3 - 27.『Back Trade』
3-27.『裏取引』
第三章『厄災編』最終話です
僕達は分からない程度に距離を詰めていった。人狼達が気付いた様子はない。人狼は全部で数千人ほど。この世界に居る全ての人狼とほとんど同じ数。全員が来た可能性もある。
「何のためにそんな事をしてるんですか?」
「何のために? 3年間もここに居て、まさか気付かないなんて言わないでしょう?」
「自分たちの居場所を取り戻すためですか。」
「その通りね。羊主に勝てるのはこの瞬間しかなかった。」
「情報を……ああ、人狼局に潜入していたって事ですね。」
「そんな感じ。そこに居るのは貴方のお友達なの?」
恐らく人狼となっている老婆は、友達でなければこちらに身柄をよこせと言っているのだ。しかし、友達と言うには少々不自然である。そこで言い方を少し変えてみる。
「仲間です。」
「そう仲間……。友達ではないのね?」
騙されなかったか。この世界で人狼としてこれまで生き残っている。そう簡単に人には騙されないようだ。人質が居て、距離が離れすぎていて、人数が少ない。勝つ要素が見当たらない。
「貴女の言い分では、羊主以外は関係ないんじゃないですか?」
「話を逸らしたのか分からないけど、考えればすぐに分かることを聞かないでちょうだい。」
とりあえずこちらの話を聞く気はないらしい。そうであれば僕達にできるのは武力行使しかない。
僕は黄魔法土属性の魔法で地面に文字を刻む。これだけ距離が離れていれば、流石に文字は読めない。横目で後ろのシーナ達を見る。どうやら気付いてくれている。
『僕が人質全員を囲むように【魔法障壁】を使うので、全員で場を鎮圧しましょう。』
全員が頷く。人狼達も何人か気付いたようだが、こちらの方が動くのは早かった。
「【魔法障壁】!」
「がっ!」
羊主の首を噛もうとしていた人狼は【魔法障壁】に阻まれる。続いて走り出したシーナが精霊に指示して、精霊式魔法で攻撃。人質の周囲にいる人狼を吹き飛ばした。
「千人は流石に数が多いです。分断しましょう!【魔法障壁】!」
僕は更に【魔法障壁】で人狼の軍団を半分に分ける。これで片方500人にまで減った。
「こっちは任せて!」
サグルが何人かの冒険者と共に半分を担当。僕はシーナと残った冒険者ともう半分を担当する。
「貴女を止めます。」
「出来るかしら。人質さん達を見てみて。」
「気を逸らしたいんですか?」
「そう思うなら貴方の自由だけど、早く見た方が良いわよ。」
「僕だけが見るから、他の人達は人狼たちから目を離さないで。」
「分かった。」
僕は羊主達の方を見る。一瞬何も気づかなかったが、ふと地面が目に入った。そこには僕が魔力が枯渇しかけて、羊主に一時的に渡していた火の迷宮主の剣がある。その剣が赤く光っていたのだ。
「あれは……」
あの兆候は僕が一度使った【始動】が発動する時に出る。つまり、今発動寸前という事だ。【始動】が発動すれば、【魔法障壁】の中にいる人質全員が危ない。
「くそっ……シーナって【魔法障壁】使えるか?」
「短い間だけなら」
「それで十分だよ。着いてきて! 羊主達が危ない!」
僕は前に立ち塞がる人狼を組み伏せ、魔法で遠ざけつつ道を作る。
「ロムス!みんなに何があったの!?」
「火の迷宮主の剣の【始動】が発動しそうなんだ! 何故かは分からない! でも発動させれば近くにいる冒険者はみんな死んでしまう!」
「そんな……!!」
あと200メトルほど。人狼達はこちら半分で500人。老婆を任せた冒険者達には全く攻撃がいっていない。最初からこれが狙いだったとしか思えない。
「裏に誰かいるな……。」
既に僕は気付いていた。これが罠だとも分かっていた。しかし、目の前でみすみす人が亡くなるのは見ていられない。これは僕が母さんが亡くなった時に守ろうと誓ったことである。誰にも言ったことはないけれど。
「かなり光が強くなっている……!」
「間に合いそう?」
「ちょっと手荒だけど、精霊式魔法で一気に遠ざけられる?」
「……できるかも。試してみるね。」
シーナは精霊に何かを伝えていた。精霊式魔法は精霊と話すだけでも魔法が使えるようなものなのだろうか。少し疑問を持つが、それはまた今度聞こう。
「お願い!!」
緑の精霊が風を起こす。段々と風が強くなる。追い風が僕とシーナを後押しし、追い風が人狼を吹き飛ばす。すぐに羊主の元へ着いた。
「【魔法障壁】」
一度【魔法障壁】を解除する。そして、中に入るとすぐに【魔法障壁】を発動した。人狼達が入れないようにするためだ。
「剣、取りますね」
意識があるのか分からなかったが、剣を取ろうとする。しかし、羊主は強く握っているのか、剣は簡単には取れない。少し力を入れる。
「うっ」
お腹が急に熱くなる。お腹を見ると、服が赤く染まっていた。僕の血が溢れ出していた。
「なん……で?」
羊主には立ち上がる。その姿が朧気になった。羊主じゃない?
「騙されたんだよ、俺達にな。」
シーナも抑えられる。火の迷宮主の剣を持っていたのは人狼であった。それに火の迷宮主の剣は持っていなかった。牙でお腹に噛み付いたということか。
意識が途切れ途切れになる。老婆が近づいてきているのが見えた。
「貴方は剣客と取引したのでしょ? でもね、私達も取引していたの。貴方がアウメリアで特訓をしていた時、剣客が現れたのは偶然じゃなかったの。」
「仕組まれ……てたって……ことか」
「そういうこった。」
誰かが目の前に転移する。剣客のようだ。もう視界が安定していないため、声で判断しているだけだ。頭が回らない。
「迷宮主の半身を消し去るなんて思わなかったが、迷宮主は既に遠くに逃げた。最初から坊主が勝てるなんて思ってねえ。人狼との取引内容の中に坊主を利用するってのがあったからな。取引してやっただけだ。」
「……と言うことです。もう貴方達は用済みなんです。」
「すまんが取引内容に坊主を殺すってのは含まれていない。俺はこの坊主を見てると楽しいってのはホントなんだ。せめて殺すのは辞めてくれ。」
何かがヒラヒラと落ちてくる。ちょうど意識が途切れてしまう。これからどうなるんだろう……?
どこかモヤモヤとした章完結ですが、
〈墓場の世界〉は別章にて続編があります。
しばしお待ちください……(o*。_。)o
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