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4 - 14.『Non-Paticipation』

4-14.『不参加』


本日二回目の投稿です。

 学院長がどこかへ転移すると言った時点で予想外ではあったが、まさか王自らが来るとは思わなかった。ランゲルス王国の唯一の王にして、空間魔法を駆使する大魔道士。


「ふむ……この子が。」

「私はこの辺りで。」

「そうか。いつも迷惑を掛けてすまぬな。」

「いえ、未来の魔道士の為ですので。」


 学院長は元来た転移の石室から帰っていった。僕は王と2人、部屋に取り残される。普通なら王の周囲に騎士が覆って、万が一でも王に危害が加わる事を防ごうとする。しかし、よく考えるとそれは過ちだと気付いた。恐らく王を守る騎士よりも王の方が強いのだ。いかなる魔法も空間魔法で空間を捻じ曲げられ、届くことは出来ない。


 ここまで考えて1つの事実に気付いた。王の前で立っているのは不敬では無いのか。慌ててその場で態度を改める。


「よいよい。どうやら昇格戦の時に呼び出してしまったらしいからの。」

「聞かれておられたのですか?」

「私の空間魔法で少しだがね。盗み聞きした事については素直に謝ろう。申し訳なかった。」

「いえ、陛下自らが謝る必要はございません。……不躾ながら1つ希望を申し上げるのは可能でしょうか。」

「何だ?」

「昇格戦に出来る限り早く戻りたいのです。」

「……ふむ、王を前にして長く話したいではなく、早く帰りたいか。そんな希望を出された事は人生で初めてかもしれぬな。」

「早く帰るために陛下の命を中途半端に果たすような事は致しませんので……。」

「その誠意は嘘では無かろう。私も配慮するとしよう。」

「ありがとうございます!」


 僕は深礼をする。こんな無礼、本当であれば不敬罪だったのかもしれない。だが、僕が示した本気が伝わって、このように取り計らってくれたとすれば、この上なく嬉しい。


「それでは私が呼んだ理由であるが、その前にその体勢はきつかろう。こちらの椅子へ座れ。」


 顔を上げると、王が示したのは自らが座る椅子の対面にある椅子。王とそんな対等な条件で話して良いのか、僕は一瞬動きを止める。


「別に其方(そなた)が私と目線を同じくした所で罰するような事はしない。この調子では話が進まぬぞ?」

「申し訳ございません。失礼ながらそちらへ参ります。」


 なるべく急いで僕は立ち上がり、椅子へ座った。王は頷く。どうやらこれが正解だったらしい。ここで僕の身分が、などと意固地にしていれば、どうなったのか。考えるだけでも恐ろしいものがある。


「さて、其方を呼んだのは学院長からの話を聞いたからだ。」

「学院長からの……。」

「ああ、大変興味深い内容であった。あくまでも証拠が無く、自論もあるだろうが、それを含めても一魔道研究者として尊敬に値するものだった。」

「そこまでのものではありません。あくまでも私が体験した事実から、少しばかり考察を入れただけですので。」

(へりくだ)る必要は無い。私が〈魔道研〉の会長を務めていれば、すぐにでも其方を研究員へと勧誘しただろうからな。」

「ありがとうございます。」


 嬉しい話ではあるが、父さんが会長の〈魔道研〉に所属するつもりは無い。あくまでも研究ギルドが精一杯だ。縛られた人生を送るのは真っ平御免。


「その中でも興味を持った事項は〈剣客〉と称する者の使用した〈能力(フキル)〉という力だ。其方はその存在を知っていたようだが、どこで知ったのだ? 更に王家に代々伝わる力も知っておったようだが。」

「それについては幾つか前置きをさせて頂きます。」

「良かろう。」

「まず〈能力(スキル)〉という存在、その名称、特徴などを知ったのは、王都にある図書館の蔵書からです。ここで〈魔法とは非なる力〉として提示されておりました。」

「ほう……王都の図書館、と。」

「紛れもなく。もう1つ、王家に伝わる力を知ったのは、あちら側の世界に迷い込んだ1人であるエレーナ・セルヴィアーダが話した内容です。」

「その名前は其方と同じ……」

「はい、私の先祖にあたる人物です。その者から話を聞くと、どうやらその者の父親が犯罪者として当時の王によって裁かれたようなのです。」

「それが王家に伝わる力、だったと。」

「その通りです。」


 あくまでもセルヴィアーダ家の〈龍の紋章〉の話はしない。王家と同等程度の力があるなどと言っていいはずがない。本当に僕はここで生涯を閉じる事になってしまう。


「少し待つのだ。」

「……? 分かりました。」


 王が何かを呟いている。それが何かは分からないが、魔法の詠唱のようにも聞こえた。数分間それを続けていたが、何か解決したらしい、唱えるのを辞めた。


「その話は真実であるようだ。セルヴィアーダ家の者が当時の王によって裁かれた記録がある。」

「信じて頂き光栄です。」

「其方が王家に伝わる力を話したのは学院長だけであるか?」

「はい。学院長以外には一切他言しておりません。」

「ふむ……それは今後とも頼む。市井にそれを知られる訳にはいかぬからな。」

「分かっています。」

「良かろう。有意義な時間であった。何か用があれば、学院長に話せば良きように取り計らってくれるかもしれぬ。何なりと申し付けてみよ。」

「ありがとうございます。こちらこそ有意義な時間でした。」

「うむ。」


 僕は立ち上がり礼をした。正式な順は踏んでいないが、椅子に座った体勢から始まる礼の順など用意されていない。従って、間違ってはいないと言う訳だ。屁理屈ではあるが、僕は礼をすると石室へ入った。


「終わったようだな。」

「学院長、どうして?」

「陛下に呼ばれたのでな。それよりも早くしなくて良いのか?」

「そうでした。お願いします。」


 僕達は宮殿とは別れを告げ、学院長室へ戻ってきた。


「別に私と話す必要は無い。急いで行きたまえ。」

「ありがとうございます!」


 学院長室を後にする。静かな回廊を走りながら僕は修練室へと急ぐ。時間はあまり掛からなかった。修練室に入ると、J-18とJ-17の生徒が集まっていた。入ってきた僕の存在に気付く。


「ロムス!」

「ヨルクス、試合は終わったの?」

「ああ……僕らの勝ちだ!」

次回更新 - 6月5日(金)17:00予定


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7月1日より新作を連載開始します。

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