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3 - 15.『Guardian』

3-15.『門の守護者』

「何をしているんですか!!」


 門番の神の使役獣に近付き、起こそうとしている羊主を見つけ、僕は止めた。だが、羊主が止まる気配はない。正気ではないようだ。取り敢えず門番を起こすのは得策とは言えない。強制的になるが、止めるとしよう。


 僕は札を取り出し、羊主の前に投げた。【防壁の陣】は物理的干渉も受けつけない。羊主は通れないことに首を傾げている。羊主は紋章式魔法に長けているため、【防壁の陣】の効果を知らないはずがない。恐らくあれは羊主ではない。


「……」


 羊主を操っている何かはじっと【防壁の陣】を眺めていた。確かに魔法は透明でもたまに魔力の帯のようなものが見える時がある。それを見ているのだろう。


 羊主は手を挙げた。そして【防壁の陣】に触れる。驚くべきことに、触れた部分から【防壁の陣】はやけ落ちていった。


「……神の使役獣か。」


 その呼び名に反応したのか、羊主はゆっくりと振り向く。予想は当たっていたみたいだ。取り敢えず元の意識はあるのか、確かめるのが先決だろう。


羊主(エンペラー)!意識はありますか?」

「……?」


 羊主は不思議そうに首を傾げる。羊主自体の意識は完全に消えているようだ、神の使役獣は魔力とは違う力を使うと言うから、抵抗できなかった可能性は高いだろう。つくづく〈墓場の世界〉では面倒事が鳴り止まない。


「目を……覚ませ!」


 神の使役獣相手にどのような手を取って良いものか、全く分からなかったため、魔力をぶつけて羊主の自力での意識覚醒をさせる。


「どうだ……?」


 羊主は手を挙げ、異質な力を掌に溜める。そして飛ばす。肉眼では捉えることの出来ない速度で、異質な力の弾丸が飛んでくる。


「面倒だな……!」


 逃げ回る僕を追いかけるようにマグマの弾丸が飛んできた。あれは魔法じゃないのか……。触れてないのに、マグマの弾丸が近くを通った地面が溶けてしまっている。掠れば肉体が溶けてしまうだろう。


「これは通じるかな……【消失(ロスト)】!!」


 こちらに飛んできていたマグマの弾丸が消え去る。


「……!! 〈龍の紋章〉は通用するのか……!確かに能力(スキル)は魔法とは全く関係ないものだが……。相変わらず分からない力だけど……これならいける!!」


 神の使役獣は絶対に死なない。恐らく【消失(ロスト)】を使っても、関係なく復活するだろう。だが、羊主を操っている何かを消した場合、羊主の操られた状態は解除されるのではないか? やってみる価値は十分にある。


「もう1回、【消失(ロスト)】!」


 十八番と言っても過言ではない能力を使う。見た目は何も変化しないが……羊主は動きを止めた。これは……。


「……あれ? 私、意識を……?」

羊主(エンペラー)、意識を取り戻したんですね。」

「……貴方、先に行ったんじゃ?」

「いつまでも来なかったので、僕が戻ってきたんです。案の定、神の使役獣らしきものに操られて、門番を復活しそうになってましたね。」

「いつの間に私は操られてたのかしら。」

「分かりません。ですが1つ吉報はあります。〈龍の紋章〉は神の使役獣にも通用するようです。」

「それは本当!?」

「はい、羊主(エンペラー)を解放できたのも【消失(ロスト)】を使ったからですから。」


 それよりもあの門番は生きているのか? 操られた羊主が門番に触れようとしていた事を考えると、門番は動きを止めているのだろう。だが、眠っているようにしか見えない。という事は何らかの効果で眠らされているのか。神の使役獣に通用する……つまりは能力(スキル)


 予想だが、初代羊主は神の使役獣に対抗する術を持っていた。それは能力(スキル)の一種……つまり、初代羊主も何らかの能力者であったということである。その能力(スキル)で眠らせていたのだろう。


「少し良いかしら。」

「……? なんですか?」

「考え事をしていたようだけど、何か分かったの?」

「この門番は寝ていますよね。羊主(エンペラー)が操られていた時、門番に触れようといました。羊主(エンペラー)の身体を使って、恐らく門番を起こそうとしていたのでしょう。ですが、門番は神の使役獣。神の使役獣を眠らせることのできるのは能力(スキル)以外にないという事です。」

「つまり……これを眠らせたのは」

「初代羊主(エンペラー)の可能性が高いという事ですね。」

「何者なのかしら。」

「それは今は置いておきましょう。門番から離れて下さい。」

「え?」


 今の羊主は門番に触れようとしていたせいで、かなり門番から近い。僕は門番を見ていたから、何が起こったのかも分かっていた。


「僕が来るのが一足遅かったようです。どうやら門番は起きるみたいですよ。」

「くっ……!」


 急いで羊主はその場から飛び去る。門番はゆっくりと目を開いた。神の使役獣は異形。門番もその例外ではなく、門番の目は頭らしき部分に4つ、胴体らしき部分に3つ、腕、足らしき部分にそれぞれ2つ付いていた。まさしく異形である。


「……」


 手を挙げる。これは先程の羊主と同じ行動。


「気を付けてください。掠めるだけで肉体を溶かすマグマの弾丸を飛ばしてきます。」

「そんなの……反則でしょう。」


 早速一発放たれる。羊主は既のところで回避をした。背後の壁が大きく溶ける。溶け跡を見るだけで冷や汗が出てくる。狡い力だ。神はこの世界の均衡を破壊して、何を起こそうとしているのだろうか。僕はどこかで見ているであろう、神に疑問を唱えていた。







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