4 - 12.『Principal』
4-12.『魔道学院長』
設定のミスで19:00に投稿が出来ていませんでした。
遅れて申し訳ございません。
本日三回目の投稿です。
僕はリルゲア先生の後についていきながら質問を重ねた。
「どこに行くんですか?」
「それは言うなって言われているから。」
「そうですか、リルゲア先生よりも立場が上の人だと。」
「君は食えない子供だね、本当に。」
「誉め言葉と受け取ることにします。」
「皮肉だよ。」
「この後ヨルクス達と用事があったんですけど、どれぐらい続きそうですか?」
「それは私にも分からないかな。」
「先生も大変ですね。」
「その通りさ。さてここだよ。」
リルゲア先生は立ち止まる。ここはどこだろう。僕は言ったことない場所だった。まず学院の玄関から中庭に出る以外の道を通ったことが無かったから知る機会もなかったのだろう。
「失礼します。」
「……入れ。」
渋い男の声が聞こえる。リルゲア先生が音を立てずに扉を開いた。ここは教員室か何かだろうか。僕も入る前に「失礼します」と言うのを忘れない。
「君はここに座り給え。リルゲア先生は退室して頂こう。」
言葉の一つ一つに重みがある。リルゲア先生は顔色一つ変えずに退室した。普段のリルゲア先生とは態度が違う。かなり重要な立場の人間のようだ。
「まだ座らないのかね?」
「あ、すみません。」
少し考えていたために座るのを忘れていた。男の言葉には少し怒りの感情が見えていた。指示に従わないのは嫌いという事だろうか。
「君をここに呼んだ理由は聞いていないと思うが、そうかな?」
「はい、何も聞いていないです。」
「良かろう。これはリルゲア先生にも内密な内容であるため、今からの話を他言するようなことがあれば、王命に背くと同罪と思っていたまえ。」
「まさか王が関わっていると……?」
「それは今からする話だ。」
ちょうど部屋にお茶を持った女性が入ってくる。僕と男の前にお茶を置くと、一礼をして下がっていった。
「飲んでくれて構わない。品種にはこだわっている方だ。」
「有り難く頂きます。……それよりも先程の女性は何者ですか?」
「彼女は優秀な部下だ。話を聞いても他言する事は無い。」
「そうでしょうね……彼女は人ではないようですし。」
一瞬のうちに空気が凍るのが分かった。これは逆鱗に触れてしまったか? 少し身構えるが、要らぬ心配であったようだ。すぐに空気が柔らかくなる。
「何故分かったのだ? かなり精巧な人形だとは思うが。」
「少し魔力が漏れていましたよ。どこか故障したんじゃないですか?」
「ふむ……そういう事か。後で見てみよう、有り難う。」
「いえ。」
自分の誤りを認めないような性格ではないようだ。全てに誠実な人間のようだ。こういう人の接し方はこちらも誠意を見せることだ。僕は息を一度と整えた。
「君を今回呼んだのは話を聞きたいからだ。何の話かは聞くまでもないだろう?」
「そうですね。何から話せばよいですか?」
「話は幾らか生徒会長から聞いている。私が聞きたい話は〈剣客〉と呼ばれる男の話だ。」
「剣客ですか。」
「ああ、世界を渡る術を持っているようだが、これは空間魔法の使い手ということで合っているのか?」
「そうとも違うとも言えないのが実際です。剣客はかなり多くの魔法形式を取得しています。この世界の〈詠唱式魔法〉や向こうの世界での主流の〈紋章式魔法〉、その他にも〈魔剣術〉のようなものもありました。僕が見たのはそれだけですが、他にも様々なことを隠していたのは明らかです。」
「不思議な話だ。どうやってそれらの魔法形式を身につけたというのか。」
「会って話したのは短い期間なので詳しいことは分かりません。しかし空間魔法が使えるか分からないと言ったのは、剣客が用いたのが魔法ではないからです。」
この話をして良いものかと思ったが、恐らくいつかは誰かしらに話す必要が出てくると僕は考えている。だから時期の問題なのだ。ここで〈能力〉について話してしまうのが良いだろう。〈龍の紋章〉について話す気はないけども。
「魔法ではないというのはどういうことだ?」
「この世界に限った話かは分かりませんが、魔法とは別に〈能力〉という力があるのは御存知ですか?」
「聞いたことがあるような気もするが、それは逸話や伝説の類ではなかったのか?」
「この〈能力〉は、我が国の王家も持っている力です。」
「王家が?」
「はい、魔法と似て非なる力の事を指すのです。」
「剣客はそれを持っていたと。」
「恐らく剣客は異常です。僕が分かる限りでも複数の〈能力〉を所持しています。」
「そんな事は可能なのか?」
「その力自体がどのような原理で発生しているのか、何から生まれたのかなど全くの不明であるため、複数個所持できるかどうかも全くもって見当が付きません。」
僕がここまで説明すると、男は唸ってしまう。聞いた話を整理するどころか咀嚼するのですら難しいのではないか。これはあまり公言していないため、広く知られている話でもない。理解するのが難しいのだ。
「分かった。貴重な話を聞かせてもらった。すまないな。君から何かあるか?」
「一つだけ。」
「私に答えられることなら何でも。」
「お言葉に甘えて。貴方は誰ですか?」
「……?」
「……?」
部屋に静寂に包まれる。男はこの質問を想定していなかったようだ。それから呆れた顔をする。
「私が誰か分からずにそんな重要な話をしたというのか。度胸があるな。私はこの魔道学院の学院長だ。入学式で全学院生の前で話をしたと思うが、もう忘れてしまったか?」
「すみません、そういえばそうでした。異世界での生活が長くて色々と忘れてしまっているようです。」
「ならそれを思いだせるように努力したまえ。」
「勿論です。失礼しました。」
「ああ、こちらこそ有り難う。」
僕は学院長室を出て、J-18のクラスに戻った。
次回更新 - 6月5日(金)00:00
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