3 - 26.『Unexpected Enemy』
3-26.『想像外の敵』
魔方陣の上に立つ。魔力を流そうとすると、サグルに止められる。
「ロムスは魔力を取っておいて。」
サグルが魔力を流す。魔方陣に光が灯り、転移が開始する。体が光に包まれる。
「地上に転移すると、すぐに厄災との戦闘が開始すると思います。どれだけ罠に掛かっているか分かりませんが、くれぐれも油断しないようにしてください。」
視界が真っ白になる。次の瞬間、地上の景色が目に入る。外は風が吹いていない。魔法が逸れにくい為、戦闘には最適な天気なのだろう。1つ残念なことがあるとすれば、魔法は神の使役獣には効果がないということだ。
「厄災はどこにいるんだ?」
周囲を確認するが、姿は見えなかった。とりあえず今いる位置を確認する。一緒に転移してきたシーナ、サグルと所に行く。
「僕達だけ少し遠い所に転移してしまったみたい。僕の調整ミスだ、ごめん。」
「いや、大丈夫ですよ。この間に体内魔力が回復できますから。」
「ロムス、敬語はいいといったじゃないか。」
「あっ……そうだね。ごめん。とにかく街に戻ろう。」
魔力を回復するため、走ってはいるが魔法は使わないことにした。街の外壁は見えている。恐らくここは街から見て、僕達が事前に罠を設置した場所の真逆に転移しているようだ。
「戦闘音は聞こえない。どうしたんだ、これは。」
1人の冒険者の言葉に僕は走りながら考える。確かに地上に厄災を転移させたが、罠に嵌らなかったとしても半身が無くなっている状態で自由に動き回れるだろうか。
それに討伐部隊はかなりの人数を揃えている。それなのに誰とも会わないというのもおかしい。何かがあったと考えるのが自然だろう。
「急いだほうがいいかもね……」
「みんなに何かあったって思ってる?」
シーナの返事に僕は無言で頷いた。シーナやサグルが驚く様子はない。同じ結論に行き着いたようだ。しかし、向こうには神の使役獣に対して攻撃が可能な羊主がいるはず。みすみす負けるとは思えない。まさかとは思うが、剣客が1枚噛んでいるのか?
「可能性を考えると、いい結論にはならない。無駄な思考は辞めよう。」
自分に言い聞かせる。しばらく走ってようやく街に辿り着いた。街に人の姿はない。確かここには剣客が居たはずだが。僕達は一度迷宮入り口へ向かった。
「あっ、人がいる!」
水が止まった泉を囲う石垣に座る人が居た。まだ距離があることではっきりしないが、あの姿を見るに剣客だ。迷宮の入り口に居るのであれば、他の人達と会ったかもしれない。
泉に近付くと、剣客が僕達に気付いたようだ。立ち上がってこちらに向かってきた。僕達は走るのを辞めて歩いて剣客の元まで行った。
「どうしたんだ? まさかもう倒したとか言わねえだろうな?」
「違うって分かって言ってますよね。」
「まあな。それでどうしたんだ? 【転移の陣】を使ったようだが。」
「物理的な罠なら通ると思ったんです。そこで転移させたんですが、僕達だけ転移場所がずれたんですよ。」
「そういう事か……。俺は風の迷宮主は見てねえ。冒険者とか言ったか? そいつらも見てねえぞ。」
「この街の近くで大きな事態を起こす原因があるとすれば、厄災か剣客のどちらかだったんですけど……。」
「俺は違うな。風の迷宮主じゃねえのか? それに罠張った場所も行ってないんだろ?」
「行ってない……です。」
「先にそっちを見てみろ。俺は別に話なら乗ってやるから、何かあったらまた来い。」
口調は悪いが、言っていることは正論であった。少し焦りすぎている。討伐部隊の士気が上がったところでこうした状況になったため、責任を感じていたのだろうか。想像よりも事実が大切だ。
「【転移の陣】で行きましょう。魔力がかなり回復しましたし。」
「おっ、坊主の紋章式は見たことがなかったな。どれぐらい成長したか見せてもらおう。」
「ご自由にどうぞ。」
僕は苦笑いしてしまうが、了承した。何度も特訓したため、人に見られたところで緊張はしない。手短に終わらせる。線を描くたびに反応をする剣客は少し面白かった。
「じゃあ乗ってください。また後で。」
「ああ……また後でな。」
何か含みのある言い方だったが、気にする事は無いだろう。剣客は気分屋だからいちいち気にしていると、気が滅入りそうになる。
見慣れた転移を終わらせると、ちょうど街の門に着いた。ここは罠を仕掛けた方角の門である。ここから出て少し歩くと、状況が分かるはずだ。
「行きましょうか。」
少しでも早く着くために【高速】を発動する。【快速の陣】の札はもう手元にない。冒険者たちはそれぞれの魔法で高速移動をしてついてきてくれた。
数分も掛からずに罠を仕掛けた場所に着いた。
「これは……。」
僕達は立ち止まり、その惨状に息を呑む。罠は全て発動されていた。神の使役獣に血は流れていないため、罠に嵌ったか分からないのは仕方ないだろう。厄災の姿は無かった。そう遠くない場所に居るだろうから、それは探せばよい。問題はそこではない。
「なんでみんな……!」
そう呟く冒険者の言葉で目を覚ます。
「助けに行かないと!」
罠が仕掛けれていない場所の一角に倒れる人達が見えていた。羊主の姿もあった。空には光る星々が全員と照らしている。
「そこから動くな!!」
僕は動きを止める。後ろから付いてきていたみんなも止まる。僕達に止まるように指示した中の1匹が羊主の首を噛もうと口を広げていた。
「どうして貴女がここに?」
「……久しぶりだねえ。私達もこの時は待っていたんだよ。」
3年前を思い出す。〈墓場の世界〉に迷い込んで、この世界について教えてくれた人。彼女が率いる人狼の軍団がそこに居た。
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