4 - 13.『Promotion War - VI』
4-13.『昇格戦 6』
翌日、いつも通りに魔道学院へ行く.今日からはJ-18。毎日毎日クラスが変わるのも不思議な気分である。救いがあるとすれば、クラスの内装が全く変わらないため、中に入ってしまうと違和感はない。
「なんでそんなに同じ席座ろうとするの……席自由なのに。」
クラスに入ると同時に笑ってしまう。クラスが変わるのは2回目だが、やはり席の配置が変わっていないのだ。入るクラスを間違えたのかと勘違いしてしまう。仕方なくそのノリに逆らわずにヨルクスの隣に座ってみる。リーラやスナート辺りから笑われる。人を笑えない気がするけど……。
「さて、今日もロムス君が最後かな。じゃあ〈J-17〉との昇格戦の話をしよう。また違う対戦形式で、フラッグ争奪戦だ。ルールは簡単。敵チームの本陣にあるフラッグを奪って、自陣に持って帰れば勝利だ。」
「人数は?」
「クラス全員だよ。というよりも今回は参加自由だ。参加しないのもありだし、参加しないのもありだ。途中参加も可能だよ。」
「作戦は色々と立てられそうですね。途中参加を駆使しつつ、予想外のタイミングで争奪するのが良いかも。」
「先生、途中不参加はありですか?」
「それは棄権になる。なお、審判によって戦闘不能と判断されても棄権だよ。その時点で〈箱〉の外に弾き出される。」
「流石にそれは駄目だよね。」
「それがありだと、もう負けなくなるからね。」
何人かを伏兵として相手側の陣地に寄るようにしながら、もう何人かがフラッグを守る。そして残った人は観覧席外から機会を伺うのが良い。1人は残して、観覧席から誰が投入されたか、棄権したかの指示が欲しい。
「観覧席と出場選手は連絡が取れますか?」
「取れるよ。魔法で同じクラス内は会話をすることが可能だ。」
「じゃあ絶対に出場しない人をまず1人決めよう。その人に観覧席の出入りを見ててもらいたい。」
「途中参加と棄権を確かめるって事だね……。僕がやろうかな。」
「他の人はどうする?」
皆に確かめるが、首を振るものは居ない。
「あと必要なのは観覧席からの途中参加組だね。全員で10人だから2人欲しいかな。それから敵の陽動組が3人。更にフラッグの守衛組が3人。そしてフラッグ強奪組が1人で計10人だね。」
何人かずつで話して、したい役目や誰がどの役目に合うかなどを話し合った。数分してもう一度集まる。
「それぞれどうなった?」
「私とシーナは~ それぞれ陽動と守衛に回るよ~」
「うん、わかった。合ってるね。お願いするね。」
「俺達は陽動と途中参加だ!」
「スナートは陽動じゃなくて守衛に回ってほしいかな。君は途中参加で良いよ。」
名前を知らない愉快な5人組の1人は途中参加で大丈夫。あと4人は陽動が2人と守衛が2人に分かれてもらった。なお、まだ名前は憶えていない。顔もはっきりとしていない。やっぱり愉快な5人組で十分だよね。
「ロムスはいつも通りフラッグ強奪かな?」
「ロムス君、それは無理だ。」
「……? リルゲア先生?」
「君はまた呼ばれているから、君は今回の昇格戦には参加できない。」
「なぜ昇格戦と同時なんですか!」
「それは私に言われてもどうしようもないからね。」
「魔道学院長ですか?」
「うん、そうだけど……。」
僕はヨルクスの方を見る。ヨルクスも若干焦っているのが分かった。
「相手はそんなに強くないはずだ。だけど少し警戒しているかもしれない。外部指示は無しで、ヨルクスに全指示とフラッグ争奪を任せる。」
「えっ、僕が!?」
「いやヨルクスの実力はJクラスのレベルじゃないとみんなが分かっている。というか本当は昨日と一昨日の戦いでも僕が出なくてもヨルクスは同じことが出来たんだ。」
「僕はそこまで自惚れてないよ。」
「それは自惚れていないんじゃなくて、過剰な自虐でしかないよ。これからは僕1人じゃなくて本当に協力しないといけない。その時は指示役が1人だと足りないこともある。前哨戦と思って、のびのびと戦うだけで勝てると分かっている。他のみんなも協力してくれるよ。」
ヨルクスはクラスメイトの顔を見ていく。誰も暗い表情をしている者は居ない。寧ろ「それが何か?」と言わんばかりの明るい表情である。
「僕達が負けるのはここじゃないだろ?」
「そう……だね。僕達が目指すのは〈A-1〉だ。こんな所でうじうじしている訳にはいかない。分かった。精一杯、この大任を果たしてみせるよ。」
「僕も用事を早く終わらせて、途中参加できるようにするから。」
「いやその前に終わらせて見せるさ。」
「そうじゃないと!」
ヨルクスは笑う。僕も笑った。後の作戦などはヨルクスに任せることにする。
「じゃあ昨日のところに行けば良いんですね?」
「うん、僕は昇格戦を見届けないといけないから、自分で行ってもらうけど場所は覚えてる?」
「はい、覚えていますよ。早めに終わらせたいので、もう行きますね。」
「ああ、頑張ってくれ。」
僕はJ-18の扉を開き、クラスを出た。その足で中庭に出て、玄関へ向かう。その途中で呼出し主とすれ違った。
「おっと、早めに来たのかい?」
「ええ、昇格戦が迫っていますから。」
「済まないが、今から魔道学院の外へ向かう予定だから間に合わないと思うが。」
「それでも、です。」
「……まあ、良い。こちらへ来たまえ。目的地へ向かおう。」
学院長の後について歩く。こんな機会はそうそう無いだろうが、ありがた迷惑である。僕は学院長に用事なんて無いんだ。学院長は昨日の学院長室へ入る。部屋の一面を覆う本棚の1冊を手に取る。本棚が消え去る。
「扉が3つ……。高度な魔法ですね。」
「初代魔道学院長が作ったとされる学院長しか知らない隠し扉だ。君が学院長以外でこの扉の存在を知った初の人間かもしれないな。」
「名誉ですね。嬉しいです。」
「これだけ学院長に冷たい態度をとった人間も初めてかもしれないな。」
学院長は左の扉に入る。中は大人が数人入れる小さな石室であった。球体が中央に浮いている。
「これは?」
「転移の魔道具だ。」
「空間魔法。魔道学院には秘密が多いですね。」
「私が知らない場所があるというからな。」
「それはいつか探検してみないといけないですね。」
「その成果を私に是非報告してくれ。」
「機会があれば。」
学院長が球体に手を置くと、魔力が流れ込んでいるのが分かった。光が段々と段々と強くなる。点滅する。弱くなったり強くなったりする。やがて光で視界が覆われた。光が消えるのを待つと、そこは石室の中だった。
「失敗……?」
「いやこれは転移先の石室だ。ここを出よう。」
学院長に続いて石室を出ると、豪華絢爛な部屋が出迎えていた。
「ここは……。」
「王家の宮殿だ。」
「ふむ……其方が。待っておったぞ、ロムス・セルヴィアーダ。」
慌てて振り返ると、豪華なマントを纏った美しい老人が微笑んでいた。どうやら僕は宮殿に免れたようだ。意味不明である。
次回更新 - 6月5日(金)12:00
高評価、ブックマーク登録お願いします!
執筆する際の大きな励みになっています!
7月1日より新作を連載開始します。




