4 - 8.『Promotion War - III』
4-8.『昇格戦 3』
本日二回目の投稿です。
「さて……最後のJ-19の生徒は誰かの。」
僕は1人目、2人目とほぼ一瞬のうちに試合を制すると、その勢いで残り1人になるまで試合を進めた。正直、ここで力を見せすぎたくない、力を使いたくないという気持ちが優先していた。
昇格戦というシステムは、最低クラスが上位クラスに下剋上を挑む、という形で行われているため、J-20とJ-19の対戦から始まり、勝ったクラスがその1つ上のクラスと対戦……と続いていく。勝てば勝つほど連戦になり、残りの試合に魔力や体力を残すのは当然なのだ。
「……僕です」
J-19の観覧席の後方に座っていて、見えなかった生徒が前に出てきた。眼鏡をかけて、不安という感情が顔に出ている男子生徒だ。既にJ-19の中で流れている試合に負けたという雰囲気に呑まれているのか、それとも元々自分に自信が無いのか、オドオドとしている。
「2メトル離れて向かい合うのじゃ。」
「……分かりました」
逆にきれいだと言いたくなるほどの猫背に、僕は苦笑いしてしまう。それを見たのか、男子生徒は更に萎縮してしまった。彼には僕のことがどう見えているのだろうか。試合が始まるまではJ-20の事をどう思っていたのか。
自分より下のクラスがどうやって、と思っているのであれば僕は同情なんてしない。僕はモリスさんの元で修行した3年間で色々なことに気付いたが、魔力の量や魔法的な才能に差はあっても、努力すれば魔法という力は鍛えられることは特に大きな気付きであった。
J-20だってJ-19だって自分が限界と感じる以上の努力をすれば、今の自分を超えて次の段階へと成長することが出来るのが魔法なのだ。その努力を果たしてして来たのだろうか。或いは自分より下のクラスが居ると思って、安堵していたのではないか。
「両者、定位置へ。それでは只今より昇格戦最終試合を始める!試合開始!」
「【紫電】」
可哀想だが、最終試合も一瞬で終わらせるつもりだ。僕は短く噛まないように詠唱する。砂埃が舞う。砂埃が明ければ、勝敗を決するだろう。静かにそれを待った。
「【焔槍】!」
真紅の炎を纏った美しい槍が投擲される。上位魔法だ。まさか防いでいたのか。
「【水塊】」
同じく上位魔法の【水塊】で相殺する。J-20は実力が見合わない高い実力の生徒が多いとは思っていたが、J-19で唯一この生徒は強い。弱そうに見えるのは、自信が無いことの現れという事か。まだ魔力が枯れた様子は無い。僕は少し楽しくなった。
「【氷礫】【破砕】」
これは第二試合で使った魔法連撃。流石にこれには対応できないだろう。そう思った矢先、全てが打ち砕かれる。
「【自由落下】」
全ての氷の礫の反重力が消え去り、墜落する。1つの魔法に対して、最速かつ高効率な魔法を使う才能は素直に尊敬する。恐らくかなり魔法を使わないと出来ない技術だ。何者だろうか。
「【茨の森】」
相手の動きを封じる。これはもう勝ちか。【茨の森】はただの動作を封じる効果以外にも、茨が魔力を吸収する効果がある。これで相手の魔法行使も封じるのだ。
「【焦土】」
「なっ……!【魔法障壁】!!」
慌てて【魔法障壁】を発動する。これは赤魔法の超位魔法だ。
「〈禁忌魔法〉だぞ!!」
地面が焼き尽くす劫火と宙で炸裂する赤魔法の爆音で、声は届かない。これは禁忌魔法……〈禁術〉である。ある戦時中に度々使用された魔法で多くの罪なき人々を焼き殺した魔法として、大陸中で使用を禁じられた。
「【蒼世界】」
世界が静まり返った。声のした方を見ると、ヴィラル先生が魔法を発動していた。こちらも超位魔法。辺り一面に濃霧が覆い、一切の音が消失する。深蒼色の世界となっている。これは青魔法ではない紫魔法精神系統の魔法ただ……。この空間では深淵へと引きずり込むような精神攻撃を何度も行うことが出来る。
完全に焦土は失われていた。しかし【蒼世界】は解除されない。魔法発動しているヴィラル先生が見えないため、どうしているのか分からない。暫く待つことにした。だが中々、解除される気配がない。
『まさか魔法に失敗した訳じゃないはずだけど……』
僕の発した声は自分にも聞こえない。【蒼世界】は正常に発動しているのだ。ここで【消失】を使おうとも思ったが、ヴィラル先生は〈魔道研〉の特別研究員と言った。
一瞬、誰かが後ろにいた気配を感じた。後ろを振り返るが、人は居ない。精神攻撃? まさかこんな学院内で精神攻撃をすれば、ヴィラル先生自身も危ないとは思うが……。
次に感じたのは肩に触れられる感触だった。今度こそ、と後ろを振り返る。そこにはヴィラル先生が居た。1歩、僕は前進することで距離をとる。魔法が一部解除された。
「〈一部解除〉……。流石ですね。」
「そう言ってくれると有り難いの。」
ヴィラル先生は髭を撫でる。本心ではないようにも見えるが、表情からは読めない。余りにこの時間が長いと、リルゲア先生や他の生徒が誰かを呼びに行く可能性がある。話を進めよう。
「ヴィラル先生は僕に何か用ですか?」
「無いと言えば嘘になるの。異世界で生き残ったその手腕と、出来損ないと呼ばれていた子がどのように成長したかも興味があったんじゃ。」
「貴方は何者ですか?」
どうやら僕の知らない何かをこの老人は知っているような気がする。僕もこの老人に少し興味が湧いた。
次回更新 - 6月3日(水)17:00
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