3 - 13.『Dungeon』
3-13.『迷宮』
「じゃあ厄災は、無限の再生能力、急速成長、魂の捕食があるの?」
「はい、その通りです。僕が2回厄災と遭遇した時も、1回目よりも2回目の方が明らかに攻撃威力や速度が高く、身体も大きくなっていました。」
これはモリスさんの所で修行をしている時に知った〈墓場の世界〉に関する情報の1つだ。どうやらこの世界は様々な世界から人々が迷い込む〈墓場の世界〉だと簡単に片付ける事は出来ないようだ。様々な秘密が存在する、とモリスさんは言っていた。
だけど、僕の目的はあくまでもこの世界から出て、元の世界に戻ること。3年間もこの世界に居て、元の世界がどう変化しているか、怖くて想像もできないが、現実から目を逸らす事はしたくない。
「じゃあ行きましょうか。」
「貴方……分かってたの?」
「はい、最初から予想はしてました。古城から怪しい人影が出てきたのが、決め手ですが。」
「そうなの……。一応、その不審者を探しに行った班は、まだ帰ってきてないけれど、取り敢えず最奥部の手前まで行ってみましょう。門番が居るのかどうかも確かめないといけないでしょう?」
「そうですね。なるべく時間を掛けたくないので、少数精鋭で行きましょう。」
「私も賛成よ。」
僕と羊主は即座に分けていた部隊を戻して、迷宮探索の為の部隊の人員を決めていった。羊主は人狼局から参加する冒険者の一覧を貰っていた為、実績や実力など確かめずとも、簡単に選ぶことが出来た。
「2人は?」
シーナとサグルにも尋ねる。3年間の事を僕は知らないけど、明らかに人狼局の2人に対する評価は高い。恐らくかなりの実績を積んでいるのだろう。3年間に何があったのか、今度聞いてみたい。
「私はついて行く。」
「僕も行くよ。」
2人の返事に僕は頷く。2人が来てくれれば百人力だろう。他の冒険者には悪いが、人狼局の記録でも2人は他の冒険者とは比べものにならないほどの実力と実績があることが証明されている。身内贔屓のようだが、判断は人狼局の記録を元にしている。第三者の目も入れば、正確と言わざるを得ないのではないか。
「これで決まりですね。」
「そうね。全部で20人ね。行き方はどうするの?」
「先程話しましたが、〈風の迷宮〉は最奥部から風が上層に吹いています。落ちれる所まで下に落ちましょう。途中で勢いが風に相殺されて、止まるはずです。」
「賭けね……。」
「でもそれが1番速いです。」
「私は貴方みたいに度胸がないの。」
「そうですか。じゃあ僕は行きますよ。」
待っていられない。僕は迷宮への入口へ向かった。だが、他の人は誰も迷宮の入口が分からないだろう。渋々といった様子で羊主が僕に着いてくると、探索部隊の全員がその後ろから着いてきた。
「入口は街の中央の広場です!全員、これを踏んで下さい!」
僕は【快速の陣】を施した札を皆に投げる。羊主は要らないと首を振ったが、取りに行くのも面倒なため、無視しておく。不満そうだが、羊主は札を踏んで、発動させた。皆の速度が上がった所で、すぐに広場に辿り着く。
「確か広場中央の泉の噴出口だっけ。【紫電】」
美しい女性が持つ水が流れ出している水瓶へ【紫電】を発動させる。放たれた電気は水瓶の奥へ当たる。何かが動いた音がした。成功だ。水瓶から水が出なくなる。そして、泉全体の姿が消える。高度な魔法が施されているようだ。
「大穴が……」
先程まで泉だった所は全て穴になっていた。確かに下から風が吹いている。これが風の迷宮。どうやら入口は小さいが、中はこの数倍の広さはありそうだ。
「多分誰も行かないと思いますので、僕が1番に飛び降りますね。……よっ、と。」
何かあれば魔法で勢いを殺す事もできる。重力を感じる。かなりの勢いで落ちているように見えるが、やはり少しずつ勢いが弱まっている。
「やっぱり最奥部に居るんだな。」
ある地点で全く動かなくなる。下の風で身体が浮いているのだ。僕がしばらく待っていると、後から羊主、サグル、シーナとその他の冒険者も全員飛び降りて来た。悲鳴を上げている冒険者も居るが、まあそれは仕方ないだろう。怖いものは怖いだろうから。
「これで全員よ。」
「分かりました。それではここからは迷宮攻略です。小さな怪物も出てきますので、気を付けて下さい。倒しても死なないのは言った通りです。まずは最奥部に行くことだけを考えましょう。」
僕は1つの扉を開く。恐らくこの扉に深い意味は無いだろう。モリスさんが僕に話してくれた昔話通りであれば、魔力の風を読めば最奥部まで行ける。
「確かに魔力が流れてきてますね。」
「本当ね。でもかなり魔力が薄いようね。別の事に気を取られると、すぐに見失いそう。」
「ロムス。」
僕と羊主が話していると、シーナが僕の事を呼んだ。どうしたのだろう、とシーナの方を向くと、そこには明らかに空想上でしか登場しないような存在が浮いていた。
「……精霊?」
「うん。私が知り合った迷い人の人に教えてもらったの。私には適性があるみたいだから。〈精霊式魔法〉。」
「シーナの呼ぶ精霊は魔力が薄くても良いのか?」
「精霊は〈魔力〉と〈霊力〉を併せ持つの。魔力はかなり薄いけど、霊力は普通にあるみたいだから。」
「じゃあお願いするよ。シーナは僕と羊主の後ろを走ってくれる? それで方向を指示して欲しい。敵が来たら僕達が迎え撃つから。」
「うん、分かった。」
まだ【快速の陣】の効果は切れていない。シーナの指示の元、僕達は全速力で階層を下っていった。そして、昔話通りに小さな怪物が現れる。
「これが小さな怪物か……。確かに怪物だな。この世のものとは思えない。」
醜い。この一言で片付けるには何処か違和感のある存在。醜く、吐き気すら催すような不気味さを持っているが、それでも何処か完成されていると感じてしまう。間違っていないと思ってしまう。これが神が創ったという事に他ならないという事か。
「羊主、僕に任せてください。【停止】。」
左手の〈龍の紋章〉を抑え、能力を発動する。これも僕が3年間で発見した能力。一瞬だけ対象の動きを強制的に停止させるもの。
止まるのは一瞬であるが、それだけあれば【快速の陣】を施した僕達が全員通り抜けるのは造作ない事だった。
「一見使えなさそうな能力だけど、使いようによってはかなり強い能力に化けるわね。教えてくれて、ありがとう。」
「いや、別に教えても【逆行】使えば良いので。」
「人の感謝ぐらい素直に貰いなさいよ……。」
かなりの確率で小さな怪物と遭遇したが、その度に【停止】で動きを止めた。仮にでも神の使役獣と戦う羽目にならなくて良かった。
僕達は足を止める。行き止まりになったからだ。
「ここは行き止まり?」
「ううん、この奥だよ。」
「……という事はこれは扉か。」
どう見ても壁にしか見えないが、手で押すと開いた。隠し扉になっていたようだ。扉を抜けると、大きな空間に出る。
「ここが最奥部の前か。」
目の前には巨人すら通れそうな巨大な扉。そしてその前には上の階層で見たのと同じ異形な存在……門番が鼻息を立てて眠っていた。
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