3 - 16.『Limit』
3-16.『限界』
「……動きガ悪いナ」
「喋るのか……?」
「……? 人間がなンの用ダ? こコは入れナい。」
攻撃を繰り返しながら、門番は疑問を発した。決死に避けながら、僕は応答する。
「この奥に!いる!怪物は!どうした!」
「〈風の守護者〉の事カ? 中にいルが……」
「〈厄災〉は!戻っている!って事か!」
「厄災とは何の事だ。」
段々と喋り方が流暢になってきている。長く眠っていた弊害であろう。特に気にすることでも無いか。それよりも厄災が風の迷宮の迷宮主であった事には驚きだ。何らかの繋がりがあるとは思っていたが、ここの主だったのか。
一旦、門番が動きを止める。その隙に質問を重ねて、攻撃を再開させるのを遅らせようとする。
「お前が眠っていた間に風の守護者とやらが外に出ていたんだ!」
「……? そんな筈が無いだろう。眠っていても門が開けば、門番の私は分かる。」
「だが、外に出ていた!」
「何度言えば分かる。守護者の行動は門番の私が把握している。」
「じゃあ僕達が見たあれは何だったって言うんだ!」
「……嘘はついていないように見える。待て。確認してみる。」
「? 確認なんて出来るのか。」
なんでもアリだな、神の使役獣。見た目はお世辞にも良いとは言えないが、話してみると理性もあり、会話も普通に出来る。考えれば考えるほど謎な存在だ。神の考えが分からない。
「……どうやらお前達の言うことは正しいようだ。どうして守護者の行動を読めなかったのか。神の意向か……。」
神の使役獣には神の使役獣なりの悩みがあるようだ。その見た目で何を言われても、心に響かないのは残念だけど。
「しかし、お前達を中に入れる事には繋がらない。どうしても入るというのであれば、すぐさまお前達は粛清対象に入るが、どうする?」
「入らない……と言えば、見逃してくれるのか?」
「別に私も人間を殺したいわけではない。見逃した所で何にも思わないさ。」
「じゃあ入るよ。」
「私と戦うという事か?」
「うん、その通りだよ。どっからでも掛かっておいで。」
僕はポケットに隠し持っていた【念話の陣】を発動する。これは相手の脳内に直接語り掛けるため、会話をしている事すら秘匿することが出来る。
『……羊主。僕が囮になります。その隙に扉を開けるか、試してみてください。開けると確認したら、すぐさま退避しましょう。上で待ってる人達もいますし。』
『そうね……。そうしましょう。扉が開けるか確かめるだけでいいのよね?』
『それで十分です。入れるかどうかが肝心なんですから。』
ずっと黙っていては門番にも疑われるだろう。この辺で切り上げておいて、戦闘準備に移る。持っている札を幾つか取り出しておく。アウメリアから出てからずっと札に頼りっぱなしだ。札の補充もしておかないと。
「それは私に攻撃しろ、と挑発しているのか?」
どうやら黙っている僕と羊主を見て、攻撃するのを待っていると勘違いしたようだ。別にこちらから攻撃する必要もないため、それでも良いのだが、少し苛立っているように見える。
「神の使いたる私に良い度胸だ……【激震ノ歌】」
耳障りな音が反響する。同時に地面が大きく揺れる。足場が安定しないのは余りにも不利だ。これは消しておく。
「【消失】。」
荒れた地面が元の姿に戻る。
「神の理に干渉している……? ああ……それは〈能力〉か。」
「知っているのか?」
「神の理に反する力だ。すまないが、その力を持つものは神の意向で排除するものって決まっている。ますますお前達を逃す訳にはいかなくなってしまったようだ。【暴乱ノ歌】。」
荒れ狂う風が僕達に襲い掛かる。流石に【消失】を何回も使い続ければ、僕の身体に影響が出てしまう。一度限界を試した事があったが、【消失】の連続使用の限界は5回であった。それ以上は強い頭痛と全身の鈍痛に苛まれて、口を動かすのも不可能であった。強い力には代償があるという事だ。
「さあ、どうする。私の技は全て室内に向いている。壁に当たる度に増幅され、威力が倍増する。【暴乱ノ歌】は強い風だ。全方向からの刃のような風に対抗できるわけがあるまい。」
わざと外した【暴乱ノ歌】はこの空間の壁に当たっている。それは増幅され、跳ね返ってきた。まさに門番には最適の力なのだ。せめてもの幸いは、この空間が広いため、あまり壁に当たらないことか。
それよりも今はあの力をできるだけ【消失】を使わずに封じ込める方法を考える事だ。初代羊主は再生よりも速い速度での攻撃をこなしていたが、流石に〈魔剣術〉は使えない。それにあれだけの速さを出す、全く参考にならないな。
一向に止まない風。風は壁に当たり、増幅して威力をあげる。【消失の使用を出来るだけ避けたいため、他の策を考えれば良いが、何か良い策があるわけでもない。その間にも【暴乱ノ風】は威力を増す。
何か良い手は無いものだろうか。僕は門番の攻撃の対策法を今一度真剣にかんがえ始めているのであった。
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