1 - 7.『Inquirer - II』
1-7.『お尋ね者 2』
いつものように僕は王都を出る。門番の人とは顔見知りになっている。
「坊ちゃん、今日も外かい?」
「はい!魔道学院に入る前に魔法の練習をしておきたいんです!」
「熱心なのはいいことだ。頑張れよ!」
初めに王都に来た時にセルヴィアーダ家として入ったため、僕は未だに公爵家の息子となっている。本当はもう違うのだが、わざわざ否定するまでのこともないだろう。
「今日は森の探索をしながら、魔法の練習をしてみようかな……」
僕は森の入口に立った。心地よい風が吹き抜ける。森に入った。
「いつもと違う……」
森に入った瞬間、何か不思議な気持ちに囚われる。森が訪問者を拒んでいるようだ。僕には自然と共鳴する能力などないし、そんな能力があれば忌み嫌われることとなるだろう。持っていなくて幸いだ。
それでも今日の森は違った。僕は警戒を解かずに足音を殺して、森の奥へと進んでいく。道順はいつもと同じ。迷う心配もないが、奥に行けば行くほど圧力のようなものも強くなっていく。
「誰が……何がいるんだ?」
僕が練習場所としている少し開けた場所に出る。その中央にある切り株に一人座っていた。マントに覆われて誰かは分からない。でも、どこかで見覚えがある気が……
「どうしてこんな場所に?」
驚くように僕を見上げる。僕を見ると、その驚きは一層深まったようだ。
「あなたこそ……どうしてここに?」
「僕はいつもの練習場所に来ただけです。いつもここで魔法の練習をしているんです。」
「私は最近森で大魔法を使っている〈深林の魔道士〉に会いに来たの。それまさか……あなた?」
「……」
僕は認める訳にはいかなかった。そんな言われをされる覚えはない。僕が使っているのは大魔法じゃなくて、誰でも使える初歩的な魔法だし、何か迷惑を掛けているわけじゃない。
「……あなたよね?」
「……はい」
勝てなかった。所詮、僕は弱い男なんだ……七歳だけど。
「まさかあなただったなんて……」
「深林の魔道士に会って、どうするつもりだったんですか?」
「それは……」
今度はマントの女性が黙る番だった。
「何か隠していますよね。」
「そ、そんなこと……」
慌ててる。慌ててる。隠し事が下手な人だ。
「何もないなら帰りましょう。さあさあ!」
何もないというのなら帰れるだろう。だが、確実に隠し事をしている彼女は、帰るわけにはいかないはずだ。これでどうだ……??
「……分かったわ。説明すればいいんでしょ?」
「ザッツライト!」
「何を言ってるの?」
「空耳ですよ。」
「まあ、いいわ……。私は悩みを解決してもらうために、深林の魔道士に会いに来たの。」
「それは深林の魔道士ではないといけないんですか?」
「あんまり広まりたくないことだったから……。」
何か彼女にも事情があるのだろう。力不足かもしれないけど、僕が相談にのってあげられるかもしれない。
「僕じゃダメですか……?」
目をうるうるとさせて言ってみる。効果抜群だった。罪悪感を覚えたようだ。さすがにやりすぎたかもしれない。
「私……実は〈忌み子〉なの。」
彼女から聞いたのは、僕が聞いたこともない世界の神秘に触れているかのような話であった。
彼女の名前はアリス。太古の昔に畏れられた魔王の瞳〈魔眼〉を持つ者。伝承では魔王の血を引き継いでいるとされる。
だが、その瞳は魔とは程遠いものだった。惹き込まれるような群青色の瞳。いつの間にか僕自身が彼女に惹き付けられていた。