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3 - 14.『God's Creation Beast』

3-14.『神の使役獣』

 騒がしい鼻息を鳴らしながら、その門番は眠っていた。小さな怪物と同じく、このようには絶対に存在しないであろう異形で、見るだけで精神を食い散らかされるのではないかと思ってしまう。


「これで帰りましょうか。」


 羊主の提案に僕達は頷く。流石にここで門番と戦うのは、戦力不足である。精鋭を集めたとは言え、集団戦でも役割を分けなければ、ただの烏合の衆にしかなり得ない。虚しく全員が死んでしまうだけだ。


「皆さん、シーナに着いて、取り敢えず上がれる階まで上がりましょう。帰りは穴を昇るのは難しいです。迷宮を攻略するしかありません。」


 ここで何も知らない冒険者は、迷宮を破壊して登れば良いと言うだろう。だが、それは物理的にも理論的にも不可能なのである。


 まず物理的に言えば、ものすごく硬いのだ。どんな鉱石が混ざっているのか、それを調べるために採掘することすら出来ないのだ。


 更に理論的に言えば、もし破壊が出来たとしても瞬きするよりも早くに修復される。迷宮は魔力の貯蔵庫と言われる事がある。それは体力の魔力を保有しているからであり、それが破壊されると外に大量の魔力が流れ、大気のバランスが崩れてしまう。だから迷宮はそうならないように、一瞬で修復されてしまう。


「上には小さな怪物も居るわ。貴方が前を走って。私は殿(しんがり)になるわ。」

「……じゃあお願いします。」


 僕はシーナを先頭に既に走り出していた探索部隊の後を追い掛ける。羊主は少し待ってから、探索部隊とは距離を空けつつ、迷宮を登っていくようだ。


 1人で大丈夫なのか? さすがに僕が【停止(ストップ)】を見せてるから、羊主も同じ能力は使えると思うけど、最悪なのは門番に追い掛けられた時だ。小さな怪物とに挟み撃ちにされれば、〈龍の紋章〉で死ぬ事は無いものの、誰が助けに来るまで一生殺される痛みだけを浴び続けるような地獄になる。


「【追跡の陣】を置いておくか。」


 羊主には見つからないように、札を背中に貼っておく。気付かれたか、一瞬反応を伺ったが、どうやら見つかっていないようだ。これならまあ一安心だろう。僕は探索部隊の後を追いかける。


「何処まで行ったのかな。」


 正直、探索部隊はぎりぎり視界に入っている程度である。岐路に差し掛かれば、どちらに行ったか分からなくなる可能性がある。そうなる前に追いつかなくてはならない。【快速の陣】を発動した状態で、僕は【音速】を発動した。どうやら違う魔法の種類でも効果の重ねがけは出来るらしい。


 それにしても羊主が追い掛けて来る気配はない。【追跡の陣】を見ても一向に動いていないのだ。羊主が何がしたいのか、分からない。だが、任せたのに戻って行くのは羊主を信頼していないということを暗に伝えることになる。それだけは避けておきたい。


 どうにか羊主が無事に追い掛けてくることを祈るばかりだが、どうやら僕の方も心配は出来なくなってきているようだ。徐々に距離が狭まっている、探索部隊の前方に小さな怪物が見えた。僕は軽く【転移の陣】を使う。


「よいしょっと。」


 小さな怪物とシーナの間に入るように僕は転移した。シーナは驚いていたが、小さな怪物は表情が読めない。やはり見るだけで精神がやられそうになる。


「【停止(ストップ)】! さあ、行ってください。」


 一瞬、小さな怪物が停止している間に急いでその場を駆け抜ける。遅れた者が居ないか、時折確認する。だが、精鋭だけを集めた甲斐があったようだ。皆が魔法に慣れている。緊急事態にも慣れている。ここに居るのはベテランの冒険者ばかりなのだろう。


「ロムス!」


 僕はシーナの後ろを走っていると、サグルが後ろから横に来て、横並びで走る。


「サグルさん、どうかしましたか?」

羊主(エンペラー)、良いの?」

「大丈夫ですよ。」

「ロムス、次!」


 シーナの声に驚いて前を見る。ペースが早くないか? 先程よりも遅い速度で走って、出会う頻度が上がる。持ち場があるという推測は間違いだったのか?


「【停止(ストップ)】!」


 すぐさま左手の〈龍の紋章〉に触れながら思考を働かせる。小さな怪物と神の使役獣だ。人には予測できない行動をする可能性は大いにありえる。


「う、後ろからも来てるぞ!」


 後方に居た探索部隊の冒険者が叫ぶ。挟まれた?


 小さな怪物な不可解な行動に次の策を考えつかない。慌てずに息を整える。今は目の前の小さな怪物を止めて、移動しているがもう1体に追いかけられている。まだ大丈夫。


「振り向かずに走れ!絶対に立ち止まるな!」


 もう1体現れた。迷宮で何が起こっているんだ……? 僕は探索部隊の最後尾で背後から追い掛ける小さな怪物との距離を空けながら、挟み撃ちしようとする小さな怪物を【停止(ストップ)】させる。


「キリがない!」

「ロムス、今は93階だ! そろそろ小さな怪物も出なくなる!」


 サグルの言う通りだ。僕の話でも行きの時も93階になるまでは出てこなかった。となれば、後は楽になるだろうか。


 探索部隊の前から現れた小さな怪物をまた1体止めると、92階に辿り着いた。ここまで来れば……!!


 周囲を見る。小さな怪物は居ない。


「一旦、休憩を挟もう。ここで羊主(エンペラー)を待つ!」


 すぐさま周囲に【防壁の陣】【不可視の陣】を張り巡らせる。


「この範囲外に出ると、近くにいる小さな怪物に見つかる可能性があります。出来るだけこの中で。」

「おい、神の使役獣にそんなの効くのか!?」

「確かに効くかどうかは分かりませんが、無いよりはまだ良いと思います。それと僕は羊主(エンペラー)の所に戻ります。サグルさん、皆さんをお願いします。」

「あ、ああ……分かった。」

「すぐに戻ってきます。」


 僕は【転移の陣】を使う。一度言った場所なら転移で一発だ。僕は最奥部の前の空間まで戻ってきた。そこには門番を起こそうとする羊主が居るのだった。







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