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4 - 3.『Discharge』

4-3.『退院』


本日三回目の投稿です。

 エレラのお見舞いから更に数日後。僕は治癒院から退院した。先にシーナは退院していたようだ。僕は魔力枯渇に加えて、負傷もあったため時間がかかったらしい。


「退院おめでとう、ロムス。」


 部屋にお見舞いに来ていたヨルクスが言う。僕はだいたい目が覚めてから1週間、目が覚めない間を含めると2週間ほど入院していたようだ。


「まずは宿に戻るの?」

「うん、そうしようかな……部屋とかに持つとかどうなってるか分からないけど、すぐに揃えられるものばかりだから荷物は捨てられても良いけど……。」

「そういえばお金が無いんだっけ。」

「〈墓場の世界〉のお金はあるんだけどね……。この世界では交換してくれるわけでもないし。」

「取り敢えずは僕が幾らか貸してあげるよ。」

「ありがとう……。すぐに返すよ。冒険者か何かを少ししてみようと思うから。」

「それが一番稼ぎが良さそうだよね。ロムスは10歳だし、登録もできるようになったんだね。」

「他も何個か選択肢はあるけど、今は冒険者が手っ取り早いかな。」

「まあゆっくり考えよう。」

「そうだね。」


 僕とヨルクスは角を曲がり、少しだけ人通りが少なくなった通りを歩く。見覚えのある看板がいくつか並んでいる。その並びの一つに僕が泊まっていた宿があった。


「あれ? 看板変わってる?」

「ロムス、どうしたの?」

「宿の看板が変わってるって思って……。名前も違う。」

「一回行ってみて、話を聞いてみよう。」


 宿屋の扉を開く。受付には見覚えのある女将さんが居た。


「あんた、無事だったのかい!?」

「お久しぶりです。何の連絡もなく部屋を開けてしまってすみません。」

「良いんだよ。数少ないお客さんだからね、旦那と心配してたんだよ。」

「色々あって……。」

「このご時世何があるか分かんないものさ。生きているだけでも十分だよ。それよりこれからはどうするんだい?」

「もう一度、泊めていただくことはできますか?」

「……勿論だよ!経営はいつでも赤字ぎりぎりだからね。お客さんは一人でも増えてほしいのさ!」

「ありがとう……ございます。」


 殆ど関係がないと思っていた人にまで心配してもらっていた。それだけで僕はとても嬉しかった。感極まる気持ちで宿の受付をし終えた。


「そう言えば看板は……?」

「あっ、驚いたかい? 看板が老朽化していたから変えたんだよ。」

「名前も?」

「〈木漏れ日の宿屋〉かい? 人気のない宿屋には良い名前だと思ってね。アリスちゃんが付けてくれたんだよ。」

「アリスにも会いに行かないと。」

「部屋はそのままだから会いに行ってみるといいよ。アリスちゃんはあんたが戻ってくれるのを信じていたからね。」

「分かりました。」

「それからあんたの部屋は片づけてないよ。そのままにして、掃除だけしてる。いつ戻ってきても良いようにね。」

「……! 本当に、ありがとうございます!」

「はははっ、それだけあんたにはみんなが期待してるってことだよ。もっと頑張りな。」

「期待に応えてみます……!」


 アリスにも声を掛けなければいけないが、先に用事がある。J-20のクラスに行くことだ。ヨルクスはその為に僕が退院する今日、治癒院に来てくれた。宿屋の女将さんに別れを告げると、宿屋を出る。その足で魔道学院に向かった。


「街並みは全く変わらないね。」

「3か月でそう簡単に変わらないよ。」


 ヨルクスが笑う。僕もつられて笑う。〈墓場の世界〉の3年間は目まぐるしく過ぎて気付かなかったが、何もない日常に心休まる気がする。この日々に本当に戻るために僕は墓場の世界でのやり残したことをすべてしなければならない。


 魔道学院に着く。荘厳に佇む学舎は変わらない雰囲気を保っていた。いつ見ても美しい学舎は初代勇者の魔法によって建設されたというが真実はいかなるものか。玄関から奥に行き、中庭に入ると左に折れる。1期生と2期生は中庭の左側、3期生と4期生は中庭の右側、5期生は中庭奥の豪奢な建物に教室がある。


「人が少ないね。」

「ロムス達の件で教員の授業数が減ったからね。2期生、3期生、4期生は完全に授業が止まったらしいし。」


 ヨルクスは苦笑する。魔道学院をそこまでするほどの事態だったのか分からないが、心配してくれたのは感謝しかない。これからまた忙しくなるのかもな。


 中庭の左側の学舎〈桜花(おうか)の学び舎〉に入る。因みに右側が〈青嵐(せいらん)の学び舎〉、中央奥が〈炎陽(えんよう)の学び舎〉だ。桜で縁取られた看板が少し大きな扉の横に掛かっている。


 1期生は1階、2期生は2階だ。10本の分かれ道がある。その右端、Jクラスが並ぶ廊下を歩いた。はじめは緊張していた学院も墓場の世界で色々あるとすっかり消え去ってしまっていた。


「さあ、入って。」


 ヨルクスが〈J-20〉と書かれた扉を開く。亜空間の入り口であるため、中の様子は見えない。ヨルクスが先に入る。僕も続いて入る。


「……みんな。」


 クラスメイトからリルゲア先生まで全員が居た。


「おかえり、ロムス。」


 ヨルクスが改めて口にする。涙を堪えて僕は笑った。


「ただいまは言わない。僕達が行くのは〈A-1〉。こんな教室すぐに抜け出してやる。」

次回更新 - 6月2日(火)00:00


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