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3 - 17.『A Man - I』

3-17.『ある男 1』


長らくお待たせしました。更新再開です。

色々と事情が立て込んだ影響で

投稿が途切れてしまい申し訳ございません。

「どうした、そんなものだったのか。口だけだったか。」


 僕と羊主は門番の前で動けなくなっていた。完全に敗北していた。【消失(ロスト)】の使用限界を迎え、攻撃の方法を失ってしまっていた。


 僕が先に攻撃を受けると、すぐに羊主が距離を取ろうとしたが、門番の使う力に距離は関係なかった。むしろ、距離をとった分だけ【暴乱ノ歌】は威力を増してしまう。攻撃に呑まれた羊主は、僕の方まで飛ばされてきた。


「隙なんてないんじゃないか……!!」

「心の叫びは心でしてくれ。私は聞きたくない。さて、終わらせよう。」


 その時、強い揺れが起こる。僕と羊主は地面に倒れるが、門番も強い揺れにどうにか耐えた。それと同時に【暴乱ノ歌】の攻撃がもう一度当たる。骨の折れる音が聞こえた。身体が動かない……。


 結局、門番は1歩たりとも動くことなく、負けてしまった。完全に勝負がついたと思ったのか、ゆっくりと門番はこちらに近付いてくる。だが、そんな隙すらも今の僕に打つ手はない。もう少し力を残して来るべきだったか。いや、それでも勝てなかっただろう。修練が足りなかったのだ。


「あまり近付いて抵抗されても面倒だ。ここからで良いだろう。久しぶりに楽しかったな。【安寧ノ歌】。」


 地面に大きな赤い花が咲き誇る。花弁の中は良く見えないが、とても甘い匂いがする。これは……?


「せめて死ぬ時ぐらい痛くない方が良いだろう?」


 花は大きな音を立てている。何の音だろう。唯一動かせる顔で花の方を見る。花が少しずつ浮かんできているように見える。何も出来ないもどかしい時間が流れる。しばらくして、花はその正体を表した。


「化物だな……」

「だが、美しいだろう? 食虫植物さ。虫にはこれがお似合いな最後じゃないか。」


 とてつもなく大きな花は根を足にして、茎と葉を手にして、今にも食い散らかそうとこちらへゆっくりと足を進める。どうにか魔力を絞り出して、ここから逃げるか、あの花を消せないか……。


 あの甘い匂いで意識が朦朧としてくる。あれは睡眠効果があるようだ……。それを打ち消す魔法を使う事も出来ずに、僕と羊主は意識を手放した。



 +----------+



 男は迷宮内を歩いていた。小さな怪物が通路の中央に立ち止まっている。小さな怪物は男に気付く気配がない。男はそのまま素通りした。


「神の使いも哀れだな。」


 そう喋る声すら小さな怪物は気付いていないようだ。男はそのまま迷宮を歩いていると、人の声が聞こえた。


「……? こんな所に大勢で誰だ?」


 迷宮を最短経路で歩いていた足を一旦止め、声のする方向へ歩き出した。足音は鳴らず、男の姿が見えるようになるまで声を出していた人々は近付く男の存在を認識できていなかった。


 シーナとサグルは、冒険者達と共に羊主を迎えに行ったロムスを待っていた。ずっと走り続けていたため、いくら冒険者達の中でも実績のある精鋭を選出したと言っても、迷宮内の魔力の少ない環境で走り続けるのはかなりの体力を消耗する。


 疲れを癒している状況で周囲に目を配っていたシーナやサグルは冒険者の鑑だろう。気配を消していたのにも関わらず、魔力の不自然な流れを感じ取ったシーナは、精霊式魔法を放った。


 大きな音を立てて、魔法が弾かれる。その音に反応した冒険者達はすぐさま音のした方向を見て、武器を構える。


「誰!」


 シーナが姿の見えない者へ問うと、朧気ながら姿が見え始める。男は透明化して気配を消していた魔法を解いたのだ。


「お嬢ちゃん、若いのにすごいぞ。俺の魔法はかなり読みにくいんだが……。ああ、その精霊のおかげか。」


 シーナの背後に浮かぶ精霊の姿を見て、男は納得したように頷いた。男は精霊式魔法を知っていた。知る者が少数のその魔法を見て、少し警戒する。


「そんな事は良い。貴方はどうしてこんな所に?」


 魔法を発動寸前で抑えたまま、シーナは男に尋ねた。男は頭を掻く。どうやら説明はしたくないようだ。であれば、とシーナは魔法を発動させようとする。


「おい、待て待て。別に俺はお前らを取って食おうって魂胆じゃない。説明するから落ち着けって。」


 男はその場で胡座をかく。その姿を見て、呆れたのか面倒だと思ったのか、シーナやサグル、冒険者達は臨戦態勢を解いた。しかし、実際はいつでも攻撃に対応できるように目を光らせることは忘れていない。


「はあ……そんな目をギラギラさせんなって。確かに俺は怪しいが、多分お前らは俺のこと知ってるぞ?」

「知ってる……?」


 サグルは記憶を探る。この不審な男は冒険者達の中には居なかった。他に居た人間と言えば……。そこである記憶に辿り着く。


「不審者か。怪物の根城から出てきた。」

「That's right!その通りだ。」

「……! 英語だと?」

「おっ、やっぱり坊ちゃんは〈チキュウ〉の奴だったか。」


 サグルは驚きのあまり、言葉を失ってしまった。シーナはそんなサグルに声を掛けようか迷ったが、今優先するべき対象を見て、思いとどまる。更に質問を重ねた。


「それで? ここに来た目的は。」

「お嬢ちゃんは侮れないなあ。話を逸らすのにも失敗したみたいだ。」

「どうでも良い。早く答えて。」


 精霊が少し前に出る。シーナが魔法を使おうとしている事だ。流石にこうなれば男は答えるしかない。だが、男は慌てた様子を見せず、笑っていた。


「何がおかしい?」

「そうカッカすんなって。こんな迷宮に来る目的なんて1つだろ?」

「……」

「分かってるんじゃないか。俺は風の迷宮主……お前らの言う〈厄災(カラミティ)〉に会いに来たんだ。」







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