3 - 19.『A Man - III』
3-19.『ある男 3』
本日二回目の投稿です。
前話を見逃した方はそちらからご覧下さい
気付くと冷たい床で寝ていた。身体を起こし、周囲を見て理解する。どうやら僕は倒れていたようだ。記憶を遡る。
「……確か……門番と戦って……。」
「負けたのよ。」
後ろを振り向くと、羊主も今起きたのか、周囲を見ながらそう答えた。
「そう言えばそうでしたね……」
「で、ここはどこなのかしら。」
「えっと……ここは僕が探索部隊に待ってもらっていた場所ですね。」
しかし、他の人の姿はない。耳を澄ませると、遠くからうっすらと声が聞こえてきた。どうやら起こさないように遠くで待っているらしい。枕替わりにしてくれた鞄を持つと、僕は先に皆の所へ戻った。
「あっ、ロムス!」
「サグルさん……何があったんですか?」
「僕達もあんまり分かってないんだ。多分あの人が教えてくれると思うよ。」
サグルがそう言って視線を向けた先には、冒険者達と話している髭面の男がいた。僕はその近くへ行く。
「あぁ、その時な。バスッ、って剣を飲み込みやがった。俺はあん時が一番命の危険を感じたな。」
男が話すと、冒険者達が笑う。あの声聞いた事がある。それにあの顔も……。
「なんでここに居るんですか。」
「おお、起きたか、坊主。」
冒険者達と話していた男は、僕が話し掛けるとこちらを見る。やっぱり知っている男だった。
「〈墓場の世界〉に来てたんですか?」
「おう。〈天使の預言〉が教えてくれたのさ。すぐに戻る、と言っちまったがな。」
男が言った〈天使の預言〉は、僕や羊主が持つ〈龍の紋章〉と同じ力……つまり能力である。この男の知り合いにその能力を持っている人がいるらしい。
「なんで来てるのよ。」
僕と同じ質問を吹っ掛けられた男は目を丸くした。質問をしたのは羊主である。
「お嬢ちゃんも起きたのか。久しぶりだなあ。」
「あんたの顔なんて見たくないわ。」
「そう言うなよー。門番から助け出したの俺なんだからな?」
誇らしげに語る男の様子を見て、僕は確信する。
「気紛れですね。」
「おっ、分かってたのか。坊主は面白いからなあ、殺さないでやってるんだぜ?」
「……」
「ロムス、この人知ってるの?」
シーナが首を傾げる。シーナやサグル、冒険者達にとっては全く知らない人であるが、僕や羊主とは深い関係がある。
「この人は〈剣客〉。人狼の始祖と羊主をこの世界に連れてきた張本人だ。そして僕とシーナが元の世界へ戻る唯一の手段。」
男はどこか照れくさそうに頭を搔く。だが、この男は危険なのだ。人狼の始祖や羊主を〈墓場の世界〉に連れて来たのも、気紛れなのだ。全てが気紛れで行動している。何をされるか、生殺与奪権は男に握られている。
「貴方は知り合いだったのね。」
「アウメリアで修行中に訪れてたんです。多分、〈火の迷宮〉を攻略しに来てたんでしょうね。」
「坊主はやっぱり知ってたのか。残念だが、あの迷宮は攻略し終えたからな?」
アウメリアの都主が漏らしていた言葉から知っていた。世界に幾つか存在する地下迷宮。その1つはここであり、その1つはアウメリアにある。他の場所も大体の推測はしているが、興味はないから行く気は無い。
「どうでも良いです。どうせ剣集めですよね?」
「ああ、火の迷宮の迷宮主は〈大業物〉だったからな。ここもそうだと良いんだが。」
剣客と言うだけあって、無数の剣を集めている男だ。そしてこの男の能力が〈神殺しの剣舞〉。あらゆるものを剣へと変え、剣を自在に操ることが出来る能力。どうやら迷宮主を剣に変え、収集しているみたいだ。
「神の使役獣を剣に……やっぱり破天荒ですね。」
「それは褒め言葉か? あんな強いヤツ剣にしないと勿体ないじゃねえか!」
「はあ……」
話についていけないので僕は話を変えることにした。
「……攻略したら返してくれるんですよね?」
「そういう取引だからな、俺は取引は破らねえタチだ。」
「じゃあ少し待っておいて下さい。すぐに攻略します。」
「そうカッカすんなって。今のお前じゃ、絶対に勝てない。」
「……っ」
確かに門番にすら手も足も出なかった僕では、厄災を討伐する事など到底できないだろう。分かってはいたが、実際に事実を突き付けられると実感が湧いてきてしまう。
「だから取引の内容を変えてやる。」
「内容を変える……?」
「〈魔剣術〉はまだ忘れてねえだろう?」
「はい、使ってはいませんが、一通りの型は覚えています。」
「なら、良い。これを使え。」
剣客は虚空から出現させた一振の剣を僕に投げた。受け取ると、その重さで落としそうになる。
「これは……」
「迷宮主には迷宮主ってな。火の迷宮主の剣だ。大業物を坊主が使いこなせるかは分からないけどな。」
僕は剣を見る。剣の柄から剣先まで火を表現した紋様が刻まれている。そして剣を持つだけでごっそりと魔力が消費される。
「確かに使いこなせないかもしれませんね。」
「どうする? 取引は破棄するか?」
「それは絶対にないです。迷宮主が一部でも残っていれば良いんですよね。」
「その通りだ。魂さえ引っ掛かっていれば、それを核に剣が出来る。魂を残すのが難しいが、神の使役獣なら大丈夫だろ。」
無茶ぶりのように聞こえるが、剣客1人で厄災は10秒使わずに倒し、剣にできるだろう。だがあえて僕は取引を持ち掛けた。剣客は剣を愛しているため、剣の刃が欠けるのを良しとしない。魔力で硬化させているが、強い相手と戦えばそれだけ剣の破損する可能性も高くなる。そこを狙って取引したのだ。
「俺は門の近くで見てるから、お前らで倒すんだな。期間は設けず、ゆっくり攻略するのを待ってやるからよ。」
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