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4 - 4.『Signal Fire』

4-4.『狼煙』

 翌日、僕は朝になって教室に入った。まだ全然人が居なかった。唯一リルゲア先生が座って待っていた。何をしているのだろうか。僕は近付く。


「ああ、ロムス君、おはよう。」

「おはようございます。どうしたんですか、朝早くから。」

「君こそ、朝早いじゃないか。もっとゆっくりしなくて良いのかい?」

「僕は早起きに慣れているので。僕の質問にも答えてください。」

「すまないね。実は……君に用があってね。」


 やはりか。わざわざ朝早くから教室に居る理由なんて誰かを待つ以外にない。シーナは僕よりも早く目が覚めて、色々聞かれているらしいから待っているのは僕以外に居ない。


「向こうの世界の話ですよね。」

「うん、そうだよ。シーナ君の話も聞いたけど、君の話も別に聞けば信憑性が高まるからね。確か君とシーナ君はこっちに戻ってきてから話してないよね。」

「はい、話す機会はなかったですね。」

「十分だ。じゃあ君の話を聞かせてくれ。でもここだと他の人が来て、途中で邪魔されてしまうかもしれない。場所を変えよう。」


 僕はリルゲア先生の後についていく。


「授業はいつから始まるんですか。」

「君達の無事が確認されたからね。王家にそれを報告して、授業が許可されたら始まるとは思うけど……。」

「……? 何か不安要素でもあるんですか?」

「一つだけね。君もよく知っている人だよ。君のお父さんだ。」

「父さんが?」

「正確には君のお父さんが所長となっている〈国立魔道士魔道学総合研究所〉だよ。」

「〈魔道研〉が?」


 セルヴィアーダ家は自他共に認める魔道家系だ。当代セルヴィアーダ公爵は直系ではなく婿養子であるが、この国でセルヴィアーダ家に並ぶ魔道家系の優秀な魔道士であった。その為、公爵が国内魔道研究の第一線で活躍する〈魔道研〉の所長を務めるのは当然であると考えられている。


「あそこは魔道研究の各方面の専門家が揃っているからね。公爵は一時的に休んでるけど、研究に対する意欲は衰えていないからね。」

「休んでいる?」

「誰かしら聞いていない? セルヴィアーダ家の王家に対する国家転覆罪の疑惑が掛けられているって。」

「ええ!? そ、それは初耳です。」

「その反応は本当そうだね。そういう事で今、君のお父さんは謹慎処分になっている。王家直属の諜報部と審問部が協力して調査をしているみたいだよ。」

「リルゲア先生は心当たりはあるんですか?」

「君の左手のそれだよ。」

「〈龍の紋章〉?」

「名前は口にしないほうが良い。諜報部がどこにいるか分からないからね。かなり強力だ。王座を簒奪(さんだつ)する為に力を蓄えていると思われている。」

「気を付けます。それで〈魔道研〉については?」


 公爵家に関する情報も大切ではあるが、僕は勘当されている身。いざとなったら公爵家とは関係がないと言える。それより授業があるかどうかのほうが大切だ。


「向こうの世界について興味があるのさ。〈箱〉を学院から借り受けてずっと調査してる上に、修練室に仕掛けがないのかもずっと調べている。実技の授業が全くできないんだ。」

「それって一生終わらない気がしますけど。」

「そうなんだ。私の予想ではあるが、君とシーナ君は誰かの差し金ではなく、分かれている世界を繋ぐ穴のようなものが出来たと考えている。」

「僕もそんな気がしてます。」


 ここまでは言わないが、恐らく原因は剣客ではないかと思っている。僕達があの渓谷に落ちる前に剣客が〈墓場の世界〉から別の世界に飛んだのではないだろうか。そして、人狼の老婆と取引をしていたのではないか。


 別空間である〈箱〉は、世界という仕組みからは外れている。剣客の世界を渡る魔法が同じく魔法で作られた〈箱〉に干渉されたのではないか。奇跡的に迷い込んだのではないかと考える。


「ほら、着いたよ。」

「ここは……リルゲア先生とは何も関係のない部屋だと思いますが。」

「僕も自分の思い通りに事が運ぶわけではなくてね。これは頼まれたことなんだ。じゃあ後は頑張って。」


 リルゲア先生は手を振りながら去って行った。ため息をつく。こうなるのであれば早めに学院に行かなければよかった。今から逃げるのは可能だろうか。


「早く入れ。」


 あっ、見つかってるんですね。分かりました、入りますよ。


 僕は扉を開き、()()()()に入る。中で待っているのは当然生徒会のメンバー。見たことのある人もいる。エレラだ。小さく手を振っている。僕は薄っすらと睨みつけてみる。


「早く話をしたい。扉を閉めてくれ。」

「あ……すみません。」


 扉を閉めて、生徒会長らしき人に向き合う。綺麗に整えられた金髪に眼鏡の美形。まさに生徒会長という雰囲気を醸し出している。


「おい、君。どこを向いているんだ。私のほうを向け。」


 僕は首を傾げる。目の前のいかにもな人が生徒会長ではないのか? 僕は声のする方を探ろうとするが分からない。僕はキョロキョロと周囲を見てみると、服が引っ張られるのに気付いた。


「ここだ!!!!!!」


 後ろを見ると、背の小さい女子生徒が僕の服を引っ張っていた。


「貴女が生徒会長?」

「そうだ!私がこの魔道学院の生徒会長だ!」

「いや、あの眼鏡の方のほうがよっぽど生徒会長っていう雰囲気ありますよ。」

「あれは書記だ!!」

「……じゃあそんな紛らわしい所に居ないで下さい。」

「……チッ」


 え、舌打ちされたんですけど。生徒会長は効率主義なんて聞いたけど、効率なんて考えていなさそうだ。それより生徒会長な感じがしないから、全く締まらない。


「もういい!早く話を始める!お前はその椅子に座れ!お前たちも座っていいぞ!」


 僕と他の生徒会役員にそれぞれ席に座るように言った。僕達が座ると、生徒会長も僕の対面の席に座る。


「さて、エレラが聞けなかった話をいっぱい聞かせてもらおうじゃないか。」


 生徒会長は不敵に笑った。

次回更新 - 6月2日(火)12:00


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7月1日より新作を連載開始します。

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