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4 - 2.『Visit』

4-2.『お見舞い』


本日二話目の投稿です。

 数日後、僕はかなり魔力が戻ってきているのを感じていた。どうやら既に治療は終わっているらしい。だが、体に不調が出るといけないため、今はまだ治癒室の中で大人しくしているように言われた。


 ここ何人かの間、J-20のクラスメイトが代わる代わるお見舞いに来てくれている。昨日はリーラだった。言葉には出さなかったが、シーナが戻ってきてくれたのが嬉しかったのだろう。普段よりも更に調子が良さそうだった。


 何回かスナートの愉快な仲間たちが来てくれたこともあったけど、正直あの愉快な仲間たちの名前は全く覚えていないから、終始気まずい状況だった。僕に愛想笑いという技術があって良かったと心底思っている。


「お邪魔しますね。」


 治癒室の入口を見る。今日のお見舞いに来てくれた人はJ-20の人ではなかった。


「あっ……お久しぶりです。」


 凛々しい顔立ちに整った容姿には見覚えがあった。僕が入学試験を受けに行った時に助けてくれたエレラである。


「あの時は本当にありがとうございました。」

「いや、良いの。取り敢えず貴方とシーナさんが戻ってきてくれて嬉しいわ。」

「どうして僕のお見舞いなんかに?」


 あの時の繋がりだけで、僕のお見舞いなんかに来ないだろうし……。まあ理由があるとすれば心当たりはある。


「貴方は自分を卑下するのが苦手でしょ。言葉は不安そうだけど、表情は全く不安そうじゃないわ。」

「なんとなく事情は察しましたから。」

「へぇ……聞いてみてもいいかな?」

「副生徒会長の役職ですよね。」

「まあ間違いではないわね。及第点を上げる。」

「……それに生徒会長から頼まれたんじゃないんですか?」


 エレラは驚いた顔をする。僕もほとんど根拠の無い推測だったが、どうやら正解だったようだ。


「凄いわね。そうよ、生徒会長の頼み。どうして分かったの?」

「わざわざ学院長が僕やシーナに話を聞くのは面倒です。だから生徒会長に頼んだ。ですが、生徒会長は僕とシーナに面識がない。そこにエレラさんが僕に面識がある事を知って……とかじゃないですか?」

「その通りよ。貴方の3年間は無駄じゃなかったようね。でも少し違うわ。」

「違う?」

「ええ。生徒会長は超効率主義なの。だから学院長と同じく面倒な事はしない人なのよ。」


 そう言ってエレラは苦笑した。確かにその線はありえたが、そこまで行くと当てずっぽうにしかならない。答えられなくて当然の問題だったということだ。


「でも分かった事があるわ。」

「分かったこと?」

「貴方に関する噂は違ったってこと。」

「何か噂があったんですか?」


 それは初耳だ。J-20のクラスメイトからも聞いていない話である。


「『恥さらしだから、情けなく死んでるはずだ』。こういう噂があったの。言い方はそのままだからごめんね。思い当たりはあるかしら?」

「大体の予測はついているんですか?」

「ええ、貴方がかのセルヴィアーダ家の一人息子って事は、調査で分かっていた事だもの。貴方と公爵家に流れる噂につくのには時間が掛からなかったわ。勘当されたらしいわね。」

「……色々あったんです」

「別に話せ、って言っている訳じゃないわ。噂と真実は似て非なることが多いから。それに噂が違うってことも今、証明されたし。」

「そう、ですか……。」


 エレラはどうやら僕の才能を認めてくれようとしているのだろう。かの〈氷晶のスカーディア〉の愛娘に認めてもらうのは大層名誉なことなのだろう。


「本題はそこじゃないの。」

「……?」

「この噂は明らかに不自然に流されていたものなの。そしてその噂の根元は貴方の公爵家だった。意図的に流したのでしょうね。何かを隠そうとしていたのかもしれないわね。」

「何かを……。」

「私はそれを聞きたくて、治癒室に来たの。思い当たりが無いならそれで大丈夫だけど……」

「……無いですね。」


 恐らく〈龍の紋章〉の事だ。父さんに僕の能力(スキル)は知られている。リルゲア先生も逐一報告していただろうし。だが、それは広めていい情報ではない。どうにかやり過ごそうとする。


「そう……分かったわ。」

「お気に召さなかったですか?」

「本音を言えばそうね。実は貴方の事はもう調査済みなの。公爵家の秘密も。今、貴方の御父様は王都の地下牢獄の中よ。」

「……」

「あら驚かないの?」

「本当にエレラさんは僕の3年間が無駄じゃなかったって思ってますか?」

「どうしたの急に……?」

「流石にそのカマ掛けは分かりますよ。」

「……ふふ。本当に貴方は面白い子ね。でも甘いわ。この状況は分からないフリをするのが正解よ。黙るのは心当たりがあるってことね。」

「僕は見事に引っ掛かったって事ですね。」

「なめてもらうと困るわ。私は父の力で副生徒会長になってる訳じゃないの。私自身の実力のお陰よ。簡単に勝てると思わないで。」

「力及ばずですね。また挑戦させて下さい。」

「ふふっ。やっぱり面白い子ね。いいよ。またいつかね。」


 エレラは椅子から立ち上がる。そして治癒室から立ち去りながら一言言い残していく。


「王家は貴方のことを警戒してる。それに公爵家が危機っていうのは本当よ。じゃあね。」

「待っ……」


 行ってしまった。どうやら最初から最後まで僕はエレラの手のひらで踊らされていたらしい。容姿端麗に見せかけた狸だったのかもしれない。


 しかしまた問題が増えてしまった。王家が僕を警戒している。つまりは〈龍の紋章〉だ。父さんが情報を漏らしたって事だろうか。リルゲア先生もまだ謎のままで怪しい所はある。公爵家が危機なのもそこが理由かもしれない。


 僕は1人、治癒室で頭を抱えていた。

次回更新 - 6月1日(月)17:00


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