3 - 23.『Enchant』
3-23.『能力付与』
※3-6.『厄災』で【付与】を魔法として扱っていましたが、今回の内容、効果的に魔法という扱いでは適さないと判断したので、能力に変更しています。ただし、話自体の変更はありません。
「ロムス!」
僕は誰かに呼ばれて速度を弛めた。呼んだのはどうやらサグルらしい。
「どうしたんですか?」
「神の使役獣には魔法が効かないんでしょ?」
「はい、そうです」
「じゃあ厄災に攻撃をできるかもしれない……」
「……! そう言えばサグルさんが使うのは魔法じゃなかったですね。」
「〈科学〉はあくまでも人力で起こす自然現象のような区分だから。きっと厄災にも攻撃が通るはず。」
僕は完全に立ち止まって考え込む。今からしようとしていた事と、サグルがする事が噛み合わないかもしれないのだ。
「この部屋じゃないと出来ないですか?」
「ロムスに使って欲しいのは〈ゲオグ・ジェネラル〉戦と同じやつだよ。」
「じゃあ、ここの方が良いか……」
「無理そう?」
「……いえ、大丈夫です。ゲオグ・ジェネラルと同じ方法で良いんですよね?」
「うん、そうだけど。」
「じゃあ、あまり時間を掛けずに出来そうです。」
「……?」
今は詳しく説明しない。それよりも魔方陣を完成させないといけない。サグルには一旦後方に下がるように言って、僕は外縁から中央の円へ向かって必要な線を描く。
「【透明】」
気配を消せないため、先程のように厄災に察知される可能性はあるが、あまり時間は掛けていられない。陽動部隊もかなり疲弊しているようなのだ。空気中の魔力が薄い事で体内魔力の回復が追い付かないのだろう。
「……目が合った!」
1本目の線を描いている時にもう見つかってしまった。まだ【茨の森】の効果で動いていないのは幸いだが、どのような手段で攻撃してくるのか分からない。攻撃される事が分かっていても厄災の近くに行かないといけない。
出来る限りの高速移動を魔法で行いつつ、線を描ききる。すぐに距離を置く。攻撃はされなかったが、かなり【茨の森】から抜け出してきている。
「あと何本だ?」
頭の中で魔方陣を想像しながら、必要な要素を挙げていく。
「3本か。」
言ってしまえばあと3回は【厄災】の方向に行かないといけない。【茨の森】もあと数分と持たないだろう。ここからが肝心となる。
先程と同じように【厄災】の方へ走る。先程の感じから恐らく攻撃は出来ないだろう。攻撃対象として完全に認識されているだろうが、【茨の森】がある限り手は出せない。恐怖よりも焦りの方が正直勝っている。
「攻撃を警戒しなかったらかなり早く終わる。あと1本だ。」
あっという間に2本の線を描き、残されたのは最後の線。それが終われば、小さい円を少し描いて終わり。これで魔方陣の完成だ。本当なら予め準備しておきたかった。しかし、門番との戦いで巨大な魔方陣を描いた大きな札を持ったままでは邪魔になる。渋々こういう形になったのだ。
厄災を押さえ付けていた【茨の森】はかなり解かれてきていた。陽動部隊は羊主の指示で一度全員戦線離脱し、短い休息と治癒師による治癒を行っている。
「少し魔力が心配だけど……これならギリギリ。」
魔方陣に流す魔力も考えると、あまり無駄遣いはできない。巨大な魔方陣だ。予想以上の魔力量を必要とされる可能性もあり、体内魔力は余裕を持たせておきたい。
最後の線を描き終わると同時に【茨の森】の拘束が解けてしまった。
「すぐさま戦闘準備! 厄災を移動させるな!」
魔方陣の外に出れば、もちろん魔方陣の効果はない。それではこれまでの陽動の意味がなくなる。こちらは厄災が数回拳を振り下ろす攻撃によって、少なくない人数が余波を浴びている。
既に準備を整えていた陽動部隊は攻撃を開始する。3分の1の冒険者は攻撃に参加していないのは、事前に用意した前衛部隊だ。
陽動部隊は主に身軽で攻撃の回避が得意な者を集めているが、厄災が陽動され続けることはないだろう。実際に攻撃された時に受け止める、もしくは受け流す人も必要となる。それが前衛部隊だ。
だが、まだ参加するようには言っていない。まだ弱っていない状態で攻撃を受け止めれば、受け止めきれない場合がある。そこから瓦解するのを防ぐために、まずは陽動部隊のみで頑張ってもらっている。
「ЬЭЭ」
認識できない言葉を発する。直後、最奥部の中に複数の竜巻が発生した。陽動部隊の何人かが飲み込まれる。
「規模が大きすぎて【消失】じゃ消しきれない!」
「羊主! 竜巻に飲み込まれそうになった人に対して、限定的に使って下さい! 【消失】でも人間自体には影響がありませんから!」
「そうね、分かったわ!」
全部を消す必要はない。僕も自分の方向に向かってきた竜巻に向かって、自分が通れるだけの風穴を開けた。
「何十人かごとに固まって、壁によってください!」
陽動部隊や後方にいる前衛部隊、治癒師達に告げる。即座に行動を始めた。僕はまだ最後の線を描き続けている。厄災の足の下を通り、最後の線を引き終わる。更に必要な円を書いて、魔方陣を完成させた。
「【多重詠唱】と【魔法障壁】!」
同時に何人かで集まった人達の複数の固まりを囲うように、【魔法障壁】を発動する。【多重詠唱】で同時魔法発動数を減らしておいた。
【付加:消失】!」
羊主と戦った時にも見せた、能力の効果を付与する能力。【魔法障壁】全てに【消失】の効果を付与することで、触れた竜巻が全て掻き消される。
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