らく僕の行動を向こうは理解しているはずだ。J-1の生徒をJ-5の生徒が簡単に倒せるとは思わないだろう。
「路地裏も長いんだよね……。」
路地から更に入り込んでいる路地裏も迷路のように長い。〈スウェス帝国〉というランゲルス王国の北東部にある比較的国土が小さい国の有名な都市を模したフィールドだけに、僕も全くこの地理に詳しくない。一度、行ってみればわかるのかもしれないが、スウェス帝国は現在、北部のリフス盟国と緊張状態にあるために外部からの入国を禁止しているようなのだ。それに学院も長期休暇まであと1か月あるからそれも含めて行くことはできない。
「帝国には〈墓場の世界〉の〈迷い人〉みたいな転移者が居るって言うからね。その転移者はかなり帝国でも有名人らしいし、その人の元居た世界の建物なのかもしれないなぁ。」
とそんな事を呟きながら時間を潰す。実際問題、僕達は何もしなくてももう価値が確定しているようなものなのだ。人数が2人減らない限り、人数の事情で1位になっている。ヨルクス達が運悪くJ-1と遭遇したとしても、J-1には1人魔法を禁止された人が居るのだ。スナートが頑張ってくれれば、勝つことも難しくないだろう。
「おっと、路地裏で正解だったのかもね。」
一本道の路地裏で奥に人が居るのが見えた。あれはJ-5だろう。と考えれば僕はこのまま引き返せばよいのだ。そしてJ-1を探す。J-5が僕と反対側に進めばヨルクス達と遭遇するだろうし、僕と同じ側に進んでくれば、J-1と合流することになる。
「さて今度はJ-1探しか。」
「俺達を探しているのか?」
振り返るといつの間にか背後に生徒が立っていた。首元には短杖が突き付けられている。魔道具だ。オーブと同じ、魔法の効果を増幅させられる効果を持っている。素直に両手を上げる。
「クラスメイトを倒したのはお前か?」
「いや、違う」
「……そうか。焦っているようには見えないから嘘も慣れているだろう。信用できないな。このまま短杖は下ろさないでおこう。1人で行動していることからも魔法を禁止されているわけではなさそうだ。」
確かにJ-1のあの生徒は1人で魔法を使えていたが、そこで勘違いを起こしたのだろう。僕は決して魔王を使って、あの生徒を倒したわけじゃない。ただ挑発に乗せられて怒りで視界が狭まっていただけなのだ。一切、魔法は使用していない。しかし、それをこの生徒達は知らないのだ。だからこそ今ここで僕が生き残る可能性が少し高まった。
「あそこにまだ何人か生徒が居るな。あれがお前たちのクラスか。人数は2人か。お前たちはJ-10か。」
それには素直に頷く。全体連絡で人数は把握できるため、偽るメリットがない。しかし、向こう側に居るのはJ-10ではなく、J-5だ。嘘と真実を織り交ぜて信憑性を高めていく。
「じゃああと1人はどこだ?」
「……魔法が使えるから僕と同じように別行動だ。」
暗に僕も魔法が使えるという嘘を伝えておく。勘違いを勘違いのままに浸透させていく。しかし僕には1つだけ気掛かりがあった。
「そう言えばいつから後ろに居たんだ? 全く気配に気付かなかった。」
「俺はお前を見つけてすぐに短杖を突き付けた。だから気付かなかったんじゃないのか?」
「いや流石J-1だ。多分、もう少し前から居ても気配には気付くことはできなかったと思う。」
適当に褒めながら情報を得ていく。どうやら僕の独り言は全く聞いていないようだ。という事は純粋に僕とあのJ-5の生徒について分かっていない。気掛かりな所を解決できて良かった。
かなりJ-5とJ-1と僕との間が狭まる。こちらを見れば普通に人が来ているのは分かるだろう。恐らく向こう側からこちらに来ては居ないが、こちらが来ているのは気付いているのだろう。
「お前たちはどのクラスだ!」
「……J-10じゃないのか?」
「いや普通に君達に言ってるんだと思うけど。」
「そうか……。J-1だ!」
なぜ素直に答えるのか分からないが、そこがJクラスたる所以なのかもしれない。まだ魔道士の卵として甘い所がある。その甘さを捨てていかなければ魔道士として独り立ちすることはできない。
「くそっ、最悪な奴らに遭遇した! 逃げるぞ!」
「追いかけろ!」
僕に短杖を突き付けた生徒は声を上げる。頷いてJ-1のもう1人の生徒はJ-5の生徒を追いかけ始めた。
「その短杖で僕を攻撃してみてよ。」
「……なぜ?」
「追いかけなければ良かったのにね。僕はJ-1を1人倒している。魔法が使える人だった。そして今、魔法が両方使えるJ-5を追いかけさせた。まさか魔法が使えないはずがないじゃないか。残った君はただ短杖を持つだけの人じゃないか。」
「……っ!」
その場から強引に離れる。離れるようにして立った。やはりJ-1の生徒と言えど、まだ本当に詰めが甘い。
「なぜか騙されたようだけど、今の論理は滅茶苦茶だ。」
「……?」
唐突に話し始めた僕を不思議そうに見る。なぜ攻撃しないのかと思っているのだろう。
「別に追うだけなら魔法が使えなくても良い。」
「あ……」
「それに聞いたのか? 僕は今、魔法が両方使えるJ-5と言ったんだ。失言だったよ。君は気付かなかったけど。」
「嘘……だったのか。」
「誰がいつ君に本当のことを話したって言った? 君達は詰めが甘すぎるよ。因みに僕は魔法が使えない。じゃあね。」
J-5を追いかけたJ-1を追い掛ける。これだけ動揺させておけばこの生徒は追い掛けてこないだろう。それに魔法が使えない生徒が1人増えたところで試合に影響は少ない。あの短杖で魔法以外の何かができるのであれば、だが。
僕は無意識に右手で左手に触れていた。
次回更新予定 - 6/10(水曜日)00:00
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7/1より新作連載開始。




