4 - 17.『Promotion War - IX』
4-17.『昇格戦 9』
本日二回目の投稿です。
不意にオーブが光るのが見えた。僕とヨルクスは飛び上がる。ただの跳躍だ。魔法は発動していない。今まで立っていた尖塔の先が消し飛ぶ。
「強い魔法だ。中々の使い手だぞ。」
「そうみたいだね。何者なのかな。〈J-10〉にこんな生徒が居るなんて。」
「まあ、それは僕達が言える台詞では無いけど。」
「それもそうだ」
ヨルクスは笑う。僕達は先程より短くなった尖塔へそれぞれ立つ。オーブが再び光る。同じ事の繰り返しだ。これではキリがない。どうにかこちらが優勢になるように動かなければならない。
「【強風】!」
J-10の生徒2人に強風を当てる。リーダー格の生徒は必死に風に耐えているが、オーブの生徒は気にしていない。
「ロムス!【魔法障壁】を張ってる!」
「この状況でそれは面倒だ……でもその案は良いかもしれない。【魔法障壁】」
僕は自分が立っている尖塔とヨルクスの尖塔に【魔法障壁】を発動させる。これで石の塔の破壊を完全に封じた。余りにも下に攻撃をされれば元も子もないが、先程からの攻撃を見ればそれは出来ないのだろう。
「【槍乱舞】」
「ロムス!」
「【魔法障壁】!……ヨルクス、ありがとう!」
視界外からの攻撃だったが、ヨルクスのお陰でどうにか凌ぐことが出来た。これは槍だ……。つまりリーダー格の生徒が使うのは槍。しかも長槍だ。全長は3メトルといったところか。かなりの筋力が無いと持てないはずだが、それを魔法で補助しているという事だろう。
「〈魔槍術〉は初めて見たな……。どう対策して良いものか。あの長さなら動かないでも届くからね。」
「しかも魔力の槍なら破壊も不可能だね。」
「こちらの状況は全く良くなりそうにないなぁ。」
「どうするつもり?」
「……まず1人落とす。話はそれからだね。」
「でもどうやって……?」
「こう……する! 【爆砕】!」
これは【破砕】とは異なる系統の魔法だ。赤魔法である。石の塔への攻撃はオーブで防がれていたが、内部は守られていないだろう。それは予想通りであった。石の塔自体が爆散すると、オーブの生徒は行き場をなくし、落下した。
「ナイス!」
「これで2対1だ。勝負あったな。」
「そうかもしれないな。だけど俺は諦めない!」
何だ、この悪役と主人公の構図。どちらかと言うと挑戦者はこっちだから、主人公はこっちのはずなんだが。隙を見せていると、そこへ長槍の横薙ぎが来る。
「【跳躍】、【爆砕】」
オーブの生徒と同じように石の塔を爆散させる。長槍の生徒は落ちるが、その途中でもう1つ長槍を出現させると、それを残った尖塔に刺した。そしてその上に立つ。
「わお。素直に賞賛したいね。」
「どんな平衡感覚の持ち主なんだ? 普通、槍の上に立てないだろうに。」
「小さい頃から〈魔槍術〉を鍛えてきたからな。これなら誰にも負けないと自負している。」
「じゃあ残念だけど、それは今日で終わりだね。【波嵐】。」
僕は水属性に転じた剣を数回振る。【波嵐】は魔法連撃ではなく、数回攻撃を可能とする魔剣術だ。更に攻撃の1回1回が押し寄せる波のようでまともに受けては押し飛ばされてしまう。
同じ所を数回打った足を支える槍は折れる。
「まだ……だっ!」
長槍を横に投げる。そして石の塔の残りに刺さると同時に槍の柄に立つ。本当に馬鹿げた平衡感覚を持っている。人間離れしている。
「まだ続けるのか?」
「勝てる機会が見えるまでね。」
「その前に魔力が枯渇すると思うが。」
「そうかもしれない。でも僕達はJクラスでも上位クラスであることに誇りを持っている。そう簡単に負けられないんだ。」
「……本当にすまない。【雷鳴】。」
雷属性に剣を転じると【跳躍】で長槍の生徒の元へ。長槍の中央へ斬撃を無数に行う。徐々に長槍へ傷が入る。慌てて止めようとするが、そこへヨルクスが【跳躍】で接近する。気付いた時には押されていた。
「あっ……」
僕は斬撃を止め、ヨルクスは長槍を足場にして、原型が比較的残っている石の塔の上に立った。勝利だ。
「試合終了!残っている生徒を外へ転移する!」
「意外と苦戦したね。」
「あんまり本気を出しすぎるのも後の戦いに堪えるからこれぐらいが丁度良かったよ。」
「もっと頑張らないと。」
「そうだね。今まで以上に一戦一戦をしっかりと戦い抜かないと。」
僕達は修練室へ転移した。そこには敗北したJ-10の生徒と僕達のクラスメイトが揃っている。J-10の生徒は泣いていた。その場面を目にして、僕達に掛けられる声は無いが、審判は無情でも結果を告げる。
「昇格戦〈J-10〉対〈J-11〉は〈J-11〉の勝利だ。只今よりクラスは変更となる。新しい〈J-10〉は次の昇格戦に備えるように。」
審判と副審は修練室を去る。続いて泣きながらJ-10の生徒達が修練室を出ていった。後に僕達のクラスが残される。
「これまで以上に一戦ごとの重みを君達は感じるだろう。しかし、それに負けてはいけない。同情してもいけない。それが魔道学院であり、それが魔道士の宿命なんだ。強くどんな困難をも越えられるように。」
リルゲア先生の一言は重く深く心に刺さるのが分かった。全てが平和に解決される世の中では無いのだ。誰かが得をすれば、誰かが損をする。喜びのあまり人はそれを忘れるが、損をした人は決して悲しみを忘れることは無い。
「……クラスへ戻ろうか。君達も疲れただろう。」
僕達には試合とは別の敵が近付いているような、そんな微かな不安が僕の脳裏を掠めた。
次回更新 - 6月6日(土)17:00予定
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