4 - 21.『Promotion War - XII』
4-21.『昇格戦 12』
本日二回目の投稿です。
あくまでA-1の生徒と距離をとるように後退る。無闇な戦闘行為は避けたいところだ。まだどこまでの実力者か分かっていない時点での攻撃は早計でしかない。それが負けの直接の原因となれば悔やんでも悔やみきれない。
「フィールドに10人の生徒が分かれているという事か?」
まずは気を逸らすべくこちらから質問を投げかけた。向こうが流れを作る前にこちらが流れを作るのが目的だ。ここは相手に流されてしまうと大きな損害を被る可能性もある。
「そうだよ。〈J-1〉の生徒が本気を出したって無駄だから。僕達は栄転戦を控えているんだ。面倒な戦いは避けているんだよ。」
「その結果が〈J-2〉の全滅か?」
「それは僕ではないから分からないけど、僕達のクラスの誰かは戦闘狂だったりするのかもしれないね。」
つまりこの生徒はなるべく戦闘を避けたいという事だ。本当の実力者ならここでどれだけ暴れまわっても栄転戦でも変わらずに戦えるだろう。さらに言えば現にJ-10はこれまで長い戦いを続けながら勝ち抜いている。
「これまでと一緒でいこう。」
「……? 君は何を言っているんだい?」
向こうの生徒が理解する前に僕達は戦闘態勢を整えた。各自の防御魔法と僕の【魔法障壁】を最初に発動。それから相手の逃げ場をなくす。
「【物理障壁】」
即興の〈改変〉でリルゲア先生のように【物理障壁】を円柱のような形にして上を塞ぐ。
「……! ……!!」
魔法以外の全ての通行を封じる【物理障壁】では声も届かない。何か叫んでいる合間に僕は魔法を唱える。
「一応後方へ下がっておいて! 【爆散】!」
地面に穴をあける。勿論逃げ場のない生徒は下に落ち、場外となった。今でこそこの手は通用しているが挟み撃ちされた時は両方同時に【物理障壁】の改変をしなければならないために難易度が上がってしまう。その間にやられかねない。
『〈J-1〉より1名が敗北しました。〈J-1〉は残り9名です。』
『〈J-3〉より3名、〈J-5〉より5名、〈J-6〉より10名が敗北しました。〈J-3〉は残り5名、〈J-5〉は残り5名、〈J-6〉は敗北です。試合後〈J-6〉は〈J-9〉へとクラス変更されます。』
『〈J-9〉より2名が敗北しました。〈J-9〉は残り2名です。』
『〈J-1〉より1名、〈J-4〉より9名が敗北しました。〈J-1〉は残り8名、〈J-4〉は残り1名です。』
『〈J-10〉より1名が敗北しました。〈J-1〉は残り6名です。』
立て続けに全体連絡が入る。その中にはJ-1の脱落やJ-10の脱落者が含まれている。
「……! 急ごう!」
J-1の生徒のせいで足止めされてしまったが、ヨルクスチームの残っている誰かを探さなくてはならない。僕達は走りながら周囲を念入りに探る。誰が残っているかは分からないが、恐らく上空に合図を送ることはしないだろう。1人で勝てるかは分からない。1人でも多く残っている限り、最終的に勝つ可能性は格段に上がる。賢い選択である。
「もしかしたら人目のつきにくい場所に隠れているかもしれない。みんなも周りを見ながら走って!」
「ロムス、あそこに人がいるよ~?」
リーラが指さす先を見る。十字路の右手だった。確かに誰かが見える。かなり距離はある。
「みんなは周囲に警戒しつつ付いてきて。僕は先に向かう。」
ポケットから札を取り出す。【転移の陣】だ。視覚的に認識できる距離なら正確に転移できる。ちょうど小さく見える生徒の後方10メトルほどの位置に転移した。
「……! ヨルクス!」
「ロムス!」
そこに居たのはヨルクスだった。つまりシーナ以下ヨルクスチームは全員負けたという事だ。
「すぐに逃げて!」
「え……?」
「これは策略だ!僕達は嵌められたんだ!上位クラスが敵対視していたのは僕達だった!」
「っ……!?」
遠くで誰かの悲鳴が聞こえる。状況を瞬時に察する。
「ヨルクスはここで待ってて!【魔法障壁】【物理障壁】!」
ヨルクスが『ありがとう』と口を動かしているのは分かった。僕は札をもう一度取り出す。【転移の陣】だ。すぐに皆の位置へ戻る。
「囲まれてる……」
「ロムス、ごめん!」
スナートが謝る。リーラと愉快な1人が居ない。残っているのは2人だ。集中砲火を浴びたのか。周囲には20人以上の生徒が居る。
「大層な歓迎だね。どこのクラスの協力なんだ?」
1人の生徒が前に出る。周囲を警戒しつつ僕は話を聞く。
「これは〈J-1〉以下〈J-3〉、〈J-4〉、〈J-5〉、〈J-7〉、〈J-8〉、〈J-9〉で組まれた有志の協力部隊さ。狙いは分かるだろう? お前だよ、ロムス。」
「僕……? 上位クラスが何を焦っているんですか?」
「こいつ……! 残ってる2人から痛めつけろ!」
「うざい。【魔法障壁】【物理障壁】」
同時魔法発動数が4になっている。この生徒達は僕の限界を知らないから、もう無理だと思っているかもしれないな。これは掃討する絶好の機会だろう。もう昇格戦もこれで終わりだ。全力を出したところで後に支障は来さないだろう。
僕は【魔法障壁】を発動する前に2人に投げた札を踏むようなジェスチャーをする。スナートは頷いた。2人でどうにか踏むとヨルクスの元へ転移しただろう。
「消えた!?」
「大したことない魔法だけど。そんな事に現を抜かす前に目の前の事に集中したらどう? 僕は今無性に腹が立っているんだけど。【物理障壁】」
誰も逃げられないように、そして誰も入れないように集まった生徒全員を囲うように改変する。落とすだけでは詰まらない。痛みをそのまま返してやる。
次回更新予定 - 6/8(月)17:00
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7/1より新作連載開始。




